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回復薬作製と使い魔の役割



「完っ全に、ロンルカストだった。引くほどモテてた、リア充だった」



 目が覚める。生々しい夢に対する感想が、自然と口からポロリした。


 それにしても、衝撃だ。

 あの白髪爆弾少女がアルトレックス様で、みんなのアイドル水色髪モテメンが、まさかのロンルカストだったなんて。


 2人とも髪色が違うし、アルトレックス様に至っては、性格も違う。

 今は体育会系の爽やか兄貴って感じなのに、子ども時代はヤバめのもやしっ子だったんだね。いやー、人って変わるんだ。


 ロンルカストのキラキラ学生生活は、凄すぎとしか言えない。

 もはや(ねた)みを超えて尊敬すら覚える。



「はぁ、妙にリアルだったし、これって2人の本当の過去だよね?」



 2人の夢を見るのは、これで3回目だ。流石におかしい。

 この前、ルディーに聞いたら否定されたけど、やっぱりピラフィティー(悪戯好きの精霊)リに遊ばれてるのかな? 



 ロンルカストに相談するのが1番いいとは分かっている。

 でも、ハリーシェアの忠告以来、私はロンルカストのことを、信じたいのに信じきれなかった。

 そんな自分が嫌で、ロンルカストとは必要以上の会話はしないようにしていた。

 避けているわけではないし、頑張って普通に接しているので、本人にはバレてないと思う。

 でもそんな状態なので、ロンルカスト本人に夢について尋ねることが出来なかった。




 うまく集中できないまま、午前中の書類仕事の時間を終える。

 二重チェックしてるので間違いはないと思うけど、いつもより進みが遅くなってしまった。



 午後は魔法理論の本を読む。

 大量の積み本の中から、今日はニフラルガー著作の一つを読むことにした。

 


「よ、読み辛い……」



 ギッシリと書かれた内容に、目がシパシパする。

 小難しいことがツラツラと書かれているのに加えて、個人的なメモ書きに近かった。

 人に読ませる前提の文章ではなく、もはやただの研究記録だ。

 ニフラルガー大先生の癖が強めの手書きには、ウニャウニャした走り書きや、謎のイラストも多い。



「うぅー、お前は医者のカルテか。自分さえ読めれば良いと思うなよ? それに自分ルールで、謎の略語やイラストも使うのなしっ! 担当医が変わったら、引き継ぎを受けた医師が困るでしょうが! つまり貴方の字を読めない私が今、とっても困っているんですぅうわぁあぁぁあぁんっ!!」



 ロンルカストへの不信問題と、今朝見た夢のせいでモヤモヤが(つの)っていた私は、消化不良の感情を、どこぞの達筆(たっぴつ)ドクターにぶつけて八つ当たりした。


 私の魂の叫び(ルフラン)が執筆部屋に響く。

 日差しが差し込む部屋の一角でお昼寝していたルディーが、大声に反応してパチリと目を覚ました。

 むくりと起き上がったルディーは、煩いよと言わんばかりに鼻をしかめる。



「…………。」



 そのまま、無言で部屋から出て行った。……うっ、邪魔してごめん。

 

 ルディーの(から)一瞥(いちべつ)で、罪悪感にあっさりと白旗をあげた怒りは、シュンと鎮まった。粛々(しゅくしゅく)と読書に(つと)める。

 本の難解さに、頭から湯気がでそうになったところで五の鐘が鳴り、魔法理論の時間は終了となった。




 夕食まではまだ時間がある。

 休憩を兼ねて、久しぶりに回復薬作りの許可をもらった。



「元気になーれっ、元気になーれっ」



 いつもの掛け声をかけながら、大きなヘラで大鍋をグルグルと混ぜる。

 蒸気とともに、薬草の香りが調剤部屋いっぱいに充満した。


 部屋の反対側では、セルーニがハタキや雑巾を浮かして部屋の掃除をしている。

 私の方に埃が飛ばないように気をつけてくれているようで、カパンッカパンッと音を立てながらハタキの後に付いていく塵取(ちりと)りのやる気が凄い。

 ストーカー化した塵取りのうざったさに、ハタキは少しやり辛そうだ。


 薬草の懐かしくて青っぽい匂いと、クックっと沸騰する大鍋。塵取りのやる気と、パタパタ壁を打つハタキの小気味の良い音が部屋に響く。

 平和な室内の光景に、最近乱れがちだった私の心がスッと癒される。

 

 スライム時計で残りの煮詰め時間を確認していると、機嫌を直したルディーが尻尾をピンッと立てながらやってきた。

 


「んー、いい匂い」


「ルディー、前もそれ言ってたよね? 薬臭いからって苦手な人もいるみたいだけど、私もこの甘苦い香り、結構好きなんだ」

 

「ふーん?」


「回復薬、ちょっとだけ舐めてみる?」


「今はお腹がいっぱいだから、いらない」


「はぁい。あ、そういえばルディーに聞きたいことがあるんだ。私って今、ピラフィティーリの悪戯を受けてないよね?」



 テトテトと私の足元にやってきたルディーが、鼻を上に向ける。



「んーー? うん。彼の匂いはしないけど?」



 スンスンとピンクの鼻を動かした後、ルディーはそう言って首をコテリとかしげた。

 


「はぁー。そっか、じゃぁ何なんだろうなぁ」


「その溜息、どうにかならない? 最近多いよ」


「えっ、私そんなにため息ついてた? ごめん、気をつけるね?」


「あと、なんだろうって、何が?」


「最近ね、変な夢を見るせいで寝た気がしなくって」


「あぁ、前に言ってた講義室の夢?」


「そう、あれの続きをまた見たの。それが結構衝撃の展開でさ、ってあれ? ルディーは私と繋がってるから、私が何考えてるか分かるんじゃなかったの?」


「確かにそうだけど、僕とミアは違う蕾なんだから、全部分かるわけないでしょ?」


「あー、そうなんだ?」


「それに、最近のミアはグチグチして鬱陶(うっとう)しかったから、ちょっと切り離してたんだ」



 サラッと非情発言をしたルディーは、グッと頭を下げて金色の目を見開いた。

 お腹を床につけるようにして、一点を見つめている。



「えっ、ひどい。私が悩んでるの知ってたのに、放置してたんだ?」


「こっちこそいい迷惑だよ。ミアの感情に引っ張られると、僕まで辛くなるんだから」


「うー、ルディー冷たいっ!」


「答えを出すのはミアなのに、僕が落ち込んだってしょうがないでしょ?」



 上体を低くしたルディーは、後ろ足で小さく足踏みをする。高くあげたお尻がフリフリして可愛い。

 見開いた瞳の視線は、壁じゃなくてストーカー化した塵取りをペシペシと叩いて追い払おうとしているハタキに向いている。



「そうだけどさ。一緒に悩んだり共有してくれたっていいのに。……エアリ君はもっとハリーシェアのこと、親身に考えてたよ?」



 私も熟年夫婦のような塵取りとハタキのやり取りを眺めながら、使い魔としてもっと主に寄り添うべきだと、ルディーに小言を向けてみた。



「ミア、そういうこと言うんだ。僕たちは共有してるけど、同じじゃないんだからね?」


「同じじゃない……。ねぇ、ルディーって私の使い魔なんだよね? そもそも使い魔が何なのかもよく分からないけど、ルディーはなんで私の使い魔になってくれたの?」



 私の質問を聞いたルディーは、口を開く素振りも見せず、低い体勢を更にグッと屈めた。

 尻尾の先をピクリと動かすや否や、視線の先へ向けてバッと飛び出す。

 その軌道の先にいるのは、しつこい塵取りへのお説教に気を取られているハタキだ。


 自身の体の何倍もの跳躍力(ちょうやくりょく)を持つルディーは、一瞬にしてハタキとの距離を詰める。

 自分の体を被せるようにして、ハタキの柄の部分に食らいついた。

 前足で布部分をガッチリと掴む。普段は隠している鋭い爪が、ギラリと光った。


 ハタキを牙と爪で捕らえたルディーは、空中で半回転する。

 ぶつかる寸前の壁を後ろ足で蹴ることで、軌道を下に修正した。

 自分の体重を乗せて、床にハタキを叩きつける。

 ダンッという衝撃音と、加速により体重の何倍もの重力のかかった振動が部屋に響く。


 ペシペシとハタキにシバかれていた塵取りは、黒い残像と共にハタキが目の前から消えたことについていけず放心していたが、哀れなハタキが床に叩きつけられた音でこの状況を理解したようだ。

 少し遅れて、ビクリと体を震わせた。カパンッと気の抜けた音がした。



「僕は土持ちだからね。属性に(たが)えず、使い魔としてミアの大切なものをちゃぁんと守ってるよ? そのついでに、僕の大事なものも守ってるけど」



 ハタキの柄から口を離したルディーは、目を細めながらそう言った。

 自分の足元で踏みつけられてジタバタしているハタキを、満足そうに見ている。

 ハタキさんはお仕事してただけなのに、可哀想。やめてあげて?

 


「それ絶対に逆でしょ。でも、んー、そっか。ルディーは大事なディーフェニーラ様を守るついでに、私のものも守ってくれてるんだ。……え? 私の大切なものって何?」


「なんだと思う?」


「うぅー、分かんないから聞いてるのに」


「きっと近すぎて見えないんだよ。自分の尻尾がどこにあるのか、いつか分かる時が来るといいね?」


「ルディーの意地悪っ。またそうやって誤魔化すんだから。ハリーシェアの時は凄く講師っぽかったのに、ずるいよ」


「クスクス…… 僕、講師っぽかった? ミアが月の講義を受けていれば、南塔で講師のフリも出来たかもしれないのに残念だなぁ」


「え? なんで月の講義を受けると、ルディーが講師になれるの?」


「月魔法の影を使って、姿を変えられるからだよ。相当属性が高かったり、化ける対象に縁がないと無理だけどね。クスクス…… 僕がラジェルティートレオンに化けて講義をしたら、面白くない?」



 楽しそうに悪巧みを話すルディーは、ハタキを掴んでいた足をパッと広げた。

 驚きながらも、すぐさま逃げようとルディーの足元から這い出すハタキを、金色の瞳で眺める。


 必死で4本の黒い足から抜け出したハタキは、ホッとした様子で塵取りの方を向く。元の位置に戻ろうと、浮かび上がった。

 しかし、その直前でルディーの前足がハタキの布先を掴む。

 急に引っ張られた反動で体勢を崩したハタキをズルズルと自分の方に引き寄せ、再び4本の足から出した爪で、ガッチリと床にホールドした。

 


「うーん。化けるって、なんか騙してるみたいでどうなんだろ? あ、でもディーフェニーラ様は喜ぶかな?」


「それは、どうだろうね? 彼の姿は出来ても、僕は彼じゃないから」


「そうなの? あと、そろそろハタキさんが可哀想だよ。離してあげて?」



 ハタキから爪を離しては、逃げる直前で掴む行為を繰り返し始めたルディー。

 本人は遊んでいるつもりだろうけど、絶望と希望を交互に味わっているハタキの姿を見せられている私からすると凄く悪趣味だ。


 ルディーの玩具(おもちゃ)化した哀れなハタキの行く末をハラハラと見守っているセルーニと塵取りさんのためにも、早く解放してあげてと切に願ったのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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