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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第五章 婚約についてのあれこれ

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イエルンからの申し出

 私とクレーブルク大公家の次男であるイエさんの婚約は貴賤結婚だ、なんて影で囁かれてしまうだろう。なんて思ったが、そもそも周囲の人どころか、聖王陛下が許してくれるわけがない。

 上位貴族は聖王の許可がないと結婚できないのだ。

 これから調査をするためにイエさんと二人きりになることもあるだろうし、ライマーみたいに一緒にいることに関してあれこれ言われるのも腹が立つので、婚約者同士という立場はある意味便利なのかもしれない。

 それにイエさん自身もあんなに喜んでいる。期間限定になるかもしれないが、婚約者役を立派に務めようではないか。

 なんて考えていたら、数日後にイエさんがとんでもない物を持ってやってきた。


「レイさん! 聖王陛下からの結婚許可証をいただけました」

「ええっ、本当に!?」

「はい!」


 イエさんは満面の笑みを浮かべ、受け取った証書を見せてくれた。

 たしかに聖王の署名と聖印がしっかり押されている。


「ど、どうして許可されたの? その、私とイエさんには家柄の違いもあるし、魔女だし、年もその、若くないし」

「若くないのは私も同じです」

「そ、そういえばイエさんって、何歳なの?」


 以前のくたびれた格好のときは四十代前後なんだろうな、と思っていた。


「三十一です」

「あ、そうなの」


 今のイエさんはとてつもなく若く見えるので、もしかしたら二十代半ばかも、なんて考えが脳裏をよぎっていたのだ。年上だと聞いて安心する。


「私の年齢、知っている?」

「存じませんが、どんな年齢でもレイさんはレイさんです。一度たりとも気にしたことはありません」

「あ、ありがとう」


 このまま年齢不詳でいいかな、と思いつつも先に相手のことを聞いてしまった手前なので言っておこう。


「私は二十九歳よ」

「そうなんですね」

「意外と年だとか思わなかった?」

「いいえ、特に何も。そもそも年齢なんてただの数字なんです。大事なのはその人が何を考え、どう生きているかだと思っています」


 なんともサラッと答えてくれる。私が年齢のことについて気にしているのが馬鹿馬鹿しく思えるくらいに感じてしまった。


 それにしてもまさか聖王から結婚許可が出てしまうなんて。


「私はもともと次男ですし、結婚はそこまで重要視されないようで」


 一度目の結婚は元妻であるアリッサさんの家のほうから熱烈な打診があり、見返りも大きかったので断らなかったという。


「そのときの私は大きな実績など何もなかったので、強く拒否できるような発言力などなく……」


 十一年前もワイバーンなど各地で魔物討伐をしていたかと思うのだが、親に認められるほどの活躍ではなかったようだ。


「当時の聖王陛下は結婚したいと思う相手がいるのであれば、打診は断ると言っていたのですが、その、結婚したいと思っていたお相手にお断りされてしまって」


 お断りした女は私である。心の奥底から申し訳ないと思ってしまった。

 ちなみにイエさんのご両親はすでに他界されていて、長年聖王が父親のような役割を果たしてくれたらしい。

 一方、年の離れた兄とは疎遠で、一年のうちに面と向かって会うことは片手で足りるほどの回数だという。


「でも、いいんです。前にも言いましたが、もしもあのときレイさんと結婚していたら、あなたらしさを潰してしまっていたでしょうから」

「私らしさ?」

「ええ、明るくて強くて優しくて、困っている人を見捨てられない。薬局で常連さんと話をしているときの、穏やかなあなたの表情を見ていたら、無理に結婚しなくてよかったんだな、って何度も思っていました」


 力がないから人生が思い通りにならないのだと気付いたイエさんは、身を粉にするように働き、たしかな実績を積んで今に至るという。

 そんなイエさんが結婚を望む相手が私だなんて……戦々恐々としてしまったものの、周囲の人達が大賛成だったというわけではなかったらしい。


「実は兄が私達の結婚をよく思っていないようで、唯一反対しているのです」

「イエさんの兄というのは――」


 確かアリッサと不貞を働いていた相手で、イエさんが養育費を払う子の父親であり、聖教会の枢機卿であるグレンダール猊下だ。

 一度、大祭儀が聖教会で行われたとき、その姿を見たことがあるのだが、厳格そうな人物だった記憶がある。


「聖王陛下の決定を兄が覆せるわけがないので心配はしなくてもいいのですが」


 ここでイエさんは私が想像していなかったことをお願いしてくる。


「レイさん、一度兄に会ってくれませんか?」

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