1話 転生ヒロイン、死亡フラグを思い出す(パンを落とした瞬間)
「遅刻〜遅刻〜!!」
パンをくわえたまま走りながら、私は心の中で悲鳴をあげた。
もうすぐ王立魔法学園セレンティアで授業が始まってしまう。
今日は魔道具学の授業があるから、いつもより早く着かなきゃいけなかったのに……完全に忘れてた!
と、必死で廊下を駆けていたその時。
「あっ!?」
ぽろり、と口にくわえていたパンが落ちた。
その瞬間、私は唐突に思い出してしまったのだ。
——この世界が、「悪役令嬢が主役の小説」の世界であることを。
***
私の名前はリアナ。日本人の転生者……たぶん。
たしかこれは、好きで読みふけっていたWeb小説
『虐げられた悪役令嬢は闇の力を手に入れて復讐する』
——そのストーリーと、この世界の設定がまったく同じだからだ。
寝落ちするまで読んでいた記憶までは鮮明なのに、転生前のその他の記憶がごっそり抜けている。
だから自信満々には断言できないけれど……まあ転生者でほぼ確定だろう。
「リアナさん、大丈夫ですか?」
先生に声をかけられて、私はビクッと肩を震わせた。
「は、はい! 大丈夫です!!」
慌ててパンではなく教科書を拾い上げ、胸に抱える。
私は王立魔法学校に通う平民出身の特待生だ。
貴族だらけの学園で特別枠で入学しているせいで、ただでさえ悪目立ちする。
(せめて授業くらいは真面目に受けないと……!)
この世界の大筋はこうだ。
闇の力をもつ悪役令嬢エミリアは、その力を嫌った皇子に婚約破棄され、寒冷地の国へ追放される。
そこで呪われたヒーローと出会い、闇の力を吸い取り、呪いを解く。
悪役令嬢はその国を立て直し、やがて皇子が「やっぱり本当の婚約者は彼女だった」とアホなことを言い出し、光属性の平民少女を捨てる。
捨てられた平民少女は逆恨みで闇落ちし、悪役令嬢を殺そうとして返り討ち——。
……という、読む分には楽しいけど当事者になったら地獄みたいな物語だ。
(待って。これ、私も死亡フラグ立ってるやつじゃん……?)
教科書に顔を隠しつつ、私はそっと肩を落とした。
***
(よし! 王子と悪役令嬢には絶ッ対に関わらない!)
食堂で買ったサンドイッチを頬張りつつ、中庭をとぼとぼ歩く。
いろいろ考えた末、私が出した結論はひとつ。
(小説だと、皇子が私に目をつけるのって……学校行事の“狩大会”。大きな魔物を光魔法で倒したせいなんだよね)
つまり。
(あそこで目立たなければ、巻き込まれずに平和に卒業できるはず……!)
そう考えながらもぐもぐ歩いていると。
「あら〜、ごめんなさい?」
聞こえてきた声に振り向く。
白い法衣姿の黒髪の少女に、貴族の女子たちがぶどうジュース(?)をぶちまけているところだった。
そう——
この物語の主人公である悪役令嬢、エミリアが虐められている場面だ。
(なんで遭遇しちゃうかなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
私は心の中で盛大に叫んだ。
お読みいただきありがとうございます!
転生ヒロイン(=ヒドイン)として生き残るために、
主人公リアナちゃんはこれからも 全力で皇子ルートを回避 していきます ( •̀ ω •́ )✧
2話では、
悪役令嬢を助けてしまったせいで、早くも死亡フラグが……!?
そしてリアナの“ヒドイン特権(仮)”がちょこっと発動します♡
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続きもがんばって書きます ( •̀ ω •́ )و ✧




