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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第五章 婚約についてのあれこれ

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暗黒魔法の使い手

 空は曇天が広がり、雷鳴も轟いている。豊かに生えていたであろう草木は真っ黒に染まり、朽ちているようだった。

 ヒューヒューと吹く風の音は不気味で、辺りは生ものが腐ったような異臭が漂い、瘴気も漂っていて呼吸するだけでなんだか苦しい。

 カーバンクルは自分で歩くと言って地面へ下り立ったものの、あまりにも酷い状態だったからか、宙を浮いて移動していた。

 私も足下からむずむずとした感覚に襲われている。一歩進むにつれて嫌悪感にも似た感情が腹の奥底から湧き上がってくるのだ。

 視界がほとんど確保されていない中――瘴気が特に濃いエリアにそびえるのは天を突くほど高い樹木。


「嘘でしょう? これが世界樹なの?」

『そのようだが……』


 先ほど関門に巻き付いていたものよりも太い蔦が巻き付き、養分を根こそぎ奪っているのか、樹皮に艶などなく、葉が雨のように落下するという異様な姿と化していた。


「こんな状態になるまで、誰も気付かないなんて」

『酷いとしか言いようがない』


 メルヴ・メイプルが根元にまで這っている黒い蔦を断とうとしたのだが、強度が違うようでガキン! と金属のような音を立てるばかりだった。


『ウーン、カタイノ』

「そうみたいね。無理はしないで」


 おそらく私達にはどうにもできないのだろう。この事態を一刻も早くイエさんに伝えて、聖王に報告してもらわなければ。


『こんな、酷い……。世界樹は死んでいるも同然ではないか……。いったいどうすれば……』

「帰って助けを求めるわよ!」

『あ、ああ、そうだな』


 もしも私一人だったら、もしや犯人なのでは? と疑われていたかもしれない。カーバンクルが証人となってくれるだろうから、その辺の心配はないだろう。


「早く行きましょう」


 再度、カーバンクルを抱き上げると踵を返す。その瞬間、ぞわっと背筋に悪寒が走った。

 振り返った先にあったのは、先端が槍のように鋭く尖った蔦だった。

 私の眼前に迫ったが、メルヴ・メイプルが自らの葉を大きくさせ、硬化したもので防ぐ。

 ゴッ! と鈍い音を立てて防ぐことはできたものの、別の方向からも蔦が迫ってきていた。


「なんなのよ、これ!!」


 黒い蔦は意志を持った魔物のように襲いかかってくる。一本や二本どころではない。

 数え切れないくらいの蔦だった。

 私もポケットに詰め込んでいた葉を使い、蔓を作って蔦に巻き付かせて動きを止める。けれどもすぐに破られて再度襲ってくるのだ。

 反撃する余裕なんて皆無で、攻撃を回避するだけで精一杯だった。

 そんな状況の中、足下を掬われて蔦が巻き付いてくる。

 一瞬にして私はイモムシのような状態になってしまった。

 それだけでなくイモムシ状態のまま体が勢いよく引っ張られ、世界樹の太い枝に逆さ吊りの状態でぶら下げられる。


「くっ……」


 蔦が魔力をじわじわ吸い取っていくのがわかった。こうやって世界樹も枯らしたのだろう。いったい誰がこんなことを――と思っていたら、私がぶら下げられている枝に立つ、人影を発見した。

 瘴気のせいで視界ははっきりしていないものの、スタイルのいいシルエットに見覚えがあった。


「アリッサ・フォン・シュトルト!」

「驚きました。魔力を吸収されていながら意識があるとは」


 まさかアリッサが今回の騒動に加担していたなんて。


「ねえ、誰に頼まれてこんなことをしているの?」

「誰に? いいえ、私は私がしたいことをしているだけです。こんなふうに」

「――!!」


 吐き気と悪寒、全身から血の気が引いていく感覚に襲われ、視界が真っ白になりかける。

 意識を失わないよう、私は唇を強く噛みしめた。

 口内炎になるだろうが、そんなの自慢の魔法薬で直してやる!! そんな強い気持ちでいた。


 おそらく彼女は魔力の吸収速度を速め、また吸収量も増やしたのだろう。

 このまま魔力をすべて失ってしまったら死んでしまう。

 同時に私は気付いた。


「アリッサ・フォン・シュトルト……あなたは〝暗黒魔女〟なのね?」


 視界がぼやけていてよくわからないけれど、アリッサは私ににっこり微笑みかけたような気がした。

 それは肯定を意味するような笑みなのだろう。


「どうして、こんなことを……?」

「それは――そうですね。天国への土産として聞かせて差し上げましょう」


 アリッサは蔦を自らのもとへ集合させ、椅子のようなものを作る。そこに優雅に腰掛けたあと、私に語って聞かせてくれた。


「イエルンの心を手に入れるためです」

「なっ――!?」


 自らの恋心を成就させるために、世界樹をこのような状態にするなんて。


「もしかしてあなたは、魔王復活でもさせるつもりなの?」

「ええ、そう。よくわかりましたね」


 よくわかるも何も、私はこの世界について熟知している聖女スイから情報を聞き出していたのだ。

 そのさい、暗黒魔女は私だったらしいが……。


「五十年前にも、黒魔法の使い手が同じような事件を起こしたのを知らない?」

「それが何か?」

「ただの猿真似だと思って」

「――!!!!」


 怒りの形相を浮かべたアリッサが、禍々しい黒の魔法陣を展開させる。

 体に巻き付いていた蔦の力がさらに強まった瞬間、〝今だ!!〟と思った。

 魔法の展開中、術者はどうしても無防備になる。その隙を狙って太陽の手をフルパワーで使ってみたのだ。

 先ほどは蔦に触れるのが怖くて使えなかったが、今は体に巻き付いている状態だ。

 どうにでもなれ、と思って発動させると、蔦を焼き切ることに成功したのだ。 

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