3話 ヒドイン特権でクラスの嫌がらせを返り討ちにする
(あー。こう来たかぁ)
次の日。
私の机の上にはノートや鉛筆が散乱し、荒らされたようになっていた。
学校に置きっぱなしにしていた物ばかりだから被害は大したことないけれど——これはひどい。
(小説でもあったよね。皇子が“エリシアと仲良くなりそうな子”を全部排除してた、ってやつ)
机を見下ろしながら教室を見回すと、クラスメイトたちは分かりやすく視線をそらした。
うん。間違いない。
誰かの指導のもとやったのだろう。多分公にはかかわってないが裏では皇子が糸をひいているはず。
(やっちゃったなぁ、私。昨日エリシア様助けたの、バレたんだ……)
私は机の上を片づけて、わざと大きな声でつぶやいた。
「あれっおかしいなぁ。私の“学校の名札の予備”、なくなってる〜?」
そう言って教室をぐるりと見渡すと、
「知らないわよ」
「ひとりで騒いでバカみたい」
と、さっそく意地の悪い笑みを浮かべてくる女生徒たち。
ほんの少し前まで、私が光魔法の特待生だからって仲良くしていたはずなのに。
(手のひら返し早っ)
私はにっこりしながら、金色の粉を取り出した。
「ちょっと、何それ?」
女生徒が眉をひそめる。
「あ、名札を探そうと思いってぇ♡
これ“光属性の反応”が出る粉なんですよ。今この学園で光魔法を使えるのって、先生と私くらいしかいませんから。
もし光ったら……そこに名札があるってことですよね?」
にっこり微笑むと、クラスメイトの顔色が一気に青くなる。
「理事長、何て言うでしょうね? あの人、身分より才能を優先してて……平民の私にもすっごく優しいんですけどぉ?」
金粉をぱっと撒いた瞬間——。
一人の女生徒の机が、ぼわっと光った。
「あれれー♡」
私はにまにまとしながら引き出しを開ける。
そこには、きっちり 私の名札 が入っていた。
「うーん?どうしてこんなところにあるんだろぉ。不思議〜♡」
覗き込むと、女生徒は顔を真っ青にして震えだす。
「知ってますぅ?平民だからって虐めるの、理事長が一番嫌がるんですよねぇ。
別にリアナはかまわないんですけどぉ。これ、言ったらどうなっちゃうのかな☆」
「ご、ごめんなさい……! も、もうしません……!」
震える女生徒をよそに、私はクラス全体を見渡した。
「次こういうことがあったら、その時は理事長に報告しちゃおうかな~」
そういって私は教室にいる全員を一度見渡して
「もちろん、その場にいた皆さんも“同罪”です……よ(きゃぴ)」
と、にっこりと微笑んでやると教室は静まり返った——。
***
「私のせいでごめんなさい……」
食堂でパスタを食べていると、エリシア様がしょんぼりしながら席にやって来た。
「え? 何のことですか?」
フォークを動かしながら聞き返すと、彼女は慌てて言った。
「昨日助けてもらったせいで、リアナさんまで虐められてるって……!」
「あはは、気にしないでください♡。
遅かれ早かれこうなってましたから。
だって私、平民ですし!」
小説でも、実際リアナは平民だからと虐められていた。
平民なくせに理事長に気に入られていたというだけで扱いがよかったのを貴族が快く思うわけがない。だから、物語のリアナはエミリアから皇子を奪って威厳を見せようとしたのだ。
もともと虐めらる予定だったのだから今回はそれが少し早まっただけの話。
「それよりお洋服、もう少しだけ待ってくださいね! バイト代が出たら必ず返しますので!」
「洋服代なんて気にしないでください! むしろ……お礼をさせてください。
よかったら今夜、〈トレント〉のレストランに行きませんか?」
「えっ!? あの有名店ですか!?」
「は、はい。よ、よろしければ……ですが」
「行きたいです!!」
トレントのレストランは、平民が一生入れない店。
皇子に目をつけられた時点で“距離を置く作戦”はもう破綻してる。
なら——次の作戦はただひとつ。
仲良くしよう作戦。
(け、けしてレストランに行きたいから作戦変更したわけじゃ……ない。たぶん)
そう心の中で言い訳しつつ、エリシアの手を取ったその瞬間。
「エリシア、何をしているんだい?」
バラの花を背負ってるかのような、きらきら演出つきで現れたのは——
ヤンデレ胸糞皇子だった。




