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進路と学生時代の思い出



 ものすごく長い一日だったように思える。まだ終わったわけじゃないけど。

 そんな帰りの馬車の中、向かいの席に座ったロンルカストへ風の講義の報告タイムが始まった。因みに外の御者席は相変わらずフィンちゃんに取られている。



「お帰りが遅く心配致しました。何か問題があったのですか?」



 そう言ってロンルカストは眉を下げた顔を向けた。きっと他の生徒たちが次々と帰ってくる中、いつまで経っても演習場から戻って来ない私に何かあったのではとヤキモキしていたんだろう。

 そんな彼へ心配かけて申し訳ないと思いつつも生返事をした。



「問題ですか? んー、問題というかなんというか……」

 


 だってまだ頭の中は突然のプロポーズにふやけきっている。

 リスペリント先生が私のこと好き? リスペリント先生も私のことが好き? 夢じゃないよね? うぅっ、また顔が熱くなってきた。



「ミアーレア様? 顔色が優れないように見えますが、もしや体調を崩されたのですか?」


「あ、いえ、大丈夫です。なんだか色々ありすぎて。もう何から報告すればいいのか、分からないくらいです」



 体も(ほう)けているのか力が入らない。

 グデーっと馬車の座席に横になったまま返事をする私は相当疲れているように見えたらしく、お行儀の悪い行動へいつもなら注意を促すロンルカストは何も言わずに話を進めてくれた。



「そうですか。では、ことの始まりからお聞かせください」


「分かりました。えーっと、はじまりは攻撃魔法の練習中に、誰かの魔法が暴発(ぼうはつ)して巻き込まれ、危うく怪我をしそうになったことです」


「まさか、そんなことがあったのですか。お怪我がなくて何よりです。しかし、そのような危険な講義体制には苦言(くげん)(てい)さねばなりません」

 

「あっ、いえっ、嘘です! 言いすぎました! あれはちょっとした事故です! 怪我も何もなかったので、苦言はしないでください!」



 水を得た魚のように、講義への抗議を提案するロンルカストへ待ったをかける。

 あれはレオ様が故意に私を狙った可能性が大だもん。例えばお得意の月魔法の影を駆使して放った斬撃を途中まで隠していたとしたならば、こっちからは見えないわけだしそんなのどんなに注意しても防ぎようがない。

 リスペリント先生は悪くないのに、イチャモンをつけるようなことはしたくなかった。


 っていうか隠すのが得意な月の魔法って、使い方によってはすごく危険だよね。

 ちゃんと使える人は少ないみたいだけど、ユニフィア先生は月魔法は隠すほかにも(あざむ)いたり全く他のものに見せかけることもできるって言ってた。改めて考えるとそれらは犯罪にうってつけだ。



 うーん。もしかして月属性が強い人を中央が集めているのは、危険人物の管理的な意味合いもあるんじゃないかな?

 中央へ呼ばれた本人はエリートコースで外聞が宜しいし、その人が元々いた領内も危険人物が居なくなって安心。

 あと中央は、んー……その領の領主へ恩がうれるとか? お前んとこの危険なやつはこっちが預かってやってるんだから感謝しろよてきな?

 


 強い月属性に対する中央招致システムの裏側について考えていると、ロンルカストの渋々とした声が聞こえた。

 


「そう仰るのでしたら、しょうがありませんね」



 そうだ。今は講義の話だった。

 そしてなんでそんなにロンルカストは不満顔なのか。念のためもう一度釘を刺しておこう。


 

「本当に本当に抗議に行くのはやめてくださいね? それに、大変だったのはその後です。騒ぎを見たレオ様が講義に乗り込んで来てですねーー」


()()()()()()()()()()様です。馬車内とはいえ、気を抜きすぎですよ。また普段からそのような呼び方をなされますと、いざという時に呼び間違えてしまう可能性もあります」


「はい。ごめんなさい。……えっと、乗り込んできたレオルフェスティーノ様に危うく連行されそうになったんです。まぁ、それは大丈夫だったんですけど。今度はそれを阻止しようとしたリスペリント先生とレオルフェスティーノ様が口喧嘩を始めて、すごく怖かったです」


「はぁ。生徒たちの前でそのようなことをなさるとは、レオルフェスティーノ様も訓練中で気が(たかぶ)られていたのでしょうね。それで決着はどうなったのですか?」

 


 さりげなくレオ様をフォローするロンルカスト。契約魔法の縛りなのかなんなのか、あんなのを(かば)わなきゃいけないなんて不憫(ふびん)だ。

 


「口喧嘩では収まり切らずにあわや戦闘になりかけましたが、巡回班から魔の発生報告がきて有耶無耶になりました。レオルフェスティーノ様が喧嘩を切り上げて、魔の討伐へ向かったんです」


「そうですか。騎士団長と風の副部隊長の戦闘は大惨事に繋がること必至です。その状況が回避されたことは良かったのですが、止めたのが魔の発生とは手放しでは喜べませんね」


「報告によると魔は三体も出たそうですよ? 大型が一体、小型が二体と連絡に来た騎士は言っていましたが、レオルフェスティーノ様はもっと潜んでいるかもと呟いていました。あ、それで私は少し休んでから個別で補習を受けたので、帰りが遅くなりました」


「承知いたしました。お疲れのところ報告をありがとうございます。しかしまた魔の発生とは、はぁ……近頃はかなり多いですね」



 そう言って馬車の窓から空を見上げる黄昏(たそがれ)ロンルカストを横目に見ながら、中央へ行く話やプロポーズを受けたこと、そしてレオ様の黒い話関連のことは言ってないよねと、心の中で話した内容を確認した。

 もし勘の良い彼が気がつくような事を言ってしまったら、契約の縛りできっとレオ様に報告されて阻止されてしまう。


 うん、言ってない。大丈夫。

 そして考えるとふやけてしまいそうになるプロポーズのことも、一旦頭を冷やしてから考えようと無理やり頭の片隅に追いやり、ロンルカストと同じく馬車の窓から空を見上げた。



「……ロンルカスト、私が今後進む道なのですが行きたい方向があるんです」



 彼から感染した黄昏のままに、ポロリと口から言葉が出た。

 空から目を離し私を見た彼は、不思議そうな声を出す。



「急にお心を決めるとは、どうなされたのですか?」


「んー。確かに急ですけど、前から決めなきゃなって思ってたんです」



 まぁ、火の講義でしっかりと自分の道を見据えて励むハリーシェアを見て焦ったのは確かだけどね。



「さようでございますか。どのような道に進まれたいと思っていらっしゃるのでしょうか」



 自分で話を向けたのに、改めてそうロンルカストに聞かれると、高二の三者面談の前に親へ自分の進路を伝えるときのような照れ臭さを感じた。……あれ? 私、どうやって親に薬学部に行きたいって伝えたんだっけ? んー、よく思い出せない。


 そういえば最近は、ほとんど前世のことを思い出さない。といっても思い出していたのは職場のブラックなことばかりだったが、こうやって知らないうちに前の世界のことを忘れていくのだろうか。

 なんだか自分の中の一部が失われていくようで、底知れない恐ろしさを感じた。


 失いかけているものを少しでも取り戻すべく、記憶の扉を叩く。



 えーっと、職場の薬局時代だとまたダークな鬱憤(うっぷん)が甦っちゃうだろうから、そうだ! 女子高生時代のキャッキャウフフな学生ライフを思い返そう! 



 そう思い脳内の錆びたタンスを無理やりこじ開けて思い出を引っ張り出す。すると教室の端っこで一人黙々と購買で買ったパンを食べている思い出がフラッシュバックしてきた。



 むむっ? なんで私、一人でお昼を食べてるんだろう? お友達はトイレかな? 



 不思議に思い開いたタンスを引っ掻き回すも、出てくるのは同じようなパンをモソモソと一人で口に詰め込む自分の姿だけだった。勘の悪い私も流石に気がつく。



 ……あ、うん。そうだった。私、学生時代は結構なボッチだったんだ。



 そう自覚すると何故だろうか、立て付けの悪かったはずの他の引き出しも次々と開いていった。


 一人で登校する自分。授業の合間の休み時間をボーッと空を見上げてやり過ごすか、意味もなく机を見つめていた自分。体育で誰かと組まなければならない時は、腹痛と偽り保健室に逃げていた自分。授業で先生から話し合ってくださいと言われた時は、体を小さくして意見を言えない自分の存在感を薄めていた自分。授業が終わったら即行で教室から離れて下校していた自分。家に帰りたくなくて区の図書館で有り余った時間を潰していた自分……。


 

 あー、いやいや!? 今思うとボッチって逆にメンタル強いよね!

 ま、まぁおかげで勉強しかすることがなくて薬学部の特待生もとれたし! 高い学費も気にせず大学へ行けから良かったよね、うんうん!


 それにほらっ! 暗い高校生活とはバイバイして、心機一転大学デビューのキラキラ女子大生してたって線もあるかもしれな……あっ、うん、そっか。大学では講義で使う教材代が高すぎて、サークル入る余裕もなくバイトしてたんだった。


 しかも普通のバイトは人と関わるから出来なくて、代わりに工場での単純作業バイトオンリーを選んでいた。

 時給が安い分おのずと拘束時間が伸びて、結局大学でも講義が終わったらバイト三昧の苦学生だったかな。あはは……。



 あれれ、どうしよう。学生時代も思い出したら出したで悲しいやつだった。

 メンタルが深くやられそうになった私は、開けてしまった脳内の引き出しをそっと閉める。

 今日はやめてまた心に余裕がある時にこういうのは思い出そうと、さっきの婚約の申し出を受けたことと一緒に後回しボックスにポイした。



 ふぅ。無駄に疲れた。そしてかなり待たせてしまっているロンルカストへと向き直る。

 彼は私が言い(よど)んでいるのを、今後の道への深慮(しんりょ)を巡らせているとでも思っているのかジッと待ってくれていた。

 ごめんなさい。ただのパンドラボックス開けてただけでした。平謝りしつつ口を開く。

 


「私、騎士団の風の部隊に入りたいです。これからは守られるだけじゃなくて、魔と戦ってみんなを守れるようになりたいと思っています」



 思い返せば私が貴族になると決めた目的は、恐ろしい魔からみんなを守りたいという想いだった。

 風の部隊への入隊は、その想いを直接的に叶えられるので当初の願いに適しているものだと思う。と、都合よく理由付けしてみたものの、恥ずかしながらリスペリント先生の横にいたいという想いが一番強い。


 この領でも中央でも、同じ部隊にいれば彼を守ったり力になれるはず。ま、まだ、正式にプロポーズの返事をしたわけじゃないけどねっ!

 とにかく守られるだけではなく、お互いを助け合える存在になりたいと願う心はロンルカストに伝えずに胸へと秘めておいた。


 それに今日知ったけれど騎士団には女性の騎士もいた。ハリーシェアも火の部隊に入るみたいだし、女の私が騎士団を希望するのもそれほど突拍子のないことじゃないよね?

 体力的についていけない筋トレ部の火の部隊に入るよりかは、ずっと現実的な考えだと思う。そう考え、ロンルカストを見る。



「そうですか、風の部隊ですか。立派な心構えと存じますが、これから長く歩む道を決めるにあたり、早急に決断なさる必要はありません。この件につきましては改めて時間を(もう)け、またゆっくりと話し合いましょう」



 その言葉からはなんとなくだけど、私の示した方向性についてロンルカストは賛成じゃないんだと汲み取れた。

 他の人からは同じに見えるだろうが、いつも一緒に過ごしているお陰か彼の笑顔が微妙に強張っている差異を感じた私は、彼がなぜそんな顔をしているのか分からず想像と違う反応に困惑を深めたのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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