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陽の魔法



「それでは早速、講義をはじめましょう。まずは、手元の瓶をご覧になって? セリノーフォス(月の精霊)の力を借りて、姿を見えなくしてあります」



 ユニフィア先生の言葉に促され、配られた牛乳瓶のような瓶を手に取る。

 中を覗くと雑なモザイクみたく黒い霧がかっていた。振っても逆さにしても、霧の中は見えない。



「全く姿を見えなくすることも、可能ですのよ? ですが今回は、イリスフォーシア(陽の精霊)の力がどう働くか分かりやすいように、わざと黒い霧状にしてあります」


 

 説明を続けるユニフィア先生の声は、とても心地よい。ポカポカのひだまりの中、子守唄を聴いているみたい。

 うーん、やばい。ちょっと眠くなってきた。昨日緊張で、遅くまで寝れなかったせいだ。

 だが、しょっぱなで居眠りをして、やる気ない子の烙印(らくいん)を押されるのは困る。私は自然と下がってくる目蓋に力を入れ、説明を続ける目の前のユニフィア先生を見つめた。



「中が見えないことは確認できまして? では、本日の講義内容ですわ。イリスフォーシアの力を借りて、霧を晴らしましょう。使う呪文は基礎魔法であり、難しくはありません。杖を対象に向けること。そして、発音を間違えないこと。この2点を守れば問題ありませんわ」



 髪と同じ金色の瞳を細め、口元に小さな弧を描いたユニフィア先生は、杖を瓶に向ける。



「よろしいかしら? では、呪文を良く聞いていらして? ……フォティーゾ」



 ユニフィア先生が呪文を唱えると、杖の先から柔らかな光が一直線に瓶へと向かった。光はスッとガラスを突き抜けて瓶の中へ入る。

 黒い霧は、突然やってきた光から逃げるように距離を取るも、蓋が閉められた狭い瓶の中に退避場所はない。

 私がブンブン振り回しても何の意味もなかった濃密な霧は、光に照らされ黒い色を薄めると呆気なく消え去った。瓶の中をくるくると回っていた光も、役目を終え消える。

 黒いモザイクのなくなった瓶には、一輪の赤い花が入っていた。



「うわぁっ!」



 つい、感嘆が漏れる。全てがほんの一瞬の出来事だった。

 まるで、美しいマジックを見た気分。さっきまでの憂鬱が霧とともに吹き飛ぶ。

 私は目の前で素敵なトリックを見ることができたこの特等席に、感謝した。



「私から皆さんに、これから歩む道の闇が明るく照らされますようにとの願いを込めて、この呪文を与えますわ。では皆さん、どうぞはじめてくださいね」


「「「フォティーゾ!」」」 「「「フォティーゾ!」」」



 ユニフィア先生の声を合図に、生徒たちは一斉に呪文を発する。



「フォティーゾ」



 私も杖を出し、瓶に向かって呪文を唱えた。

 杖の先から現れた光により、サァッと中の黒い霧が晴れる。  

 やった、成功だ! 瓶の中にはピンク色の花が入っていた。



「なんだ。とても簡単ねっ!」


「ねぇ、これ炎で照らしても良かったんじゃない?」



 魔法成功の興奮からか、失礼な言葉が後ろから聞こえた。チラリと目の前のユニフィア先生をみる。

 その表情はニコニコとしまままで、全く意に介している様子はなかった。今の声、絶対に聞こえていたはずなのに、すごい。

 その寛容さ、わりとすぐに拗ねるルディーにも分けてあげて欲しいな。ルディーは、子どもっぽい性格は私のせいだっていうけど、本当かな?



「みなさん、大変優秀ですこと。では、今度はこの力をベルクムへ移しましょう」



 講義への招待が書かれた手紙には、ベルクムと、それを入れる袋を用意するようにと書かれていた。

 ベルクムとは、杖結びの準備でも使用したランタン型の可愛い小花だ。黄色いビロードの毛を被った小花が、総状花序(そうじょうかじょ)に連なっている。

 手紙にはベルクムの摘み方や保存方法も、記されていた。



 “朝日が昇る前に摘むこと、摘んだベルクムは日中は日が当たる場所に置き、夜は枕元に置くこと。それを1週間続けること。また、摘む量は必要と感じる量にすること”



 手紙を読んだ後、細かな指示に反して、摘む量だけはアバウトななんかいっ! と、1人ツッコミをいれてしまった。

 そういうのが1番困るんだよね。しょうがないので、このくらいかなという量を本当に適当に薬草園で摘んだ。



「ベルクムをお忘れの方は、いらっしゃるかしら?」



 ちゃんと持ってきましたアピールをかねて、ロンルカストに手渡された持ち物から、袋に入れたベルクムをワサッと机の上に出す。

 その拍子に、左隣の様子が目に入ってしまった。なんと、女の子の持参したベルクムは2、3輪だった。


 えっ、少なっ! そんなちょっとで良かったの!? 驚いて右側を見る。左の子よりは多いが、片手で掴めるくらいのベルクムが机の上に乗っている。私の半分ほどしかない。


 なんかたくさん持ってきちゃって恥ずかしいな、欲張り過ぎちゃった。自分が持ってきた、こんもりとしたベルクムの山を見つめる。

 1週間天日干ししたため、ドライフラワーのようにカピカピしているベルクムをツンツンと触った。

 摘んでから時間が経っているので、薬草園の時のように光ったり動いたりはしなかった。



「7柱の曜日が過ぎる間、イリスフォーシアの光を浴びたベルクムは、陽の魔法ととても相性が良いのです。やり方は、先ほどと同じですわ」



 生徒たちがベルクムを机に用意し終えたのを見届けたユニフィア先生が杖を動かす。箱から一輪のベルクムが飛び出し、ふわふわとやってきた。

 宙に浮かせたままのベルクムに杖を向け、呪文を唱える。



「プレケス フォティーゾ」



 杖から出た光りはベルクムをふわりと包んだかと思えば、すぐに花に吸収されその光を弱めた。

 (ほの)かに発光したベルクムは端から形を崩し、解けるように金色の粉になる。

 そして、ベルクムの下にお皿の形で出していたユニフィア先生の左手の中へ、サラサラと落ちていった。うわぁ、なにそれ、錬金術かな。



「皆さんはベルクムをいれた袋の口を開けて、その中に杖を向け呪文を唱えてくださいね。できた方は、わたくしに見せにいらして? 合格を得た人から、本日の講義は終了ですわ」



 ユニフィア先生の説明が終わると、口々に呪文を唱える声が響いた。



「プレケス フォティーゾ」



 私もみんなに続き呪文を唱える。無事にサラサラの大量金粉を作ことができた。

 ん? この金粉、なんか見覚えがあるような? うーん…… あっ、あれだ! 杖結びの準備の時に、魔術具から生えた不思議花の花びらについてたやつ!


 思いがけなかったルディーの出現やら何やらで手一杯だったため、すっかり忘れていた不思議花。

 つい先日、客室の飾り棚に高級スライム時計や精霊石と一緒に並べられているのを発見したことで、やっとその存在を思い出したのだ。


 あの時は、久しぶりに見た青くて綺麗な花にテンションが上がり、ツンツンと花びらを突いてしまった。

 花はフルリと震え、その振動で花びらについていた金色の鱗粉を、盛大に撒き散らかした。

 棚を汚してしまったことに焦り、ついゴシゴシと擦ったら取れるどころか余計に金粉の範囲が伸びてしまい、結局セルーニに頭を下げに行ったことは、本当に反省しています。ごめんなさい。


 うん。やっぱり不思議花のことは、もう一度忘れよう。失敗を無かったことにしつつ、席を立つ。


 ユニフィア先生にこの出来立てホヤホヤの金粉を見せて、合格をもらわなきゃ。

 ユニフィア先生は目の前だが、机は横長なので、前へ進むことはできない。持ってこいと言われたのに、ここから手を伸ばして見せるのも失礼だろう。

 そのため、一度机の端まで行って、机を避けてから教卓へ向かわなければならない。

 さっき悪口を言われた左の子たちの後ろを通るのが怖かったので、右側に向かって歩き出した。

 スタスタと歩く。隣の子の席に近づいた時、上げかけた私の足の前に、私のものではない足がスッと伸ばされた。



「え!? わわっ!」



 緊急回避に失敗した私は、なす術もなくその足に引っかかる。

 前につんのめり、ガタンと転んだ。持っていた袋を落とし、中のベルクム金粉がぶわりと辺りに舞う。



「痛たたたっ…… 」



 ぶつけたおでこを抑えながら顔を上げると、セルーニよりも赤みの強いピンクオレンジ色の瞳を大きく見開いた子と目が合う。金色の粉を頭からかぶっていた。

 慌てて周りを見る。私と私の席も金色まみれだ。転んだ拍子に、袋の中身をぶちまけてしまったらしい。



「あっ、ごめんなさい! すぐに片付けますからっ!」



 金粉を被り上半身だけ銅像みたいになった女の子に、慌てて謝る。急いでセルーニ直伝のお片付け魔法を唱えた。



「オルガーノ キニーシ!」



 飛び散っていた金粉がブワッと浮き上がる。すごい量だ。杖を横に振ると、金粉たちは私が手にもつ袋の中へ流れるように入っていった。

 女の子も私も、周りの床や机もちゃんと元どおりだ。



「あのぉ、本当に申し訳ございませんでした」



 謝罪とアフターフォローは無事に済んだ。ふぅ、多少の粗相はあったけど、これで一件落着。

 この魔法、教えてもらっておいて本当に良かった。あ、すぐ使うことになるって言ってたロンルカストの予言も、悔しいかな当たっちゃったな。

 女の子にペコリと頭を下げて、改めてユニフィア先生のところへ向かおうとした時だ。


 目を丸くしたまま硬直していた女の子が、わなわなと震えだす。カッとこちらを向き、叫んだ。



「あなた、なんなんですの!?」


「えっ!? あの、ごめんなさい。これはわざとじゃなくてーー」


「違うっ! そうじゃなくて、なんで貴方は、私に挨拶をしてこないのかと訊いているのです!」


「へっ、挨拶!?」


「わたくし、2度も挨拶をする機会を与えましたのに、どうして無視するのよ! 非常識ですわっ!」


「ごごご、ごめんなさい! そのロンルカスト、じゃなくて側近から、私はまだ他家の爵位が分からないので、自分から挨拶するなと禁止されているのです。あと、私が話しかけたら嫌がられるかなと思って、自重をーー」


「私、貴方と同じ伯爵家ですわっ! それに、席も教卓の前なのですから、そんなの必要ないでしょう!? 儀式でも大きな祝福を受け全ての講師から声をかけられていたのを私、見ていましたのよ! ずっと貴方とお話したかったのに、話しかけられて嫌がるわけないじゃないっ!」


「えっ、なんでそれをーー」


「私のことを、まさか覚えていなくてっ!?」


「へぁっ!? ごめんなさいっ!」



 剣幕に圧倒されながら、怒り狂う女の子の顔を改めて見る。……全くピンとこなかった。

 それに、悲しいかな私には同じ歳の友達どころか知り合いすらいない。



「信っじられませんわっ!」



 私の記憶の無能さを悟った女の子は、拳をギュッと握り顔を大きく横に振った。

 長いブラウンの髪も顔の動きに合わせてブンブンと荒れ狂う。毛先には、ピンク色のメッシュが入っていた。それを見て、私はやっと思い出す。



「あっ! 七冠くぐりの時に前に並んでいた、お洒落髪女子!」


「なんですの、その呼び方! 失礼ではなくて!?」


「あっ! ごご、ごめんなさいっ」



 せっかく思い出したのに、女の子の怒りは止まらないどころか油を注いでしまった。



「ハリーシェア、こちらを貴方に」



 私がタジタジしていると、いつの間にか横にいたユニフィア先生が、女の子にスッと小瓶を差し出す。



「ユニフィア先生! この怪しい液体はなんですの!?」


「今の貴方に、とても必要なものよ?」



 女の子のプリプリがユニフィア先生に向く。

 しかしユニフィア先生は動ずに、笑顔のままズボッと小瓶の先を女の子の口の中へと突っ込んだ。



「むぐぅっ!?? うっ…… ゴックン。 ケホッ、ケホッ」


「お加減はいかがかしら、ハリーシェア」


「あ、あれ? わたくし?」


「ベルクムの粉を、吸い込んでしまったようですわね。ですが、もう心配いりませんわ」


「ベルクムの粉?」


「ハリーシェア、イリスフォーシア(陽の精霊)は全てを照らすのよ。貴方の隠していた気持ちが、明るい陽の元へ曝け出されてしまったようにね。うふふっ、周りを照らすだけの愚直なフォーティアーノ(火の精霊)では、持たざる力でしてよ?」



 ユニフィア先生は、最後の言葉だけ視線を斜め上に向けて話した。



「もっ、申し訳ございません」



 どこからか、小さな謝罪の声が聞こえた。



「粉の力は、次第に弱まります。うふふっ、それに、みなさんのものには、ミアーレアほどの力はありません。どなたかに飲ませて、本心を暴こうなどと思ってはいけませんことよ? この粉は、(わざわい)を避けるお守りにもなります。使用するよりも、日頃より身につけることを、お勧め致しますわ」



 ユニフィア先生の薬でどうやら正気を取り戻したらしいハリーシェアと呼ばれた女の子は、ガッと金粉入り袋を掴むと私に背中を向けて机の端に向かう。

 状況に追いつかない私も、自然と逆方向の机の端に足を向け、よろよろと歩き出した。


 私がもたもたしている間に、ハリーシェアは先にユニフィア先生から合格をもらうと、そのまま長い髪をなびかせ階段状の講義室を早足でのぼる。

 バタンと音を立てハリーシェアが逃げるように扉から出ていったことで、イリスフォーシアの光(気持ちをさらけだす力)を浴びすぎた私たちが、お互いの真っ赤になった顔を合わせることはなかったのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 精霊たちの属性が分かってきて、挨拶の言い回しも分かってきそうな所 [一言] 3章になって、また違う楽しさ出て来ましたねー
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