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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第四章 聖教会のいざこざ

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異なる点

「ここはね、私の世界にあった乙女ゲームとまったく同じ世界観と、同じ人達が住む世界なの! 二次元の絵が三次元になっているけれど違和感はまったくなくて、大成功過ぎる実写化って感じ?」


 言っていることが欠片も理解できない。

 それよりも何よりも、私が暗黒魔女だったと言われて血の気がサーーーーーと引くようだった。

 動揺している場合ではない。私は暗黒魔女ではないし、なるつもりもない。今は聖女スイの話に集中しよう。

 本当にわからないことだらけなのだが、喩えるならば小説などで物語を知っている世界が現実となって、登場人物に憑依したと表現すればいいものなのか。


「メインヒーローは聖教会の筆頭騎士イエルンなんだけれど、彼と悪妻アリッサを離婚させて、彼らの子どもを助けてあげるところからゲームがスタートするのよ」


 話を聞くに世界観や登場人物、状況は似ているけれども、現実は異なっているようだ。


「他にも八人の貴公子がいて、相手はよりどりみどりなんだけれど、私が大好きだったのは攻略対象外のモブキャラ、ライマーだったのよね!」


 なんでも彼女が知っている〝セント・ジュエル〟の中でライマーはコミカルなシーンにのみ登場し、数々のドジを披露するようなコミカルなキャラクターだったらしい。


「主人公の代わりにドブに嵌まったり、ひっくり返った鍋を被ったり、足を踏み外して盛大に転んだり……素敵なシーンばかりだったんだ~」


 独特な感性の持ち主だと思ったが、口に出さないでおいた。


「だからこの世界に転生していると気付いてすぐに、ライマーに会いにいったの!」


 ライマーは聖女スイに好かれるなんて夢にも思っていないことだっただろう。好きな物から嫌いな物、家族構成に悩みなど、すべて知り尽くしていたからか、ライマーの気持ちはどんどん聖女スイのほうへと傾いていったという。


「彼のことはなんでも知っていたの。攻略本だけじゃなくて、ファンブックも読みあさって、裏設定まで記憶していたから」


 彼が好みそうなか弱く繊細な聖女スイのキャラを演じていたのだという。舞台役者もびっくりの熱演っぷりだっただろう。


「でも、ラスボスであるあなたと婚約を結んでいたのはびっくりした」

「あなたが知る物語では、私とライマーは婚約していなかったの?」

「そうなの!」


 なんでも作中に登場する私はとにかくイエさんに執着し、ありとあらゆる手段で手に入れようと目論む極悪人だったという。


「世界樹の力を利用して魔王を召喚し、自分は魔女であることを隠して、さらわれた姫君のような悲劇のヒロインを演じていたんだよ」

「待って! その世界樹の話、詳しく聞かせてほしいのだけれど」

「詳しく? 世界樹は魔王を封じる鍵みたいなもので、豊富な魔力を使って抑え込んでいるんでしょう?」


 その話は初耳である。世界樹は巨大魔石である月から降り注いだ魔力を受け止め、各地へ供給させる存在ものだと思っていたのに。

 五十年前、黒魔法の使い手達が総力を挙げて行動を起こしたのは、もしや魔王復活を目論んでいたのか?


「でも不思議だよね~。この世界では聖騎士イエルンのほうがあなたへ執着しているみたいに見えるから」

「イエさんが私に? それはないわ」

「またまた~。私とライマーの婚約披露宴で薔薇を捧げたあと、お姫様抱っこで姿を消すシーンはゲームのスチルみたいだったわ」

「すちる?」

「スチルっていうのは美麗な一枚絵が登場する、物語の見せ場みたいなやつ」

「挿絵みたいな意味?」

「うーん、まあ、そんな感じかな。とにかくロマンチックだった! ちょっと聖騎士イエルン×魔女レイに目覚めそうだったわ」


 そんな話を聞いている中でハッとなる。


「ねえ、暗黒魔女だった私の全名って覚えている?」

「〝レイ・ダークネス〟だけれど、なんで?」

「いいえ、なんでもないわ」


 暗黒魔女の属名を知ることができただけでも、大きな収穫かもしれない。

 記憶力がいい彼女に感謝した。


「あなた、暗黒魔法の使い手に誘拐されたって話をカーバンクルから聞いていたけれど、どうやって生還したの?」

「そういえばそんなこともゲーム中のイベントであったな~。私、眠っていたからそのイベントが発生していた自覚なんてなかったんだけれど」


 当然ながら、そのような事件が起きていたことなどシスターや聖務官なども知る由もないという。

 暗黒魔法の使い手はこっそり聖女のもとへ侵入し、誘拐していたそうだ。


「ということは、どこから忍び込んだとか、対策とか、何もしていない状態なのね」

「ええ。イベントが発生していたこと自体、初めて知ったんだもの」


 何か証拠でも掴んでいるかもしれないと思ったものの、そうではないようでがっくり肩を落とす。


「そもそもその事件って、あなたの配下にやらせたことじゃないの?」

「違うわ」

「てっきりライマーにちょっかいを出していた私への腹いせにやっていたことだと思ったのだけれど」 


 そんなことするわけない。ライマーに関しては仕返ししようとか、そういう気持ちは一切なかったのだ。


「でも、そのイベントとやら発生するってわかっていたのに、どうして周囲の人達に警戒するよう命じなかったの?」

「何もしないほうが物語に盛り上がりが出ると思って」

「あのね、この世界は現実なの! あなたにとっては物語の世界という認識があるから、現実味はないのかもしれないのだけれど」


 死んだら最後。奇跡的に生き返ることなどない。

 そう伝えると彼女は目を丸くして驚いた表情を浮かべる。


「えー、この世界、教会で蘇生術を使うことはできないの?」

「死者を蘇らせる奇跡は存在しないわ」

「嘘だー!」

「嘘なんか言うわけないでしょうが」


 誰かこの子を教育し直してくれ、と心から思ったのだった。

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