奇跡の裏側
「まさか聖女の存在がまったく機能していないなんて……」
歴代の聖女は先代の聖力が衰え始めたときに、神の神託によって新しく立てられる。
「だったら聖女の儀式もデタラメだってこと?」
『うっ、まあ……一応、聖力の高い娘を抜擢しているのだが、ここ半世紀くらいの儀式は国民へ聖女の必要性と存在感を主張するパフォーマンス的な意味合いがあったのは否定できん』
「そんな……」
ならばもしもこの世界に魔王が復活したらどうなるのか。その問いかけに対し、カーバンクルはしどろもどろと答える。
『そのー、なんだ。まあ、人類に頑張ってもらうしかない』
「国民に聖女を信仰させて、寄付金を集めて、平和を信じさせているなんて酷いじゃないの!」
『ぐうの音も出ぬ』
ここでカーバンクルを責めても仕方がないことだとわかっている。
けれどもモヤモヤした気持ちに蓋をすることなんてできなかったのだ。
「長年、聖女の守護があるわりに魔物が多いとは思っていたわ」
『ただ、ここ数年は大きな被害など出ていないではないか』
「それはきっと、イエさん達聖騎士が一生懸命魔物と戦っているからなのよ」
英雄と崇められるくらいなので、イエさんが魔物のほとんどを倒しているのだろう。
たった一人の生身の人間が起こした奇跡で成り立つ平和なんて、あってはいけないことなのに。
「この問題はここで話しても仕方がないことよね」
『う、うむ、そうだな』
「まずはこの蔦をどうにかしないと」
フルパワー状態の太陽の手で触れるのはどうだろうか、と提案したのと同時に、メルヴ・メイプルが一歩前に出てくる。
『メルヴ・メイプルニ、任セルノ!』
「え、任せるって……」
メルヴ・メイプルは自らの手先の葉をナイフのように鋭くさせると、黒い蔦を切り刻んでいく。
『な、なんぞ!?』
「嘘でしょう?」
あっという間に関門に絡みついていた蔦はなくなった。
『お、おい、あの大根は何者なんだ?』
「葉っぱ精霊だと聞いていたけれど」
なんでもできる頼もしい子だと思っていたが、まさかこんなことまでできるなんて。
「メルヴ・メイプル、大丈夫? どこか苦しいところはない?」
『ゼンゼン、平気ナノ!』
「だったらいいけれど」
暗黒魔法の影響が恐ろしいので、カーバンクルが祝福を与えた聖水で葉っぱ部分を洗っておいた。
カーバンクルが扉を前脚でちょんと触れると、関門はあっさり開いた。
『おい、入れそうだぞ!』
カーバンクルは私達を振り返って嬉しそうに報告してくれたものの、ギイイイイイイ……と不気味としか思えない音を立てて開かれる関門の向こう側は真っ暗だった。
とても神聖なる世界樹が生える空間には見えない。
『どうしたのだ?』
「いえ、前、見てみてちょうだい」
『前? ――ヒッ!! なんぞこれは!?』
早くも回れ右をして帰りたくなったものの、この状態になった世界樹のエリアを無視するわけにはいかないだろう。
『どどどどど、どうするのだ?』
「どうするって、行くしかないでしょうが」
このまま逃げ帰った結果、世界樹が枯れていた、なんてことが明らかになれば、私達は槍玉に挙げることなどわかりきっている。
もう、こうなったら自棄である。
「さっさと確認して、帰るわよ!」
『なぜ、そのように肝が据わっているのだ!?』
「とてつもなく動揺しているわよ! でも、こんなところでうろたえてもどうしようもないでしょうが!」
ぐっ、と拳を握る私に、メルヴ・メイプルがそっと手先を重ねてくれる。
『大丈夫、メルヴ・メイプルモ、一緒ナノ』
「メルヴ・メイプル……ありがとう」
『わ、我も行くぞ!』
「あなたは強制参加だから!」
誰のせいでここまでやってくることになったのか。
まあ、ほいほいついてきた私も悪いのだけれど。
揉めても仕方がない。
足下がガクガク震えているカーバンクルを抱き上げ、メルヴ・メイプルと手を繋いだ状態で関門を潜ったのだった。




