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派閥のお勉強



「ミアーレア様は、ディーフェニーラ様と懇意(こんい)になされていますので、東派でありながら西寄りというお立場です」


「え、そんなのいいんですか?」


派閥(はばつ)の中で中央寄りや、反中央寄りのものはおりますが、2つの派閥を(また)ぐものは珍しいかと思います」



 ですよねぇー。2つの派閥の間でフラフラして、お前本当はどっちなんだって話だもんね。

 あと今、中央って言った? 確かロンルカストが元々仕えてた人たちがいた場所だよね。聞いても大丈夫かな?

 

 

「……中央派っていうのは、具体的にはどういう人たちなんですか?」


「はい。中央は、神殿やそれを守るものたちがいる領地です。中央が全ての領地の上に立ち、統括(とうかつ)すべきと考えるのが中央派。中央も平たく領地の一つだと主張するのが反中央派で、これは比較的新しい派閥です」



 顔色を変えることなく、あっさりと説明をするロンルカストにホッとする。

 中央の話は、タブーではないっぽい。



「中央には神殿があるんですか。なんだか、凄そうですね」


祭事(さいじ)を執り行う者たちが奉仕(ほうし)する、とても神聖で厳粛(げんしゅく)な場所です。七冠くぐりの儀式でも、祭主(さいしゅ)として中央のものが派遣されたかと存じますが、覚えていらっしゃいますか?」


「祭主? ……あぁ! 思い出しました。確かお年を召された方で、1人だけ違う赤っぽい色のマントをつけてた人ですよね?」



 真っ白な顎髭(あごひげ)を蓄えた、お爺ちゃんを思い出す。

 ハスキーボイスの優しそうな人だったけど、ルディーは嫌いそうだったなぁ。教会の犬呼ばわりしてたし。



「さようでございます。中央は全ての領地の、神事全般(しんじぜんぱん)(つかさど)っております。神事は年に数回行われますので、あの色のマントは、今後もご覧になる機会があるかと存じますよ」



 朱色マントが中央ね。神殿とか守ってる人と、心のメモにカキカキする。

 中央派はつまり、あれだろうか。宗教至上(しゅうきょうしじょう)主義(しゅぎ)

 対して反中央派は、宗教の特別視はやめろ的な考え方。皇族(こうぞく)も、民間人にしよう的な? 大政(たいせい)奉還(ほうかん)しちゃおう的な? ……これは、ちょっと違うか。念のためロンルカストに、確認しとこう。



「中央派と反中央派は、信仰と政治の力関係を示してる、ということでいいですか?」


「ご理解が早くて、嬉しく存じます」



 いつの間にか馬車内は、しっかりとした座学講座になっていた。

 私の回答に、にっこりと笑うロンルカスト講師。

 あれ? 勉強は午前中で終わったはずなのに、おかしいな。

 でも折角(せっかく)なので、他の街の派閥についても聞いておこう。

 

 

「んー、話は戻りますが、アディストエレン領には、このアディストエレン街を含めて、21の街がありますよね。じゃぁ、大きな派閥も21かける2で40個以上あるんですか?」


「いいえ。確かに、それぞれの街ごとに小さな派閥は数多(あまた)ございます。ですが、それらの派閥も、全ては領の中心街である、このアディストエレン街の派閥に集約されます」



 ふーん。なんか、オセロみたいだなと思った。それか、アメリカの大統領選挙。

 白石のティアモローラ様と、黒石のディーフェニーラ様。

 この街の貴族と、他街の派閥が持つ石を、取り合って自分の色に染めている。

 アディストエレン領という、決まった個数が置かれている板上の石を、どっちの色石で多く埋め尽くせるかが勝負内容だ。



「分かりました。西と南の派閥は、この街の貴族と他街の派閥を、どれほど多く獲得(かくとく)できるかで争っているんですね」


「はい。今回ディーフェニーラ様がポメラをお披露目された春の社交界も、そういった場の一つです」


「え、そうなんですか?」


「社交界では、多くの他街の代表者たちがアディストエレン街へとやってまいります。それぞれの派閥にとっては、派閥の拡大、勢力の誇示(こじ)、またどちらにも属さない中立派を自分の派閥へと取り込む、大きな機会でもあるのです」


「はぁー、社交界ってお茶会とかダンスパーティーとかの華やかな想像をしていましたが、内情は結構ピリピリしてるんですね」


「もちろん、そのような交流を、楽しみにしていらっしゃる方も多いかと」


「でも、不思議です。先先代領主夫人のディーフェニーラ様が、今でも現領主に相当する勢力を持ってるなんて。普通に考えれば、現領主が圧倒的な支持(しじ)を得そうなものですけど?」

 

 

 だって、現役領主サイドについた方が、お得そうじゃん? 領主権限いっぱい持ってそうだし。

 ルディーの背中を撫で撫でしながら、首を捻る。

 午前中、日当たりのいい窓辺でたっぷりと朝寝をしたルディーの毛並みはフワフワだ。

 

 

「それは、エーダフィオ(土の精霊)ンによる先代領主、ティートアフェルムス様のお迎えが突然であったことが一因(いちいん)かと思われます」


「ティートアフェルムス様? ティアモローラ様と、レオルフェスティーノ様のお父様ですか?」


「はい。当時の話ですが、お二人の父君であられたティートアフェルムス様が急遽(きゅうきょ)エーダフィオンの(つる)に戻られた後、現領主のティアモローラ様ではなく、弟君のレオルフェスティーノ様を領主へと押し上げる声が強くございました」


「えっ!? レオルフェスティーノ様が領主!?」



 何で、そんな声が上がるの!?

 あの冷徹貴族が領主なんかになったら、それこそ恐怖政治になりそうじゃん。



「大変優秀なお方ですので、そのような声が上がるのは、驚かれることではないかと存じますが」


「そ、そうですか?」



 ロンルカストのかけられた契約魔法には、レオ様への悪口禁止の項目でもついてるのかもしれない。

 なんて不憫(ふびん)。いつか絶対に魔法を解いて、助けてあげよう。心に決めていた思いを、一層強くした。



「しかし、同様に継承順位(けいしょうじゅんい)の無視だと反対する声も強くございました。その結果、正室(せいしつ)であられたグランローラ様の蕾である、ティアモローラ様が順当に領主となられました」


「はぁ。引き継ぎもなしに突然領主様を失って、きっと現場は混乱していたんですね」



 じゃなきゃ、あんな血も涙もなさそうな人を領主にだなんて、言い出すわけないよ。



「領内が大きく統制(とうせい)()いた時期でございました。また、ティアモローラ様が領主を継いだことで、旗頭(はたがしら)を失ったレオルフェスティーノ様の支持者たちが、政務(せいむ)の一部を引き継いだディーフェニーラ様へと流れました。これが、派閥の二極化を産んだ原因です」


「なるほど、ディーフェニーラ様が勢力を拡大した理由が良く分かりました」


「お分かりいただき、嬉しく存じます。今後は、領内における史実(しじつ)も学んでいきましょう」


「えっ? いや、これ以上座学が増えるのはやめてくださ……ん? ちょっと待ってください。さっき、“正室の蕾であるティアモローラ様”って言いましたよね?」


「はい、間違いございませんが何か?」


「その、もしかしてなんですが、ティアモローラ様とレオルフェスティーノ様は、母親が違ったりしますか?」


「さようでございます。レオルフェスティーノ様の母君は、側室(そくしつ)でございました」


「あぁ、だからなんですね。レオルフェスティーノ様だけ誰にも似てないから、ずっと不思議だったんです」



 なるほど納得。

 レオ様が祖母のディーフェニーラ様にも、若い時のルディーにも、お姉さんで現領主のティアモローラ様にも似てないのは、突然変異じゃなくて、きっと母親似なんだ。分かってスッキリした。



「レオルフェスティーノ様の母君は、側室でありながらも一部から圧倒的な支持を持っていらしたそうです。正室にすべき、と言う声も上がっていたほどだと伺いました」


「ロンルカストは、レオルフェスティーノ様の母親を、見たことがあるんですか?」


「いいえ、ティアモローラ様の母君と同じく、彼女も早くにエーダフィオンの元へと戻りましたので、私はそのお姿を拝見したことはございません。ですが、彼女を知るものは一様に、大層美しかったと仰います」



 ロンルカストはそう言いながら、聞いた話を思い出したのか目を細める。


 ふーん。皆んなが言うんだから、きっとすごい美人だったんだろうな。

 いったい、どんな人だったんだろう?

 ちょっと気になったので、多分その人に似てるんだろうレオ様を、脳内で女体化させてみる。


 レオ様のグレーっぽい銀色の髪を伸ばしてーって、元々長いか。

 じゃぁ、ピピッと目にアイラインを引いて、口には赤いリップをつけて、それからスラッとしたドレスを着せて……



「おわぁっふぅ!?」



 脳内に出来上がった見事な氷の女王様。

 美しくも人間味のない表情と周囲に撒き散らす威圧感は、近づいたものを自然と(ひざまず)かせるに値する恐怖へと繋がっていた。

 私もその迫力と圧力に圧倒され、座席から1センチほど飛び上がる。変な声も出た。



「どうなさいましたか?」



 急にビクリとした私に、ロンルカストが不思議そうな顔を向ける。



「あ、いえ、全然っ! 全然、何でもないです!」



 そうかぶりを振った私に向かって、氷の女王はいつもよりも更につめたい氷点下の眼差しを向ける。蒼い瞳が、こちらをギロリと睨んだ。

 その手には、しっかりと杖が握られている。



 ……よくも、こんな格好をさせてくれたな?



 静かな低い声が、頭の中に響き渡った。

 言い終わるや否や、特大の氷魔法を打ち込もうと、氷の女王様版レオ様は大きく杖を振りあげる。


 あわわわっ!? 最恐最悪ヴィラン(悪役)が爆誕したぁっ!?


 慌てて大きな棺をイメージする。

 女王様がすっぽりとはいるように立てて設置し、杖が振り下ろされるよりも前に、女王様をとじこめるべくガコンと蓋を閉めた。

 魔除けのお札と危険物取扱注意のシールを、閉じた蓋にベシリと貼る。


 ふぅー、危なかった……。


 自分の想像力に危機を感じる日が来るとは、なんてことだ。

 心の冷や汗を(ぬぐ)った私は、無事に封印の完了した真っ黒で不穏な棺に向かって、もう一生出てこないでください、お願いしますと手を合わせてから、物騒な大箱を脳内の奥の奥の奥底へと深くしまい込んだのだった。



 ミアがカキカキした心のメモ書きより抜粋


 領主一族の系譜


●ラジェルティートレオン様(先先代領主、故人、一部がルディーと猫の置物になった、若いときは優しげイケメン、ディーフェニーラ様大好き)

○ディーフェニーラ様(先先代領主夫人、西の派閥筆頭、偏頭痛大丈夫かな?)


●ティートアフェルムス様(先代領主、故人)

●グランローラ様(先代領主夫人、正室、ティアモローラ様の母君、故人)

●?様(先代領主夫人、側室、レオルフェスティーノ様の母君、故人、カリスマ的な美人だったらしい)


○ティアモローラ様(現領主、南の派閥筆頭、ラジェルティートレオン様にちょっと似てる、柔らかい顔立ちでプリンセスみたい)

○レオルフェスティーノ様(領主補佐、東の弱小派閥筆頭、嫌われてる、すごく怖い、絶対裏では悪いことしてる)



 お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 名前が乱立してる中でやや挫けそうになりましたが、最後にまとめがあって助かりました [一言] ティアモローラ様にミアは会ってたんでしたっけ すっかり忘れてる。。。。。
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