食事部屋の暖炉と友達の作り方
「この暖炉の火、夜も付けっぱなしのようですが、危なくないのですか?」
あっという間に日々が過ぎた。昼食を取りながら、目の前の暖炉についてセルーニに質問をする。
私のお祝いにと、皆んなで豪華な食卓を囲んだ日以来、食事部屋の暖炉はずっとつけっぱなしになっていた。暖かいし、薪が燃えるパチパチとした乾いた音は、聞いていて癒されるので嬉しいけれど、火事になったりはしないのだろうか。
「何かあれば私が感知できますので、ご安心ください。暖炉の火を絶やさない理由は、冬の間はどうしても、陽の精霊の力が弱まるからです。この火にはイリスフォーシアの輝きを助ける意味もあるので、私達は暖炉の火を落としてはいけないのです」
そうだ、すっかり忘れていた。セルーニは家仕えとしてこの家と契約をしているから、家の中のことを把握できるんだった。
確かルディーが来たばかりの頃も、ルディーが勝手に外に出て行こうとしたら分かるって言っていたことを思い出す。
余計な心配だったなと反省しながら、暖炉の中の炎を目で追った。
「はぁー。この子に、そんな大事なお役目があったのですか」
炎は薪にぶら下がって、プラプラと楽しそうにセルフぶらんこをしていた。
食事部屋の壁に何本かある柱の中で、一つだけ炎が無くなっている燭台があるので、元々はあそこにいた子がこの暖炉に移ったのだろう。
うーん、でもこれ、遊んでいるようにしか見えないけど、本当にこれで陽の精霊を助けているの?
遊び疲れたのか、今度は薪の上でクゥークゥーとお昼寝を始めた炎を繁々と眺めていると、セルーニは、暖炉の横の、お菓子が載せられた小さなお皿に手を向けた。
「はい、こちらのお菓子も、遊びに来た彼女の眷族たちに捧げているのですよ」
「えっ、あ、そうだったんですね」
ルディー用のお菓子皿かと思ってた、という言葉を飲み込む。うん、ルディーが時々このお菓子をペロペロしていることは、言わないでおこう。
まさか、つまみ食いだったとは。堂々としてたから分からなかった。……あ、私が精霊用の捧げ物だって知らないと分かってて、ワザと私の目の前で悪戯して揶揄ってたんだ! むぅー、相変わらずルディーは意地悪だ。
「はい、イリスフォーシアの眷属達の事を、ヒュールーンと言います。とても美しいそうですよ」
「陽の精霊の眷属、ヒュールーン…… 美しい?」
その姿を想像しながら話しているのか、セルーニはうっとりとしだした。だが、もう私は信じない。少し前に会った精霊、冬呼びのショックが強烈すぎたからだ。
仲の良かった炎のシュシュートが、目の前で、ヤギ人間にバクリと食べられてしまったことを思い出し、ブルリとする。
あの口裂け女みたいにメリメリと裂けた口なんて、精霊というよりも悪魔にしか見えなかった。焦点が合わない横長のヤギの目も怖かったし。
あの時、私の中で精霊イコール可愛いの概念は、180度ひっくり返ってしまった。
ヒュールーンだって美しいとか言って、きっとまた馬人間とか、蛙人間とかに決まってる! もう、騙されないんだからっ!
鼻息荒く、精霊素敵詐欺に引っかからないよう心の予防線を張りながら、食後のお茶を飲む。
仲良しティーポットのパピーを突いていると、ロンルカストがやってきた。
「朝お話したように、午後からは”七冠くぐりの儀”に参ります」
「はいっ、分かっています!」
七冠くぐりの儀とは、7柱の精霊との相性を確認する儀式だ。
前にロンルカストから、この儀式で自分の属性を確認して、春からの南の講義で受ける授業を決めましょうと言われた。一定の年齢になった杖持ち貴族しか受けられない儀式で、精霊との相性確認以外にも、半分成人式の意味もあるそうだ。
「この儀式は、神事扱いでございますので、領主一族も出席致します。午前中に復習した挨拶や立ち振る舞いをお忘れなきようお願い致します。万が一ですが、不測の事態が起きたとしても、貴族としての品位をお保ちください。また、南の講義で一緒になる同級生もいらっしゃいますがーー」
儀式に向けてロンルカストの長い忠告が続く。だが、私にはその言葉が右から左へスルスルと流れていくばかりで、全く頭に入らなかった。
だって、今日これから同級生になる子達と会うんだもん。ドキドキして、昨夜もあんまり眠れなかった。
仲良くなれるかな、お友達できるかな……。不安と期待で、ソワソワする。
うわの空状態で、全く話を聞いていない私に白旗を上げたロンルカストは、苦笑しながら挨拶の復習をした方がよろしいようですね、と言ったのだった。
セルーニに支度をしてもらい、ロンルカストとともに馬車に乗り込む。
ガタゴトと進む道中も、私の心にはヘリウムガスが充填されてしまったようで、フワフワとして落ち着かなかった。
あー、緊張する。友達って、どうやってつくるんだっけ。んんっ、何も思い出せない? 仕事しろ、私の記憶っ! ……ふぅ、無駄な努力はやめよう。
記憶の発掘作業を諦めた私は、気持ちを切り替えて、友達大作戦に向けての対策を考える。
気分は入学前のオリエンテーションだ。第一印象が大事だよね。うん、笑顔、笑顔。
同じ歳の同級生に、笑顔ではじめましてと挨拶をするイメージトレーニングを続けていると、城の正面に馬車が止まった。
馬車から降りる。見回すと私たち以外にも沢山の馬車が城の前に止まっていた。グラーレと馬車だけで誰もいないけど、もう皆んな城の中へ入っているのかな。
ピピッと青色ドレスの裾を伸ばす。シワなんて無いけれど、気持ちの問題だ。口元を引き締めて、正面の扉へ向かうロンルカストの背中に続いた。
大きな長方形型の城は、東西南北の各方角の角に4つの塔がくっついている。私はディーフェニーラ様がいらっしゃる西塔か、レオ様が巣食う東塔しか入ったことがなかったので、正門から城に入るのは初めてだ。
立派すぎる真っ白で大きな扉をくぐる。緊張度が、ググッと上がった。
広く煌びやかな廊下を歩く。しばらくすると、ザワザワとした人混み特有の声が聞こえてきた。
角を曲がる。沢山の子供たちが一列に並んでいた。皆んな、いいとこのお坊ちゃんお嬢ちゃんという雰囲気で、綺麗な服を着て大人びた顔つきをしている。
小さな子どもたちの集団なのに、騒いだり泣いたりせずに、すました顔で静かに並んでいる様子が、少しだけ異様に見えた。
えっ、皆んな、私よりも大きい!? 列に近づいたことで、思いもよらない衝撃を受ける。
屋台で謎肉の串焼きばっかり食べてた時と違って、セルーニの栄養満点ご飯を食べるようになってから、身長が伸びたと思ってたのに、ショックだ。この前もセルーニに、スカートの丈が短くなってきましたねって言われたのに……。
背の順に並んだら、1番前になりそう。周りと比べ、自分の身長が平均にちょっとだけ足りていないと分かり、少し凹んだ。
人知れず落ち込みながら、ロンルカストに促され、子ども達の長い列に並ぶ。私が1番後ろだった。
ロンルカストって仕事ができるから、時間よりも早めに行動するイメージだったけれど、遅刻しなければ大丈夫精神だったんだね。ロンルカストの意外な一面を知った。
そして、友達作りのチャンスが減ってしまったことに気がつく。
うぅー、1番後ろじゃなければ、クルッと後ろを向いたり、偶然を装って目を合わせたりして、後ろに並んでいる子に挨拶できたのにっ!
前に並んでいる子に話しかけてみたい……けど、なんか見た目ツンツンしてて怖い。話しかけ方も分からないよ……。
友達の作り方を綺麗サッパリ忘れてしまった私は、心の中でロンルカストに文句を言いながら、馬車でのイメトレ成果を発揮する機会が失われたことを悟ったのだった。
※ 冬呼びについて、セルーニは一言も可愛いとは言っていませんでした。ミアの自爆です。
お読みいただきありがとうございます。
三章も頑張って投稿してまいります。
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