面会を求めて
翌日――完成したマルメロの固形ジャムは一口大にカットし、チーズとくるみなどのナッツを添えて出してみた。
普段はお酒のおつまみとかにして食べるのだけれど、昼営業のメニューなので前菜扱いである。
そんなマルメロの固形ジャムは大好評で、常連さん達から売ってくれとまで言われた。
ただマルメロの季節は秋で、市場で購入できたのも偶然である。また来年のお楽しみに、とだけ言っておいた。
カーバンクルにはマルメロの固形ジャムを使ってゼリーを作ってあげた。
このゼリーは果汁をゼラチンで固めたぷるぷるとしたお菓子ではなく、グミに近い食べ物である。
作り方は簡単。マルメロの固形ジャムをカットし、粒状砂糖をまぶすだけ。あっという間にマルメロのゼリーの完成だ。
「カーバンクル、おかしよ」
『おお、昨日のマルメロのやつだな!』
今日もカーバンクルは地下から在庫を探してきてくれたり、食料庫の整理整頓をしてくれたりで大活躍だった。ご褒美としてマルメロのゼリーを存分に味わってほしい。
カーバンクルに仕事を教えてくれたメルヴ・メイプルには、マルメロの固形ジャムをお湯に溶かした飲み物を与える。おいしそうにごくごく飲んでいた。
カーバンクルは宝石を掴むようにそっとマルメロのゼリーを持ち上げ、太陽の光に透かしている。
『ふうむ、美しい色合いだ』
「マルメロはもともと黄色い果物で、加熱するとそんな色になるのよ」
『おお、そうなのか!』
カーバンクルはしばしマルメロのゼリーを眺めていたが、意を決した様子で頬張る。
『むうううう、なんと甘美な味わい! まるでルビーを食しているようだ!』
お気に召していただけたようで何よりである。
ドライアドもお腹が空いたのでマルメロのやつをくれ! と訴えてきたので、何かに使えるかもしれないと乾燥させていたマルメロの皮をすり下ろした水を与えた。
『むう、どうしてわしだけ皮なんじゃ!』
「皮にたくさん栄養があるのよ」
『そうじゃったのか!』
単純なドライアドでよかった。実はマルメロの固形ジャムの残りはカーバンクルにすべてあげたので、残っていなかったのである。
私も味見の一切れしか食べていないので、もっとたくさん買ってくればよかったな、と思ってしまった。
閉店後はメルヴ・メイプルを連れて中央街にある棟続きの長屋を目指した。以前までライマーと同棲していた家である。
そこを出たのはたった数ヶ月前なのに、ずいぶん懐かしく感じてしまった。
ライマーの部屋の扉を叩いたが、反応はない。
もしかしたらまだ帰宅していないのかもしれない。出直しか、と思っていたら背後より声がかかる。
「ああ、そこの家の住人は退去したよ」
振り返った先にいたのは六十代くらいの女性――大家さんである。
「ああ、あんた!」
「大家さん、ご無沙汰していたわね」
私が突然いなくなったので、ずっと心配していたらしい。
「あの男が追いだしたなんて偉そうに言っていたんだ。私としては逃げられてよかった、って思っているよ」
ライマーのクズっぷりに気付いていなかったのは私だけのようで、大家さんですら最悪な男だと思っていたらしい。
「もしやよりを戻しに来たんじゃないだろうね?」
「ええ、もちろん。彼ではなく、彼の新しい婚約者に用事があったの」
「ああ、あの別嬪さんか」
あまりにも年若い娘だったので、大家さんはよかれと思って「あの男は止めておきな!」と忠告したらしい。
けれども聖女スイは曇りのない表情で「彼の残念なところも愛おしいんです」と言ってのけたようだ。
「もう、あの男には何を言っても無駄だと思ったよ」
ライマーには親しい関係になった女性をどうかさせる、奇妙な魅力があるのかもしれない。大家さんは呆れた様子でいう。
「それはそうと、ライマーはどうして退去したの?」
ここでの暮らしを謳歌すると言っていたのに、舌先が乾かぬ前に出て行くなんて。
「家賃を払う能力がなかったんだよ」
「ああ……」
そういえばそうだったな、と思い出してしまった。
「家賃は銀貨二枚だろうとか馬鹿げたことを言って聞かないから、知人の手を借りて強制退去させたんだ」
「そ、そうだったの」
私の言葉を信じないどころか、大家さんの請求にまで応じないなんて。呆れた男としか言いようがない。
「ライマーがどこにいるか知っているかしら?」
「たしか、下町にある大衆酒場の二階に下宿し始めたって聞いたけれど」
「ありがとう」
下町で下宿なんて、平騎士でさえしていないだろう。
聖騎士であるライマーはもっといい家を借りられるはずなのに。いったいどうしてそのような状況に追い込まれたのか。
ライマーには会いたくないものの、聖女スイとコンタクトを取らなければならないのだ。
教えてもらった下町の大衆酒場を目指すこととなった。




