面会
ライマーが下宿していた大衆酒場は、違法薬物の取り引きの場となっていたらしい。
事情を知らない者に大金を運ばせるという手口だった。
ライマーは自分が運んでいたのが違法薬物だと知らずに危ない橋を渡っていたわけである。
通常、依頼人は簡単に姿を現さないようだが、ライマーという今世紀最大の抜けた男を相手にしていたからか警戒心が緩んでいたのだろう。
あっさり拘束されてしまった。
騎士隊は長年、この組織を追いかけていたものの、なかなか尻尾を掴めていなかったのだ。
ただ、だからと言ってライマーのお手柄にはならない。
処罰が聖騎士の身分を剥奪されるくらいで収まればいいものだが……。
まあ、私には知ったこっちゃないという話である。
ちなみに聖女スイは大衆酒場で下宿していなかったらしい。
なんでも聖務省の人達がやってきて、連れ去ってしまったようだ。
その後、ライマーは職場で聖騎士として在り続けるか、それとも聖女スイと結婚するか、どちらか選べと選択を迫られてしまったそう。
ライマーは迷うことなく、聖騎士で在り続けることを選んだらしい。
その態度に職場の上司の表情は引きつっていたそう。
もしも聖女スイとの結婚を選んでいたら、専属護衛騎士の称号がくっついてくる。たとえ上司であっても聖騎士を辞めさせることなどできなかったのだ。
結果的にライマーはすべてのものを失ってしまうのかもしれない。
まあ、真面目に生きて借金返済をしようとせず、怪しい高額闇副業なんてするからこういう目に遭うのだ。
イエさん曰く、ライマーは長くても数ヶ月ほど拘束されたのちに、出所してくるだろうとのこと。
今後は真面目に生きてほしい。心から思ったのだった。
これでめでたしめでたし――となるわけがなく、私は本来の目的である聖女スイとの面会ができずにいた。
聖女なんて簡単に会える相手ではない。
どうしようかと思い悩んでいたら、カーバンクルが声をかけてくる。
『我ができることがあれば、なんでも協力するが』
「なんでも!? あなた今、なんでもって言った?」
『あ、ああ。だが、常識の範囲だぞ!』
「大丈夫、きっと……」
悪い魔女のようにヒッヒッヒッと笑う私を、カーバンクルは疑惑の目で見ていた。
そんなわけで、私はカーバンクルの協力のもと、聖女スイへの面会を叶えるために聖教会へ向かったのだった。
◇◇◇
手には鳥かご、その中にはカーバンクル。
中に入ったカーバンクルは『これは常識の範囲外だと思うのだが』とぶつくさ文句を言っていたが、きれいに無視した。
私は聖女スイへの面会を乞う。
「偶然、聖女様に仕える神聖獣カーバンクルを発見したの。捕獲に成功したから、聖女様に会わせてちょうだい」
聖女スイとも顔見知りで、薬草魔女だと言ったらわかってもらえるだろうことを伝える。
受付らしき場所にいたシスターは怪しむような表情を浮かべつつ、しばし待つように言ってきた。
待つこと一時間ほど――今日は難しいのかも。なんて思っていたら、以前薬局に聖女スイを連れ戻しにやってきた純白のベールを被ったシスターがやってきた。
「魔女様、カーバンクル様が見つかったと聞きまして……ああ!!」
鳥かごの中にいるカーバンクルを確認するやいなや、シスターは膝から崩れ落ちた。
「カーバンクル様、よかった……。ご無事だったのですね」
『ま、まあ、この通りな』
どうやら盛大な心配をかけていたらしい。こんな反応を見たら、このあと再度、カーバンクルが失踪するという作戦を実行するのが申し訳なくなる。
「聖女様のもとへお連れしますので、どうぞこちらへ」
そう言ってシスターは転移魔法を展開させる。下り立った先は水晶のシャンデリアがぶら下がる、シックで上品な白で統一されたお部屋だった。
「まあ、魔女様ではありませんか!」
いつもの明るい調子で聖女スイが私を迎えてくれた。鳥かごの中にいるカーバンクルに気付くと、「あら」とさほど感動もしていないような反応を示した。
カーバンクルは今の薄いリアクションを見たか!? と訴えるような目で見てきた。
「魔女様がカーバンクルを見つけてくださったのですね」
「ええ」
「どこにいたのですか?」
「うちの屋根裏に落下してきたのよ」
「そうだったのですね。この子がご迷惑をおかけしたようで」
聖女スイが憂いの表情を見せると、聖務官が駆け寄り、修繕費だと言って金貨が入った革袋を用意してくれた。足りないようであれば、後日請求してほしいとのこと。
別にカーバンクルが屋根に大穴を開けたわけではないのだが、貰えるものは貰っておく。
シスターがカーバンクルのために聖水やお菓子などをたっぷり用意する。
鳥かごから解放しようとしていたので、また逃げるかもしれないと忠告しておいた。
シスターが白い砂糖菓子を摘まんでカーバンクルに差しだすも、『うえっ!』と嘔吐くような声をあげていた。
「あーーー、お腹が空いていないのかもしれないわね」
シスターがショックを受けた表情を浮かべていて気の毒になったので、そういうことにしておく。
と、お喋りはこれくらいにして本題へ移る。
「少しあなたと話したいことがあるの。人払いしてくれるかしら?」
「魔女様が、わたくしと?」
「ええ」
「わかりましたわ」
ダメ元でのお願いだったが、あっさり聞き入れてもらえた。




