5話 婚約破棄予定の皇子の計画、全部ぶっ潰すと決めた日
「火事騒ぎを起こされて取り逃がした?」
報告を受け、皇子アンヘルは眉をひそめた。
「はい……申し訳ありません」
部下が怯えたように答えると、アンヘルはふぅん、と興味深げに窓の外へ視線を向けた。
「あの子……下品な平民かと思ってたけど。
——思ったより使えそうだな」
窓の外では、授業中のリアナが光魔法の演習をしていた。
***
(うーん……それにしてもあの皇子、陰湿すぎる)
黒板をぼんやり眺めながら私は考える。
リアナは天然特待生の天才なので、授業中に考え事してても問題ゼロだ。
(気に入らない平民を処理するために、男に襲わせる? 普通やる?)
小説での婚約破棄理由だって大概だった。
エミリアよりリアナのほうが役に立ちそう → でも婚約破棄すると悪者になる → なら冤罪で潰したろw
その結果、エミリアの家は没落し、
家族が虐めに気づいた頃には、すでに皇子の策略で追い込まれ……
忠臣だったエミリア父も兄も、全員処刑。
(思い出せば思い出すほど胸糞。
女の子を精神的に支配して、自分の支配下に置くとかガチで無理なんですけど)
そこまで考えて、私はうなずいて
(……よし、邪魔しよ♪)
と、軽いノリで決意した。
Web小説って、敵キャラを強く見せるために能力盛りがち。
つまり私には結構ヒドイン凄いの特典が盛られてる。
それプラスこの世界の“裏設定”を知っているのだ。
しかも私は“家族に捨てられた孤児”設定。
しがらみゼロなので卒業したらサクッと他国で就職すればOK。
ある意味無敵の人。
(さて……どうやって皇子の計画を邪魔しようかな)
皇子が小説内でエミリアを追い詰められたのは、「私の協力」があったから。
私のバックにいる大賢者(理事長)の後ろ盾と私の光の力が揃った時だけ成功したルート。
今の皇子はまだそこまで力がない。
動くなら今。
(まずは、エミリア様の家族に“虐められてる事実”を知らせること。
これ大事。いい人設定の家族なら今なら助けられる)
——でも問題は皇子の外面の良さだ。
悪役令嬢扱いされるエミリア様ですら、婚約破棄されるまで気づかなかったくらい、外面は完璧。
(知らない平民女が「皇子は悪い奴です!」って言っても、そりゃ信じないよね)
……と、その瞬間。
(あ)
私は“最強の武器”を思い出した。
ヒドイン特権:空気が読めない図々しさ+可愛げ(自称)
(これ、最大限に利用すればいけるわ)
授業終了のチャイムが鳴ると同時に、私は中庭へダッシュした。
***
「私の家に……来たい、ですか?」
エミリア様が一人で食事しているところに、私は勢いよく突撃した。
「はいっ!
貴族の生活ってすごいな〜って……ぜひ一度見てみたくて!」
ヒドインぶりっ子スマイル全開で言うと、
エミリア様は少し悩んでから、
「えっと……た、頼んでみます……」
とか細い声で返してきた。
(あ、反応が前より悪い……多分昨日皇子に私の悪口吹き込まれたなコレ)
仲良くなりそうな相手を全部排除してきた皇子。
きっとエミリア様に警戒しろと忠告したのだろう。
でも——。
そんなの知らない♡
「楽しみ〜!!
じゃあ今度のお休み、お願いしますね!!」
「えっ!? 今度のお休み……!?」
「はいっ! 行きますから、話通しておいてくださいね〜!!」
有無を言わせない勢いでエミリア様の手を握りぶんぶん振り、
何か言いかけたエミリア様を置き去りにして走り出した。
(こういうタイプは“押せば勝ち”。
断れない。
無理やり行けばとりあえずOK!!)
ヒドイン最高ーー♡
私はルンルンで走るのだった。




