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調査隊の帰還



 調査隊が、かえってきた。

 全員無事でと言いたいところだが、数名が帰らぬ人となった。


 ギルドの予想通り、魔の群れが発見された。パルクスさんが2度遭遇したのと同じ火属性、それも大型の群れだったらしい。

 調査隊が遠目から確認して、貴族から借り受けた道具を発動した後、運の悪いことに群れの一部に気づかれて交戦になってしまったのだ。

 帰還の挨拶と、使った薬の補充をしにやってきた常連さんが、「あの時は死を覚悟した」と言いながら教えてくれた。



 次々と店にやってくる常連さんの顔を確認して、不謹慎だけれどもほっとする。私の知り合いに、帰ることのできなくなってしまった人はいなかった。



「いやでも、凄かったぜ! 三体の魔に囲まれて、もうこれは無理かなってなった時、空から貴族様が現れてよ。グミットに鳥の羽がついたような奴に乗ってて、あっという間に蹴散らして倒したんだ! 特に魔と同じような火球? みたいなでかい黒いのを魔に向かってバコバコ打ってる奴がいて、三体のうちの二体は、そいつが1人で倒してたんだぜ!」



 キンフェルウォーターをがぶ飲みした後、興奮しながら戦いについて捲し立てるアトバスさんに、パルクスさんは呆れた目を向ける。

 2人ともギルドに報告した後、すぐに挨拶に来てくれた。パルクスさんの皮装備もアトバスさんのギンギラ装備もどっちもボロボロで、今回の戦いの激しさが分かる。長期の遠征だったからか髪も顔も埃っぽいし、テンションも変に高い。



「本当になぁ。お前が貴族様の戦いに見惚れてたせいで、こっちは逃げ遅れるとこだったぜー?」


「兄貴、それは言わないでくださいよ! 俺たちが殿だったから、他の奴らに戦いがどうなったか報告するためっすよ!」


「格好つけなくたって、いいんだぜー? 滅多に見れない貴族の戦いを、見たかっただけだろ?」


「ち、違うっすよー! 」



 軽く言い争いをし始めた2人だったが、とにかく無事でよかった。空になったアトバスさんのコップに二杯目のキンフェルウォーターを注いだ。

 本来、無料試飲は一杯分だけ。ドリンクバーではないのだけれど、本日は私からの帰還のお祝いとして細やかながら出血大サービスをしている。


 っていうか、黒い火球って、魔法だよね! 魔といい、魔法といい、やっぱりそういう世界なんだ、すごいファンタジック。


 いや、エルフの店で働いてる私が、何を今更言ってるんだって感じだけど、ちょっとクールってとこ以外はエルフも人間と変わらない。

 冒険者達も腰につけた剣や槍で戦うって聞いてたから、魔法的なものがあるとは思わなかった。貴族から借り受けたって言ってた道具も、GPS機能じゃなくて魔術具的なものなのかな。



「ぷはー。いやー、これ普通の水よりもうまいし、なんか頭もスッキリする気がするぜ? そういえば兄貴こそ、ミアちゃんから貰ったあの新商品、お守りとして、遠征に持っていってたっすよね!」


「おい、あれは鞄から出すのを忘れただけだ、って言っただろ!」


「またまたー。休憩地として寄った小さな町の女の子に分けてあげちゃったりして、喜んでたっすね、あの子? 兄貴って、本当に小さい女の子に優しいっすよね!」


「えっ、パルクスさんって幼女趣味?」


「こら、変な噂が立つと困るだろー! 俺はお子ちゃまよりも、出るとこ出てる大人の女性がいーのー」


「私だって! もう少ししたら、色々と大きくなりますー!」


「どうかなぁー? そういえばミアちゃんって、アロノールうけてる?」


「アロノール?」


「そっかそっか、まだかぁ。ミアちゃんは、まだまだお子ちゃまだなー」



 アロノールがなんだかは分からないが、馬鹿にされている事だけはしっかりと理解できた私は、頬を膨らませて2人に抗議した。







 ※※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※







 調査隊が帰ってきて、数日がたった。


 大型の群れが発見されて、街やギルドは大騒ぎだったが、騒ぎはすぐに収まった。群れが確認された場所が遠いため、この街に影響がないと分かったからだ。


 そもそも、魔が発見された場所もこの街のギルドには管轄外の地域の事だったらしい。それが、パルクスさんが護衛任務で通った際に、発見者になった事が2度続いたため、特例で魔が発見された地域の街と、発見者がいるこの街との合同依頼となったのだそうだ。


 街は、いつもの日常を取り戻している。

 「ギルドはまだまだ後処理で大変だけどね」とギルドの用事帰りに店に寄ってくれたロランさんは、疲れた顔で言っていたが、薬屋は、平和そのものである。


 平和と昼寝を堪能しながら、カウンターで頬杖をついて、ボーッと店番をしている時だった。



「失礼する」



 聞き覚えのあるフレーズと、聞き覚えのない声が聞こえて顔を上げる。



 目の前に、布で顔を隠したお貴族様がいた。突然の事に、心臓がひゅっとなる。


 い、いつの間に!? 足音、聞こえなかったよ!

 いや、それどころじゃないよ、お、お貴族さま!?


 この前ミグライン店長から、身分制度の恐ろしさを叩き込まれたばかりだばかりだ。貴族の鼻息で吹き飛ぶような、ペラペラな自分の命の価値を思い知った。

 その時、もう貴族には関わらないと心に決めた。なのに今、目の前に死神の鎌を持った、お貴族様がいる。


 心の中は大パニックだ。サルトせんぱーーい!!と叫んでみても、残念ながらここには私しかいない。しかも、さっき話しかけられてしまった。返事をしなければ、不敬罪で縛り首だろうか。



「よ、ようこそお越しくださいました」


「これを其方に、では失礼する」



 1枚の羊皮紙を私に手渡すと、震える私を残して、貴族さまは足早に去っていった。

 店から出て行ったのを確認して肩の力を抜く。はぁ、緊張した。滞在時間は一瞬だったけれどどっと疲れた。


 手元の羊皮紙を見つめる。

 安心したのも束の間、また心臓の音が大きくなってきた。

 どうしよう、何か渡された。これ、もしかして、やばいんじゃない?

 恐怖がぶり返してきた私は店の裏へバタバタと駆け込んだ。



「店長ーー! ミグライン店長!!」


「ミア、調剤部屋で大きな声を出すんじゃない! そんなに慌てて一体どうしたんだい?」


「今、貴族さまが来て! これを、渡されました!」


「貴族がまた? 羊皮紙をあんたに? 中には、なんて書いてあったんだい?」


「まだ、見てないです!」



 緊張しながら、蝋封されている羊皮紙を開く。パキっという軽い音と共に、蝋が割れて羊皮紙がペラリと捲れた。震える声で書いてある文字を読み上げる。



「3日後、水の日、四の刻、以下のものの城への召喚を命じる。


 ミグライン店主薬屋 見習い ミア 


 アディストエレン・ディーフェニーラ」



 裁判所に出頭を命ぜられた被告人は、こんな気分なのだろうか。そこには、城への召喚命令が書かれていた。


 静まりかえった調剤部屋で、ゴトンと薬研が倒れるた音だけが響いた。




いまいちファンタジーみを感じてないご様子。

それは薬屋に引き篭もっているから。

たぶん、ギルドの位置さえも知りません。


物語的にも、もっと行動範囲広げて欲しいところですが、家と職場の往復しかしていない私はミアに文句を言う権利を持っていないのです。



お読みいただき本当にありがとうございます!

次回は明日の夜更新致します。

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