表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/229

ポメラアロマとポメラウォーターの評価



御機嫌(ごきげん)よう、ミアーレア。貴方の考案(こうあん)した品は、春の社交界に素晴らしい(いろど)りを与えてくれましたわ」



 私からの挨拶を受けたディーフェニーラ様は開口一番、嬉しそうにそう言った。

 先日の手紙にも好評だったと書いてあったが、とても機嫌の良さそうな顔を見るかぎり、献上(けんじょう)したポメラアロマの評判は本当に上々だったようだ。



「お役に立てて、光栄に思いまーー」


「うまくやったもんだね。わざわざご夫人方まで、呼び出したそうじゃないか」



 返事をしていると、足元にいるルディーが割り込んできた。



「呼び出したなんて言い方、嫌ですわ。わたくしは“宜しければ奥様もご一緒に参加なされては”と、招待状に書き記しただけですのに」


「ふんっ。同じことだね。花の蜜に誘われない蝶はいないだろう」


「いくら隠していても、噂とは勝手に流れるものですのね。本当に困ったことです」


「あれだけフォーティアー(火の精霊)ノの足跡を残しておいて、よく言うよ」


「何のことか、わたくしには分かりかねますわ」


「あぁ、君はそう言うんだろうね」



 楽しそうに言葉を返したディーフェニーラ様に、胡散臭(うさんくさ)そうな目を向けるルディー。でも、その瞳はどこか嬉しそうだ。

 なんの話をしてるのかは分からないけど、早速イチャイチャですか、そうですか。



「ミアーレア、わたくし本当に感謝していますのよ。おかげで硬い中立派の一端を、取り込むことができたのですもの」



 ディーフェニーラ様は、急にルディーから私に目線を戻してそう言った。


 わわっ、どうしよう!? まさか、このタイミングで話しかけられるとは思っていなかった。


 私のおかげで中立派を取り込めた? え、なんで? 

 完全に会話に置いてけぼりになっていたので、いつ派閥(はばつ)の話になったのか、見当もつかない。

 でも、適当に返事を返すのは、失礼だよね? そう思い、おずおずと質問をする。



「あの、申し訳ございません。わたくし先程から、お二人がなんの話をされているのか、よく分からなくて……」


「あらあら。自分が作っているものの効果を、ミアーレアは知らなくて?」


「ポメラアロマの効果ですか? その、気分が落ち着いたりはすると思いますが?」



 そりゃアロマだもん。

 多少はリラックス効果があると思うけど、それがどうかしたのかな。



「まぁ、説明もしてあげないなんて、レオは本当に意地悪ね?」


「あの、いったい何のことでしょうか?」


「あれには、不老の効果があるのでしてよ?」


「へっ? ポ、ポメラアロマに、不老の効果ですかっ!?」


「いいえ、効果があるのはポメラウォーターの方ですわ」


「ポメラウォーターにっ!?」



 不老っ!? ポメラウォーターに不老っ!?

 そんな大層な効果が、なんで!?

 えっ、ち、ちょっと待って、私、普通に味見しちゃってたよ! 背が低めなのは、そのせい!? 私、一生子どものままなの!?



「えぇ。古来(こらい)よりポメラは不老不死の秘薬原料の一つと伝えられてきました。ポメラウォーターにのった不老の効果はほんの(わずか)かですが、(いにしえ)伝承(でんしょう)が証明されたのは、アディストエレン領にとって僥倖(ぎょうこう)ですわね」


僥倖(ぎょうこう)なのは、君の派閥にとってだろう? 美を保つ方法があると聞いて、飛びつかないご婦人はいない。ディーフェニーラは、事前に流した噂を餌としてぶら下げて、今まで動かなかった中立派を釣り上げたんだよ」


「餌だなんて、そんな。確かに新しく仲良くさせていただく家には、奥様のご意向を反映された方もいらしたようですが、ほんの偶然ですわ」


「妻につつかれて、重い腰を強制的にあげさせられた彼らの不憫(ふびん)さには、同情するよ」



 やれやれ顔でそう言ったルディーは、先程から尻尾の先をくねらせている。

 言葉や表情に反して、ディーフェニーラ様とのやりとりを楽しんでいるのが丸わかりだ。


 私はというと、不老の効果がほんのちょっとと聞いて、心底ほっとしていた。


 ふぅー、良かった。

 一瞬、永遠に歳を取らない人魚の肉的なものを作り出しちゃったのかと勘違いして、心臓が縮み上がったよ。


 さっきのルディーの説明(いわ)く、美容やアンチエイジング目的で、ご夫人方に人気らしい。

 うん、私の低身長とは関係無さそうだね。しょぼん。


 でも、まさかポメラアロマの副産物に、そんな大層な効果があったなんて、驚き。

 今回のお礼も、ポメラアロマじゃなくてポメラウォーターの方だったのか。

 

 それにしても、不老かぁ。……ん? 不老?

 あっ! そういえば最初にディーフェニーラ様にポメラを献上(けんじょう)した時、レオ様がそんな事を言ってたような、言ってなかったような? 


 うーん、あの時はいっぱいいっぱいだったからなぁ。全体的に、うろ覚えだ。

 だって、レオ様から“余計なことを言ったら殺すぞ”宣言で脅されたり、張り詰めた部屋の雰囲気に緊張してたりしたんだもん。


 それにレオ様とディーフェニーラ様の会話は、精霊の名前がポンポン飛び交ってたから、あの頃じゃ(ほとん)ど解読不能だったしね。



「今後も同じ品の製作を、お願いしても宜しくて?」



 あんまり思い出したくない記憶が舞い戻ってきて、ついボーッとしていると、ディーフェニーラ様から声をかけられた。


 追加発注の依頼だ。ポメラウォーターは、今後の派閥争いにも有効みたい。

 大変そうな派閥争いに、知らないうちに一役かってしまっている私って、はたから見たら完全に西派なのでは? まぁ、派閥知識については、さっき知ったばっかりだけど。



「もちろんです。量はいかほどご用意致しましょうか?」



 西寄りとは言え東派なのに、こんな事してていいのかなと悩むよりも前に、返事を返していた。

 だってこの状況で、ノーなんて言えないじゃん。



「そうね。ミアーレアは南の講義が始まって、手が回らないでしょう? 残念だけど、わたくしも多くは望まないわ」


「お心遣いありがとう存じます。ですがディーフェニーラ様のご要望を優先したく存じますので、問題はございません」



 ディーフェニーラ様の気遣いはありがたいけど、講義は週一しかないので、全然忙しくない。

 それに、どうせ依頼を受けるのなら、ガンガン作って収入を増やしたいと腹を(くく)った。

 ポメラウォーター製作で座学の時間を圧迫して、お勉強時間を少しでも減らしたいなぁなんて、ちっとも思ってないよ。



「まぁ、嬉しいわ。でも、本当に負担になるつもりはなくてよ? 希少(きしょう)なものは、希少だからこそ価値があるのですもの。ミアーレアも、そう思いませんこと?」



 そう言って頬に手を当てたディーフェニーラ様は、コテリと首を傾げた。

 口元に浮かべた柔らかな笑みに反して、ジッと私の目を見つめる瞳からは、有無を言わさぬ圧を感じる。


 うひゃぃっ!? さっきの解答、間違えたっぽいっ!


 質問形式だが、答えは1つしかないと理解できた。

 ディーフェニーラ様にとっては、数を絞った方が都合が良かったんだ。

 心の中でキュキュッと強めのブレーキを踏む。180度方向転換をした私は、慌てて2度目の解答チャンスに挑んだ。



「は、はいっ! わたくし、講義やその準備で時間に余裕がないことを、失念(しつねん)しておりました! 製作する時間が取れず、お渡しできる数も限られてしまうことをお許し頂きたく存じます」


「いいえ。繁忙(はんぼう)の中、わたくしこそ無理を言ってごめんなさいね? 数については、追って連絡致しますわ」



 私の答えを聞いたディーフェニーラ様は、首を元の角度に戻し、にこりと笑った。


 ふぅー。今度の解答は合格だったようだ。

 貴族の会話、難しっ! 言葉の中に隠された意味なんて、読み取れないよ。



「ご理解いただきまして、ありがとう存じます」



 シャキシャキと返事を返す。

 それ以上口を開く様子のないディーフェニーラ様に、今日の用事はこれで終了かなと悟った。


 うん。挨拶して退出しよう。


 きっと帰りの馬車内では、ロンルカスト講師による復習という名の、本日の会話の反省やダメ出し講座が開催されるだろう。


 会話用の座学が追加されるかも。という嫌な予感もした。

 あーうー。これ以上、座学が増えるのは辛い……そうだ! 先にフィンちゃんさえ捕獲(ほかく)しておけばいいんじゃない? ふと、悪い考えが浮かぶ。


 だって、フィンちゃんを強制的に馬車内へ連れ込めば、ロンルカストは空いている御者席に座るでしょ?

 そしたら、取り敢えず今日の反省会は回避できるじゃん? で、明日になったら、ロンルカストも色々と、忘れてくれるかもしれないよね?


 よし、完璧な作戦だ!


 自分に都合の良い方向性を決めた私は、大人しく肩にとまっているフィンちゃんをチラリと見る。

 真横から不穏な視線を感じたフィンちゃんは、的確な危機管理能力を発揮して、すぐさまパタパタと飛び去った。

 羽音から分かる短い飛距離から、フィンちゃんが後ろで仕えるロンルカストの肩に留まり直したことを察した私は、帰りの廊下でのフィンちゃん捕獲計画をこっそりと練ったのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ