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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第四章 聖教会のいざこざ

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まさかまさかの展開に

 ありえない話を聞いたからか、なんだか酷く疲れてしまった。

 今日のところはおいとまさせていただく。

 カーバンクルは引き続き預かりたいと申し出ると、聖女スイはあっさり承諾してくれた。


「私、モフモフした生き物が苦手だから助かる!」


 そんなことを言われてしまったカーバンクルは、今の聞いたか!? と訴えるように私を見つめてきたのだった。


「シスターや聖務官には、カーバンクルは聖櫃せいひつの間に引きこもっているって言っておくから」


 突然引きこもり扱いされることになったカーバンクルは、再度私を見て酷くないか!? みたいな視線を向けていた。

 ちなみに聖櫃の間というのは聖女と神聖獣のみが入れる空間らしく、他人は介入できないので安心するように言ってくれた。


「それであなたは暗黒魔法の使い手を探すの?」

「まだわからないわ」


 私が単独で首を突っ込んでいいものではないだろう。イエさんに相談しないといけない。

 ひとまずお礼を言ってお暇しよう。


「あなたのおかげでいろいろ知ることができたわ。ありがとう」

「いえいえ」


 こうやって本当の彼女と向き合ってみたら、ごくごく平凡な少女だと思ってしまう。

 まあ、ライマーにいびつな愛を向ける部分から顔を背ければだけれど。

 ふと、気になったことがあったので質問してみた。


「あなた、本当の名前はなんていうの?」

「どうして?」

「別に、ただの好奇心で聞いているだけ」

ひなだよ」

「ヒナ……かわいい響きの名前ね」

「ありがとう! お母さんが考えた名前で、お気に入りなの! ピヨピヨって意味なんだって」

「ピヨピヨ……」

「そう! よかったらこれから私のことは雛って呼んで」

「大丈夫なの? 他の人が聞いたら変に思わない」

「うん。だって、せっかくお気に入りの名前があるのに、誰も呼んでくれないのは寂しいから」


 十五歳といえば成人前で親元にいる年頃だろう。そんな少女が異世界に呼び寄せられて健気に生きているのだ。

 名前を呼ぶくらい、いいのではと思う。


「まあ、私を雛って呼んでおかしな目で見られるのは魔女のほうだろうから」

「あなたねえ~~~~!!!!」


 一瞬でも同情したのが馬鹿らしく思うくらいの物言いである。

 しかしまあ、彼女――ヒナは無償でさまざまな情報を提供してくれたので、一つくらい願いを叶えてもいいだろう。


「またわからないことがあったら、あなた……ヒナに話を聞きにくるわ」

「ありがとう、なんでも聞いて」


 少しヒナの瞳が潤んでいるように見えたのは、きっと気のせいだろう。

 その後、私はカーバンクルを襟巻きのように巻いた状態で聖教会を出る。

 気付かれるかもしれない、と思ったものの、あんがいバレなかった。


 頭がぐちゃぐちゃだったものの、ひとまずイエさんに相談したい。

 そう思ってその辺にいるハトと一回限りの契約を交わし、イエさんへの手紙を運んでもらった。


 夜――イエさんが転移魔法で訪問してくる。人目を避けてのことなのだろう。


「すみません、勝手に薬局を着地点にしてしまい」

「問題ないわ」


 クレーブルク大公家のご子息が夜に魔女の薬局へ通っているという噂が流れたら、イエさんにとって大迷惑だろう。なんて言ったら、イエさんは首を横に振って否定した。


「ぜんぜん迷惑ではありません」

「そう? ありがとう」


 ただ、会うたびに転移魔法を発動しなければならないというのは大変だろう。

 魔力の消費も大きいというし。


「いっそのこと、一緒に行動しても怪しまれないように婚約とかしちゃう?」


 なんて、冗談のつもりだったが、イエさんはいつになく真剣な表情で私の手を握ると、想定外の言葉を口にした。


「喜んで!」


 今、私の目は点となっているだろう。


「あの、ごめんなさい。今、なんて言ったのかしら?」

「レイさんの婚約者になれるなんて、夢のようです。十一年前の願いを叶えてくださるなんて……本当に嬉しい」


 イエさんの瞳が宝石みたいにキラキラキラと輝いている。

 どうやら冗談だとわかっていないらしい。


「ずっと悩んでいたんです。二人でいたいのに、よからぬ憶測や噂が流れるのはレイさんに申し訳ない、と。婚約を結んでしまえば、私達の間に障害なんてなくなりますよね!」


 どうしよう……。こんなにも喜ばれてしまったら、軽い気持ちで言いました! なんて言えない。

 それにイエさんは先ほども言っていたように十一年前も婚約を申し込んでくれたのだ。

 ライマーと別れた今、彼との婚約ができない理由なんて一つもなかった。


「今後はレイさんの婚約者として、恥ずかしくない人間になるよう務めます!」

「わあ、頼もしい……」


 私との婚約を噛みしめるように喜んでいるイエさんを前にしながら、やってしまったと思ったのだった。

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