セルーニの初薬草園
「わざわざ骨だけを残す必要は、あるのでしょうか? それに全てを土に還さなければ、エーダフィオンの元へ戻へなくなってしまう危険性があります」
ロンルカストは、心底不思議そうな顔をしながらそう言った。
骨を埋葬して、埋めた場所に特別な石を印として置いた場所がお墓。お墓を訪れて、時々故人を偲ぶのがお墓参り。お墓がたくさんある場所が墓地。
と、私が説明した結果の反応だ。
ロンルカストへ言葉が通じなかったため、こちらの世界には、お墓や墓地、お墓参りに対応する言語がないことが分かった。
分かったけれども、埋葬って概念がないとは驚きだ。じゃぁ、どうやって供養してるんだろ?
「アディストエレン街では、普通はどう弔うんですか?」
「エーダフィオンの元へ向かう儀式を執り行った後、全てを土へ還すのが慣例です」
「全てを土に? あっ、散骨?」
「サンコツとは?」
「あ、いえ、何でもないです。粉状にした遺灰を、何処かへ撒くということですか?」
「仰られたことに近いかと存じます。それで、骨のみを残しオハカに安置する理由を、お伺いしても宜しいですか?」
「それは、その……あっ、ほらっ!? 私、平民出身じゃないですか? しかも、この街ではなくて山の中の僻地で育ったんですよ!」
「山の中の僻地、ですか? それは存じ上げませんでした」
「そうなんです! 小さな集落で、周りも山ばっかりでした!」
「さようでございますか」
「はい! なので、このやり方がアディストエレン街のやり方と違うって知りませんでした。なんで骨だけを残すのかも、昔からある風習なので、よくわかりません」
たかが平民の風習にそんなに興味津々にならないでと思いながら、言葉を返す。
「そのような独自の文化があるとは、土着の風習とはいかようにも興味深いものでございますね」
そう言ってにっこりと笑うロンルカスト。
ふぅ。なんとか納得してくれたようで、良かった。独自どころか本当は異世界の文化なので、これ以上興味を持たれても困ります。
「まぁ、ど田舎だったので……」
薬屋でも困った時によく使っていた、昔からある田舎の謎風習だよ戦法でロンルカストの追求をやり過ごせたことに、冷や汗を垂らしながら安堵したのだった。
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「吐き気も大分おさまったし、本当に大丈夫なのに」
「ロンルカスト様は、心配していらっしゃるのですよ。今朝のミアーレア様は、本当に顔色が悪くいらっしゃいましたので」
話が一段落した後、午前中の予定に変更は必要ないという私の主張は、ロンルカストによりあっさりと却下された。
強制的に、午前中は休養をとることとなり、今は自室にいる。
セルーニに着替えを手伝ってもらいながら、ぶつくさと文句を言う。
「前から思っていましたが、ロンルカストは心配症なんですよ」
「朝食もお召し上がりになりませんでしたし、私も心配です。どうぞ、ゆっくりと静養なさってください」
「うっ、それは……。分かりました」
セルーニにそう言われてはしょうがない。
しぶしぶベットで休む。
こんな時間から眠れないよと思っていたが、目を瞑るとあっさりと睡魔に襲われた。
「んー……、完全回復っ!」
お昼を告げる、4の鐘で目が覚める。
とてもスッキリした気持ちだ。2人の言う通り休んでよかったと反省した。
着替えをして、食事部屋に行く。
体調は問題ないけれど、沢山食べてまた吐き気が戻ってきたら嫌だなと思い、昼食は控え目にしておいた。
「もう治りました! 午後は予定通り薬草園に行きますからねっ!」
食後のお茶を飲んでいるとロンルカストが部屋に入ってきたので、ここぞとばかりに元気アピールをする。
「承知いたしました。少しでも体調に変化があればお知らせください」
「はいっ! もちろんです!」
やった! 絶対に無理はしないという約束のもと、午後からの薬草園を勝ち取った。
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「ふぁー、まるで夢のようです。薬草園がこんなに素敵な場所だったなんて」
小さなカゴを片手に持ち、うっとりとポメラガーデンを見渡すセルーニ。
二つ結びにした髪がふわふわと風に靡いている。その髪色は、太陽の下だといつもよりも更に鮮やかなピンク色に見えた。
初めてセルーニと一緒に薬草園にくることができた私も大満足だ。
フィンちゃんも近くの木から木へと、はしゃいだ様子でパタパタと飛び回っている。
ついに皆んなでお散歩ができた。と喜びたいが、一番この場所が好きなはずの1匹がいない。
広い薬草園をぐるりと見回し、ガックリと肩を落とす。
そうだよね、やっぱりいないよね……。
今朝は、朝起きた時から無性にルディーに、会いたかった。
もしかしたらひょっこりと薬草園にいるかもと思って、ロンルカストにも無理を通したけれど、何処を見てもルディーの影も形もなかった。
「はぁ……」
ルディーのお気に入りお昼寝スポットだった、巨大化したポメラの木の根元を見ながらため息をついていると、近づいてきたロンルカストが口を開く。
「ルディー様は、少し休まれると仰いました。心配なさらずとも、近いうちに帰ってこられますよ」
「そうですよね……」
頷いてみたものの不安は尽きない。
ハリーシェアのエアリ君みたいに、居なくなっちゃったりしないよね?
西塔廊下での、最後のやりとりを思い出す。あれが最後の別れだなんて、絶対にやだよ。
「ミアーレア様、体調が優れませんか?」
暗い顔をして俯いていると、セルーニが声をかけてくれた。
「あ、いえ、全然大丈夫です!」
折角セルーニの初薬草園なのに、こんな顔してちゃダメだ。
慌てて笑顔を作ると、ロンルカストと入れ違いにスススと近づいてきたセルーニは、チラリと彼の方を見る。
ロンルカストがこっちを見ていないことを確認してから口に手を添え、こっそりと私に耳打ちをした。
「……実はロンルカスト様には内緒で、この籠の中に焼き菓子と紅茶ををお持ちいたしております」
「えっ!? あ、これ、そうだったんですね!?」
「はい。もしご気分を崩されたり、空腹でお辛い時は一言仰ってください」
出かける時からなんか持ってるなぁとは思っていたが、中身はまさかのピクニックセットだった。
と言っても青空ティータイム用ではなく、昼食をあまり取らなかった私の体調を心配してのこと。
途中で私の体調が悪化しても、紅茶と焼き菓子なら食べれるかもしれないし、気分も持ち直せるかもと、こっそり用意してくれたんだ。
ロンルカストにバレれば、外で食事なんてはしたないと、お説教必至なのに。
それに、前回は3歩で終了してしまったセルーニの外出。
今日はほぼ初めての外出で、自分のことでいっぱいいっぱいな筈なのに、そんな中でも私のことを気遣ってくれたんだ……。
セルーニが持っているカゴを見る。
上に乗せられたクロスが、モゾモゾと動いた。
被せてある布をかき分けて、パピーの注ぎ口がひょっこりと顔を出そうとするのを、慌ててセルーニが抑える。そしてギュギュウと中へ押し込めた。
「ふふっ、外が珍しいんですね」
つい、おかしくて笑ってしまった。慌てて口元を抑え、ロンルカストの方を盗み見る。
彼は私たちに背を向けて、見慣れているはずのポメラの花を繁々と眺めていた。
……うん。多分ロンルカストにはバレている。
彼がわざとこっちを見ないようにしてるのが分かった。
2人の気遣いに、心がジンワリと暖かくなる。
ルディーが居なくなって、ポッカリと空いてしまった心の空洞。
決してその穴が埋まったわけではないけれど、穴が空いているということは、まだ残っている部分がある。心を支えている大切なものがあるんだということを、2人に教えてもらえた気がした私は、後悔ばかりに目を向けずに、目の前にある大切にすべきものをちゃんと見なければと、改めて思ったのだった。
心に空洞を抱えているミア、ロンルカスト、記憶を覗いた彼女。彼らが自分の空虚とどのように向き合ったのか、そしてどう受け止めたのか。その違いはどう現れたのか。
まだ答えの出ていない方の心の内は、近いうちに明らかとなります。
(セルーニはこの前、思いっきりぶちまけていたので外しました。悪しからず)
お読みいただき、ありがとうございます。




