衝撃の新情報
ふと、テーブルの上に数社分の新聞紙が広げられていることに気付く。
よくよく見たら、すべてライマーが拘束されたことについて書かれた記事だった。
もしやシスターや聖務官らにライマーが犯罪行為を犯した証拠である新聞を突きつけられ、この男のことは諦めろとか言われたのか。
さすがの聖女スイも、犯罪とは知らなかったとはいえ、聖騎士の座を剥奪されたライマーになんて愛想を尽かしたに違いない。
新聞は見なかった振りをしよう、と顔を上げると、聖女スイとばちんと目が合う。
「ライマー様の記事、読まれました?」
「いいえ」
「あまり驚いていないようですけれど、拘束されたのはご存じでしたの?」
「まあ、そう、ね。知っていたわ」
というか、逃走を封じるために足かけをして転ばせたし、駆けつけた応援の騎士にライマーの身分をすらすらと報告した。
協力者として謝礼金と賞状を渡したいという打診があったものの、丁重にお断りしたのである。
もしも受け取っていたら、〝薬草魔女大手柄! 犯罪者逮捕に貢献!〟などという記事が出ていたに違いない。
聖女スイは俯き、ぶるぶると震えていた。
可哀想に。ライマーとの仲を引き裂かれただけでなく、相手が犯罪者だったなんて。
カーバンクルは彼女を十五歳の少女だと話していたか。
年若い娘にはショッキングな話だったのだろう。
「あの、気にしないほうが――」
声をかけた瞬間、聖女スイはパッと顔を上げる。
その瞳はキラキラというより、ギラギラと輝いていた。
「ライマー様、不憫で気の毒だと思いません!?」
「え……?」
嬉しそうというより、興奮しているような表情で問いかけられる。
わけがわからず返答に困ってしまった。
「やっぱりライマー様は不幸な目にあってこそ、輝いていると思うんです! 魔女様もそう思いませんか?」
同意を求められても、共感なんて欠片もできないのだが。
いったいどうしたというのか。先ほどから、だいぶ様子がおかしい。
「これまでのライマー様もとってもかっこよかったのですが、何かが足りないと思っていましたの。それが今回の事件のおかげで、明らかになりましたわ」
聖女スイは新聞に描かれた出版社の画師が書いた、ライマー逮捕の瞬間をイメージした絵を見つつうっとりと恍惚の表情を浮かべた。
「ライマー様の魅力を引き立てるものは、〝不憫〟と〝不幸〟、それから〝不運〟ですわ!!」
なんともねじれた愛情表現を大発表してくれた。本当に、返す言葉が見つからない。
自分なりに聖女スイの言葉を咀嚼し、ほんの少しだけ理解を示してみる。
「えーつまり、あなたはライマーに対して愛想を尽かしたわけではないのね?」
「どうして愛想を尽かすというのですか? 彼のことは変わらずに愛しておりますわ」
聖女スイは輝くような笑みを浮かべながら言ってくれる。思わず「うわ、眩しい」と口にしてしまった。
なんというか、ライマーの人生における運は尽きたな、と思っていたのだが、天は彼を見捨てていなかったらしい。
聖女スイの愛さえあれば、きっと何もいらないだろう。
たとえ結ばれることはなくても、二度と面会など叶わなくても、誰かに愛されているというのは励みになるに違いない。
呆れて物も言えなくなっていたが、カーバンクルから『おい、そろそろ本題へ移れ』と促された。
そうだった。彼女の惚気話を聞きにきたわけではなかったと思い出す。
「私はあなたに聞きたいことがあってやってきたの」
「まあ、そうだったのですわね。気付かずにペラペラ喋ってしまいまして」
背筋をピンと伸ばし、私は聖女スイに問いかける。
「あなた、〝聖女スイ〟ではないそうね?」
その問いかけに、彼女はかわいらしく小首を傾げた。
「カーバンクルから話を聞いたの。本物の聖女様の魂を引き寄せようと思ったら、あなたの魂を体に導いてしまった、と。あなたは本当は〝チキュウ〟という異世界で暮らしていた、十五歳の女の子なのよね?」
「なーんだ、バレていたんだ!」
おしとやかな様子でいた聖女スイだったが、姿勢を崩し、「あーあ」と投げやりな様子で言う。
「せっかく異世界転生を楽しんでいたのに、ラスボスにバレてしまうなんて」
「ラス……ボス?」
「そう! あなたはこのゲームで大量殺戮を行う凶悪な〝暗黒魔女〟なの!」
聞きたかった情報がポロリと飛び出てくる。
しかしながら、聞き捨てならない新情報もあった。
「私が暗黒魔女ですって!? 嘘よ、そんなの!」
「嘘じゃないよ。だって私、〝セント・ジュエル〟で何度もあなたと戦ったんだから!」
頭が真っ白になる。いったいどういうことなのか。欠片も理解できなかった。




