再会
教えてもらった場所には明るい時間にいくように言われた。
けれどもここまでやってきたので、ついでに面会にいくことにした。
忠告してくれた大家さんに感謝しつつ、ライマーが下宿しているという大衆酒場を目指した。
中央街から下町のほうへ進んでいくたびに、街灯が少なくなっていく。
道ばたで酔っ払いが眠っていたり、怪しい露天があったり、がらの悪い輩がたむろしていたり、けっこう治安が悪い。
そんな状況でも、頭巾を深く被ったローブ姿の私に声をかける者はいない。
魔女だとわかっているので、関わらないようにしているのだろう。
差別など現在はほぼなくなっているものの、まだまだ地域によっては根強く残っているのだ。その中でも、この辺りの人達は魔女を恐れて近寄らないようにしているに違いない。
中央街から歩くこと三十分ほどで大衆酒場に到着した。辺りはすっかり真っ暗になってしまった。
お店は賑わっていて、ガヤガヤと騒がしい声が外にまで聞こえている。
そんな客の中にライマーを見つけてしまった。
あろうことか彼は、ぼさぼさの髪に虚ろな瞳、無精髭を生やした状態でぼんやり麦酒を飲んでいたのだ。
一度も見たことがない姿なのに、一瞬でわかってしまったのがなんだか悔しい。
十年間も一緒にいたので、どんな姿でも気付いてしまうのだろう。
それにしてもライマーは身だしなみには人一倍気を使っていたのに、いったいどうしたのか。
ライマーはお店の外から眺めていた私に気付いたようで、迷子の子どもが母親を見つけたように必死の形相で駆け寄ってくる。
「レイ!!!!」
そのまま抱きついてこようとしたので、サッと避けて回避した。
するとライマーは勢いあまって転倒し、ごろごろ転がっていく無残な様子を見せていた。
普段であればどうして避けるのかと怒るところだが、ライマーは私を見て「よかった」などとわけがわからない言葉を呟く。
「お前、俺のところに戻ってきたんだろう?」
「は?」
「早く引っ越そう!! ここは酷いんだ!!」
「何を言っているの?」
「何って、よりを戻しに来たんだろう?」
「そんなことあるわけないでしょうが!」
ありえない言葉を耳にし、ゾッとしてしまう。
何を言っているんだ、頭を冷やせ、と言って冷水を浴びせてあげたい。
「そんな他人行儀なことを言わないで、なあ」
「他人に間違いないから」
「でも、俺がいないと、お前も寂しいだろう?」
「いいえ、ぜんっぜん寂しくないから! むしろ、あなたという足かせがなくなって、自由気ままに生きているわ」
「足かせだなんて酷いな~」
どうやら他人の足を引っ張っていた意識は芽生えていないらしい。なんて前向きな男なんだ、と信じられない気持ちになる。
「俺、お前がいなくなって、反省したんだ。レイと別れてからというもの、何もかも上手くいかなくって……」
私が人生を捧げてライマーを支えていたのだ。それがなくなって上手くいかないのは当然である。
「スイは美人だが家事はできないし、料理もクソまずくて、死にそうだったんだ」
聖女スイの料理が口に合わないのはカーバンクルだけではなかったようだ。
「シルク泡石鹸の借金もすごくて」
なんでもシルク泡石鹸は第三者の介入があり、工房を借りて、従業員を雇って、大々的に生産していたようだ。ライマーは将来、莫大な利益を得ることができるだろうという甘言に乗ってしまい、保証人になっていたという。
シルク泡石鹸の危険性が広まった結果、販売停止となり苦情も殺到。
ライマーの背中には負債ばかりがのしかかってきたという。
「借金で首が回らないんだ。毎日借金取りも押しかけてきて、ここの下宿先も追いだされそうで」
そんな事情があったので、嬉々とした様子で私に駆けよってきたのだろう。
「あなたね、他人に頼らずに自分でどうにかしようとか考えなかったわけ?」
「自分でどうにかできる状況じゃないんだよ! いいから俺の言うことを聞け!」
下手に出ていたライマーだったが、ついに本性が出てしまう。
「また薬草石鹸でしこたま稼いで、俺を支えろよ」
「馬鹿なことを言わないでちょうだい! 私は二度と、あなたに関わるつもりはないの!」
「何を言っているんだ! 俺のおかげで魔女になって、裕福な暮らしをしているくせに」
「魔女になったのはあなたのおかげではないわ。あなたのせいなの! それに私が選んだことなのよ!」
カッとなったライマーが手を振り上げる。受けて立とうじゃないかと奥歯を噛みしめたが、衝撃は襲ってこない。
「痛っ!! いたたたたたたた!!!!」
暗闇の中、何者かがライマーの腕を掴んで捻り上げていた。
「レイさんに暴力を働くことは許しません」
「イエさん!?」
メルヴ・メイプルが魔石灯で辺りを照らす。美しい顔を隠さずに現れたのは、イエさんだった。




