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久しぶりの回復薬作りとセルーニの動揺



「元気になーれっ、元気になーれっ」



 いつもの掛け声をかけながら、調剤部屋で大鍋をぐるぐるとかき混ぜる。久しぶりの回復薬作りだ。

 平民街へいく許可はまだ降りていない。というか、月の輪以降レオ様に会っていないし、こちらからわざわざ会いに行きたくもないので、ルディーには悪いけど平民街への外出申請すらできていなかった。

 勇気を出して会いに行っても、怖い顔したレオ様に秒で却下されるのが、容易に想像できるしなぁ。


 許可が降りるはずもないのに、回復薬を作る意味なさは重々分かっている。

 でも今は時間に余裕があるし、ちょっとしたお勉強の息抜きということで、ロンルカストからお許しを得た。

 うん、いつかきっと、平民街に行ける機会が来るよね。そしたら薬屋にも顔を出して、これも渡せるはず。

 希望的観測と、回復薬作りの練習を怠らないというミグライン店長との約束を込めて、グツグツと沸騰する鍋をかき混ぜた。ぐーるぐるっと。


 身長と変わらないくらいの大きなヘラで鍋をかき混ぜ続ける。結構な重労働だ。額の汗を手の甲で拭った。再び掴み、握る手に力を込めるこれは、いつだったかパリンと窓を突き破り、空の彼方へお出かけしてしまった後、わざわざロンルカストが見つけて拾ってきてくれた大切なヘラだ。

 もう、離さない。そして飛ばさない。だって、ロンルカストに怒られるのが怖いから。


 部屋の中には、薬草の青臭い匂いが充満している。

 沸騰する鍋をぐるぐるしながら、魔法で浮かせたモップでゴシゴシと柱の上についた燭台を掃除中のセルーニを見る。

 平民街への許可について、1人で考えるよりも、セルーニに聞いたら案外良い方法を教えてくれるかもしれない。ふとそう思い、セルーニに尋ねた。



「んー、セルーニ。どうすれば、平民街への外出許可が得られると思いますか?」



 セルーニの杖の動きに合わせ、モップは容赦なく燭台の汚れを落としていく。

 モップから飛び散る洗剤液から逃げるように、燭台に灯っている炎は、大剣の端っこに避難していた。プルプルと、小刻みに揺らめく姿が可愛い。



「平民街へですか? それは、なかなか……。相応の理由がなければ、許可は降りないかと」


「やっぱり、そうですよね。前はスラ時計制作の理由があったとはいえ、ご褒美の意味もあってハードルが甘くなっていましたし。そもそもディーフェニーラ様と交渉出来たのも大きかったですし、んー、難しい」


「ハード、ル?」


「そうだ! 良いことを思いつきました! ミグライン店長の薬を、私が中売人として購入して、それをこちらの貴族たちに販売する、というのはどうですか!?」


「平民の薬ですか? ……そうですね、申し上げにくいのですが、貴族たちは魔力を使用して薬を作るため、平民の薬にはあまり馴染みがないです。それに、平民の薬というものに、忌避感も持つものも少なくないかと思います」


「あー、そうなんですか。ということは、ディーフェニーラ様が薬屋に来たのは、結構苦肉の策だったんですね」


「おそらく、そうかと思います。平民街と貴族街を隔てる壁は、厚く高いと伺っていますので」



 肩を落す私に、セルーニの申し訳なさそうな声が届いた。

 薬の卸作戦は敢えなく失敗。ちぇっ、いいアイディアだと思ったのにな。全くの見当違いだったようだ。


 ちょっぴり落ち込みながら、下に落ち切ったスラ時計をくるりとひっくり返した。

 ミグライン店長のように、感覚で調剤出来る超人ではない私は、スラ時計を使って素材を煮詰める時間を確認している。

 もちろんディーフェニーラ様献上用の高級時計ではなく、最初に自分で作った素人感溢れる方の時計だ。


 上下が反転した瓶の中のスライムオイルは、再びゆっくりと下へ落ち始めた。鍋をかき混ぜる手を動かし続けながら、セルーニに返事をする。



「うぅー、身分差の壁が憎い。でも、このまま平民街の皆んなに会えないのも悲しいです。ルディーもチクチクお皿のことを催促してくるし、この前なんて完全に拗ねられてしまって…… 」


「私はあまり平民の街について詳しくはないですが、考えてみますね! 何か平民街ではないとできないことが、見つかるといいのですが」



 頼もしい言葉をくれたセルーニは、燭台の埃とりを終え、今度は窓掃除に取り掛かる。

 モップが離れたのを見送った炎は、ホッとした様子でスルスルと大剣の先から降りた。鞘部分でのんびりと寛ぎはじめる。炎がユラユラ。はぁ、癒されるなぁー。

 セルーニの足元のバケツが、カラカラと音を立てゆっくりと浮かぶ。いち早く窓へ向かったモップを洗うため、やれやれといった様子で窓へと向かう、バケツを目で追った。



「ありがとう、セルー……うわわぁっ!?」



 言いかけたお礼は、自分の叫びで掻き消される。

 何故なら、バケツが向かった先の窓に、びっしりと鳥が張り付いていたからだ。目の大きさの割に小さな鳥特有の瞳孔が、一様にこちらを覗いている。


 ひぃぇっ!! 10個以上の鳥の目と、ピタリと視線が合った。ビクリと、心臓が跳ね上がる。



 ガラガッシャンッーーーー!



 驚いた拍子に持っていたヘラを放り投げてしまった。弾みで鍋が、盛大にひっくり返る。



 コンコン…… コンコン……



「あっ、申し訳ありません! 平民街への外出方法について考えるあまり、気が付きませんでした!」



 クチバシで窓を突く鳥に、セルーニは慌てながら答える。軽く杖を振ると窓が開いた。

 少し冷たいけれど柔らかな風が部屋へと吹き込む。風に乗って、パラリパラリと数枚の紙が飛んできて、セルーニの開いた手の上へスルリと収まった。

 遅れてパタパタ、バサバサと鳥たちの羽ばたきが聞こえる。窓の方を恐る恐る目線をあげると、鳥たちは姿を消していた。



「講師たちからの、招待状が届きました。私、ミアーレア様が評価を受けて本当に嬉しくて誇らし…… あの、ミアーレア様?」


「 ……セルーニ」


「はい。如何なさいましたか?」


「うぅぅー! せっかく、出来上がりそうだったのにっ!! 久しぶりに作ったのにっ!! わたしっ、鳥なんて、大っ嫌いです!!」



 わなわなと震えた私は、セルーニに思いの丈をぶつける。

 逆さまになった鍋の中身は、全て床に溢れた。鍋をひっくり返したのは自分だが、私の怒りは不意打ちでやってきた鳥たちへと向かう。


 私の回復薬が全部ダメになった! 頑張って作ったのに、あと少しで完成だったのにっ! それにそれに、すっごい怖かった。 冬呼びの羊目も怖かったけど、いっぱいの鳥の目も怖すぎる。折角、庭の鳥たちがいなくなったのに、また来るなんて不意打ちだよ。わぁー、絶対今日の夢に出てくるじゃんっ!

 


「もも、申し訳ございません。私が気がつくのが遅れてしまーー」


「違いますっ! セルーニのせいではありませんっ! 鳥が、あの鳥たちが全部悪いのですっ!」


「失礼致します。大きな声が聞こえましたが、どうなさいましたか?」


「ロンルカストっ! 凄くいっぱいの鳥がこちらを睨んできてーー」


「ロンルカスト様! 私の不手際でこのようなーー」


「それは違います! セルーニは悪くありません! 全部、あの鳥が悪いんですっ!」



 完成間際の回復薬を床にぶちまけてしまったショックと、いっせいに鳥に睨まれた恐怖からの動揺が収まらない私と、慌てて自分に非があると言い続けるセルーニの言い合いは、平行線を続ける。

 ロンルカストは、無言のまま私たち2人の顔を見比べ、次にベシャベシャの床と開いたままの窓に視線を走らせた。

 ポワッと右手を光らせる。その手には杖を握っていた。



「 ……セライアシス」



 杖を斜め上に向け、呪文を唱える。

 杖の先から水色の霧が飛び出し、天井に届いた。くるくると天井で渦巻いた後に、ゆっくりと降りてきた色付きの霧は、私とセルーニを包み込む。

 視界が水色に染まった。空気中へ滲むように静かに霧が消え視界が開けた時には、荒れていた私の心は嘘のように鎮まっていた。



「あ…… あれ? ロンルカスト、今のは何ですか?」


「少しばかり、オケアノードル(水の精霊)の癒しのお力をお借りした次第です」


「癒しの魔法?」


「さようでございます。お二人とも、本日が水の日であることに、感謝を捧げください」


「私にまで癒しを……。ロンルカスト様、ありがとう存じます」


「あの状態では話もできませんので。ですがセルーニ、貴方まで取り乱すとは看過できません」


「違います、ロンルカスト。セルーニを責めないでください。あれはーー」


「理解しております。セルーニが手紙への対応に遅れたため、窓から覗く鳥たちに驚いたミアーレア様が鍋を倒し作成中の中身を溢され、また鳥たちへの恐怖も相まり動揺なされたと言う認識で宜しいですか?」


「 ……はい。その通りです」



 状況を把握の完璧さに、ぐうの音も出ない。

 ロンルカストは真っ直ぐにセルーニに向くと、静かに口を開いた。



「セルーニ。鳥たちへの対応が遅れたことは良いのです。私は、その失敗を責めているのではありません。問題はその後です。いいですか、私は貴方を、この家の家支えだとは思っておりません」


「 ……あの、私、家支えとして、不十分で大変申し訳ーー」


「セルーニ、自覚してください。貴方は()()()()()()ではありません。貴族としての知識が十分ではない()()()()()()()()()()役割もあるのです。私たちは不測の事態こそ、ミアーレア様への導きとなる心構えが必要です」


「えっ、あのそれはーー」


「セルーニ、驚かせてごめんなさい。もう知ってると思いますが、私知らないことが多すぎて、今回みたいに変なところでパニックになったりすると思います。……迷惑をかけますが、これからも色々と教えてください」


 私のせいでセルーニが怒られてしまった。

 ロンルカストは、ガミガミ感情のままに怒鳴ることはせず、静かに怒るので精神的にキツイ。

 セルーニが凹まないよう祈りながら、誠心誠意謝る。



「そんなっ! ……いえ、はいっ! 承知いたしました! 今後とも、誠心誠意お支えさせていただきます!」


「ありがとう、セルーニ。宜しくお願いしますね? あと、あの、それで、まずは、この汚してしまった床を掃除してもらってもいいですか? もう少しで完成だったので、ダメになったのは悲しいですが、しょうがないですよね……」


「……ふぅ。春の講義も近くなってまいりました。練習としてセルーニに片付けの魔法を教えてもらいましょう。万が一の不測の事態に備え、私もここで控えております」


「わっ、魔法ですかっ! セルーニ、ぜひ教えてください!」


「セルーニ、1番簡単かつ、薬のみを鍋に戻せるものです。……今後とも必要な気が致しますので」

 


「は、はいっ! お任せくださいっ!」



 むぅ! 私がまた鍋をぶちまけるって、言いたいの? ロンルカストの言葉に、若干の引っ掛かりを覚えたものの、初めて魔法を教えてもらう興奮が勝ち、文句は口から飛び出す前に何処かへ消えた。



「宜しくお願いしますっ!」



 私は興奮を(いさ)めてくれたオケアノードルに祈りを捧げつつ、魔法を教わるきっかけをくれた鳥たちにも、ほんの少しだけ感謝を申し上げたのだった。




 

 ミアは彼女なりに頑張ってきたことが認められたようで、サンタさんより“初めての杖あり魔法”をプレゼントしてもらい、とても喜んでいます。

 セルーニも、ロンルカストから色々と認められていたことが分かり、サプライズプレゼントになったのではないでしょうか。

 ロンルカストとルディーは、、 えーっと、まぁ、2人ともいい大人なので、サンタは必要ないのかななんて、、おっと、2人の視線が怖いのでこの辺で、、。



 お読みいただきありがとうございます。

 少しでも続きが気になると思っていただけましたら、(クリスマスプレゼントとして)ブックマークや、下の⭐︎を押してくださると嬉しいです。




 皆様におかれましても、良いクリスマスをお祈り申し上げます。

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