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風の補習と真っ黒な話



「レアース!」



 (うれ)いがなくなったお陰もあり、杖の先から飛び出した斬撃はザシュッと音を立てて調子良く的の中央近くに突き刺さる。

 うん、いい感じだ。余裕ができた私は、雑談まじりにふと思いついたことを聞いてみた。



「そういえば、リスペリント先生はロンルカストやアルトレックス様と同じ年の蕾ですよね? 少しお話が変わりますがお伺いしたいことがあります」


「えぇ、そうです。私に応えられることならば良いのですが、なんでしょうか?」


「実はレオルフェスティーノ様の影を暴いた時に、教室内に零したベルクム粉がある女の人の魔力と反応してしまいました。私の意図しないところで偶然繋がりができてしまい、その人の過去の記憶を夢で見るようになってしまったんです」



 大きく目を見開いたリスペリント先生が、マジマジと私を見る。いつもの静かな声を少しだけ大きくして、といっても普通の人くらいのボリュームだけど私にこたえる。



「それは大変興味深い話です。記憶を夢で見るほどに繋がるとは、ミアーレアのベルクムはとても強い力を持つのですね」


「そうみたいです。ユニフィア(陽の講師)先生も他の人のベルクムには私ほどの力はないと仰っていました。ベルクム粉の効果をたつ薬を飲んだので今はもうその夢は見ないのですが、何度か記憶を覗いてしまったせいもあり、彼女がどんな人なのか気になっているんです」



 少し考えるような素振りをみせた先生は、それでも補習中であることを思い出したようで私から視線を外し正面を向く。

 下位魔法がしっかりと的を捉えたことを確認して軽く頷いた。次の魔法を私に促しながら不思議そうな声を出す。



「ミアーレアが夢で見た記憶の持ち主の女性を探していることは分かりました。ですが、なぜ私にその方のことを聞くのですか?」



 私は中位魔法の構えのポーズをとりながら答える。



「はい。その人の記憶の中に南の講義室の場面がありました。そこで同じ講義を受けるロンルカストやアルトレックス様が出てきたんです。ですので2人と同じ年の蕾のリスペリント先生なら、その方のことをご存知かなと思い質問しました」


「なるほど、そういうことですか。ですがロンルカストには尋ねなかったのですか? 交友の広い彼ならばこういった件に適任だと思いますが」


「ロンルカストからは彼女が数年前に亡くなったとだけ聞きました。それ以上は聞きづらくて……」



 レオ様との契約魔法に何かしらが引っかかるから彼はそれ以上のことを話せないのかも、という推測は秘密にしたが今言ったことも本音だ。

 方向性はねじ曲がっていたものの、彼女はロンルカストへ熱烈な好意を寄せていた。

 自分に好意を寄せながらも死んでしまった相手の話を蒸し返されるのは、良心の呵責(かしゃく)(さいな)まれるのではと思い、私はロンルカストへこの話を切り出せなかった。



「あぁ、彼にも制限がありますからね。私は二つの講義を取っていましたが、ともにロンルカストとアルトレックスの姿はあったと記憶しています。彼女が私の知る人物であれば、可能な限りお教えしますよ」



 言外にあっさりとロンルカストの契約魔法のことを示唆(しさ)したリスペリント先生に、やっぱり知ってたんだと無駄に気を回してしまった自分に拍子抜けしつつも、杖を握る手に力が入る。


 やった! ついに彼女の手がかりを掴んだ!

 早くその人の情報を知りたい。彼女はどんな人だったんだろう? 想いを馳せながら早口で呪文を唱える。



「アースオレイテュアー! ……ぜひ教えてください。彼女は一番後ろの列の扉の近くの席に座っていました。なんの講義かは分かりませんが、講師は女性です。お付き合いをしていた男性もいたようですが、その方は何年か後にエーダフィオンの元へ還られたようです。私がわかる情報はこれくらいなのですが、どうでしょうか。先生は彼女のことが分かりますか?」



 放った斬撃はズバッと的の端に当たった。的を捉えた結果に対して私は満足したが、納得のいかなかったらしいリスペリント先生は私が持つ杖の角度を微調整しながら答える。



「扉の近くですか……はぁ、すみません。私は二つの講義を最前列で受けていました。加えてその頃はエーダフィオ(土の精霊)ンの蔓が近く他の蕾との交流も深くなかったため、前列はともかく後ろの列の蕾たちには明るくないのです。期待に応えることが出来ず申し訳ない」


「あ、そんな、謝らないでください。……すみません、今仰ったエーダフィオンの蔓が近いというのは、どう言う意味でしょうか?」


「あぁ、それは体が丈夫ではなかったと言う意味です。昔はよくエーダフィオ(土の精霊)ンの元へ還るのは私だと言われていましたが、先に彼女の蔓に(いざな)われたのは妹の方でした。イリスフォーシ(陽の精霊)アが導く未来というのは誰にも分からないものですね」


「……申し訳ありません。以前にも先生の妹さんがエーダフィオンの元へ還られたと仰っていましたのにこんな話をしてしまって、その、私、配慮が足りなかったです」


「もう何年も前の話ですので、気にする必要はありませんよ」


「ですが……」


「また余計な話をしてしまいましたか。私は貴方といるとどうも口が軽くなるようです。……そうですね。これは期待を持たせてしまった私の責任です。お詫びも込めて、同じ講義を受けた他の蕾から彼女についての情報を集めてみましょう。判明したことがあればお伝えしますね」



 そう言って、リスペリント先生は私にもう一度呪文をとなえるよう促す。

 なんだか律儀な先生に、恩ばかりが積み上がっていく気がした。申し訳ないのも失礼なことを聞いて謝らなければいけないのもこちらだが、彼女の情報をもらえるのはものすごくありがたい。

 的へ意識を集中させるふりをしながら、線が細くいつもどこか儚げな先生をチラリと見る。

 先生のこの雰囲気は昔病弱だった名残りかもしれないと納得してから呪文を唱えた。



「アースオレイテュアー! ……先生には感謝してもしきれないです。本当にありがとうございます」



 ズバッと的の真ん中に命中した斬撃に、今度こそ大きく頷いた先生は、急に顔を曇らせる。

 少し声を顰めて、不穏な言葉を紡いだ。



「いいえ。大したことではありません。……それと貴方が影を付けられた理由ですが、一つ思い当たることがあります」


「えっ、本当ですか!? 教えてください!」


「これは私の推測ですので、一つの意見として聞いてください。……レオルフェスティーノ様が領主ではなく、副領主の座になられた経緯は知っていますか?」

  

「はい。先代領主様が突然にエーダフィオンの元へ還られた後、一時的にレオルフェスティーノ様を領主へとの声が挙がったそうですね。ですが継承順位にならって、あとは先代領主夫人の正室の蕾かどうかの話もあり、結局は序列に従いティアモローラ様が現領主、レオルフェスティーノ様が副領主となられたと聞きました」


「それはあくまでも表向きの話です。内情はかなりの攻防の末、ティアモローラ様が辛勝なさいました。ですが彼は今でも領主の座を狙い、東の派閥はそのために裏で動いているというよからぬ噂もあります。現に彼は女性領主に反感を持つ一部の勢力も取り込みつつあるとか」


「そ、それは、まさか現領主に対する反乱ですか!?」



 急に真っ黒な話になった。

 杖を下ろした私の代わりに、いつのまにか右手に杖を持っていたリスペリント先生が、的へ向かって杖を構える。視線は私に合わせたまま、的を見向きもせずに呪文を唱えた。



「アースオレイテュアー!」



 大きく光った先生の杖先から、数多(あまた)の風の刃が目にも止まらぬ速さで飛び出す。


 機関銃のように連射された斬撃は的の中心、さっき私が軽い傷をつけた箇所と寸分違わぬ場所に全て命中し、ズガガガガッと聞いたこともない音を立てながら分厚い的を抉る。

 圧力に耐えきれなかった的は、それを支える台の根本からポッキリと折れるに留まらず、バラバラに粉砕しながら騎士たちが訓練を重ねる演習場へと吹き飛んでいった。



 え? ちょっと待って、これさっき私が放ったのと同じ魔法だよね?

 

 

 私と同じく突然押し寄せてきた木片に驚く演習場の騎士たちからスッと目を逸らしたリスペリント先生は杖を下ろす。やりすぎてしまった自覚があるのか、バツの悪そうな瞳が少し泳いでいた。



「……あくまでも噂の範疇(はんちゅう)です。全てを鵜呑みにするのは早計ですが、ことが起こる前にある程度の備えや自衛は必要でしょう。そしてミアーレア、今はお隠れになっていますが貴方の使い魔は先先代領主であることが明らかになりましたね」



 いつも冷静なのに、先生もこういう失敗するんだ。意外。ちょっと可愛いなぁなんて……ん? なんで先生は急にルディーの話をしただろう? 

 先生の普段とは違う一面に一瞬微笑ましく思ってしまった私は、今はそれどころじゃないと意識を切り替える。そして驚きの事実に気がついた。

 


「も、もしかしてそれは私が東の派閥にいることでレオルフェスティーノ様を領主へと押し上げる一助になるということですか!?」



 嘘でしょ!? まさかと思い、見上げた先のリスペリント先生の瞳は肯定の色をうつしていた。

 知らないうちにレオ様の黒い計画の一端に巻き込まれていた私は、的を木っ端微塵にしたリスペリント先生のやりすぎ魔法よりも強い衝撃を心に受け呆然としたのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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