謎が深まる
買い出しをしたあと家路に就く。
薬局に戻るとカーバンクルが待ち構えていた。
『ようやく戻ったか!』
「ええ」
カーバンクルは三角巾を結び、手には羽根箒が握られていた。掃除をお願いしていたのだが、いい箒があったようだ。なんでも掃除道具に困っていたらメルヴ・メイプルが貸してくれたらしい。
カーバンクルは跳躍力があり、また浮遊魔法もできるようなので、普段手が届かない高いところの掃除を頼んでいたのである。
神聖獣にこんなことをさせていいものかと思ったが、何かしたいと訴えてきたので頼んでみたのだ。
イエさんから飼育費という名のお金は預かっているので何もしなくてもいいのだが、やると言って聞かなかったのである。
『次は接客でもしようか?』
「それは大丈夫」
カーバンクルがここにいると知られたら、聖務官が素っ飛んでくるだろう。
普段は薬局の奥にいさせて、大人しくさせるしかない。
『このあとはどうするのだ?』
「お昼を食べたあとは買ってきた果物を加工するわ」
そんなわけでまずは昼食である。ひよこ豆の水煮とベーコンでスープを作り、チコリのソテーとチーズオムレツを作った。
カーバンクルが満足してくれるかドキドキだったが、すべておいしいと言って平らげてくれた。
カーバンクルはお腹いっぱい食べて眠くなったようで、へそを天井に向けて眠っている。
メルヴ・メイプルが風邪を引かないよう、葉っぱのブランケットを被せてあげていた。
私はカーバンクルを起こさないよう、果物の加工を開始する。メルヴ・メイプルも手伝ってくれるようなので、ちゃちゃっと済ませたい。
買ってきた果物はマルメロだ。旬は秋だが、倉庫に保管したまま放置されていたのを安く売っていたのだ。
マルメロは〝蜂蜜りんご〟とも呼ばれていて、味わいは独特な酸味と渋みがある。
生で食べる果物ではなく、加工しないと食用にはできない。
甘い香りはかぐわしく、貴族の中には香りを楽しむためだけにマルメロを取り寄せるらしい。なんてもったいないんだ、と思ってしまう。
マルメロは加熱しただけでおいしくなるのだ。
その中で私がもっとも好きなマルメロの固形ジャムを作る。
まず、マルメロには表面が真っ白になるくらい産毛か綿毛か知らないけれど、白い毛みたいなものが生えているので、それをナイフでそぎ落とす。
メルヴ・メイプルは自らの葉を鋭くさせ、ナイフ代わりにして皮剥きをしてくれた。
マルメロの輪郭がはっきりわかってから皮を剥き、種を芯もわけてガーゼに包んでおく。実は薄く切り分けておくのだ。
鍋に実とガーゼに包んだ皮、種、芯をたっぷりの砂糖と、レモンの絞り汁と一緒に煮込む。
ぐつぐつ煮込んでいくと、マルメロは赤く染まっていく。加熱することによって、黄色いマルメロの実は色付いていくのだ。
くたくたになるまで煮込んだマルメロは粗熱を取ったあと、乳鉢ですり潰していく。
この作業もメルヴ・メイプルが担ってくれた。
ペースト状になったら四角い型に流し込み、あとは魔石保冷庫で冷やすのだ。
数時間冷やしたら、マルメロの固形ジャムの完成だ。
明日になったら食べられるだろう。ランチ営業でも出してみようか。楽しみである。
夜――窓をコツコツ叩く猛禽類の姿に驚く。何事かと思って覗き込んだら、大きな白フクロウがギョロリとした目で覗き込んでいた。
ヒッ!! と悲鳴をあげそうになったものの、足を上げていたので伝書鳥として派遣されたフクロウだと気付く。
こういうのは普通、ハトに頼むものでは? と思ったものの、夜なので夜目が利くフクロウに頼んだのかもしれない。
窓を開くとフクロウは手紙を早く取れ、とばかりに足を差しだしてきた。
「えーっと、いただくわね」
足に結ばれていた紙をそっと解き、急いで手を引っ込める。
「ご褒美の鶏肉とかいる?」
問いかけた瞬間、フクロウは飛び立っていった。
手紙はイエさんからだった。さっそく五十年前のことを調査してくれたらしい。
黒魔法の使い手が大量に捕まり、処刑された件について、閲覧可能な書籍には魔法使いの暴走により世界樹が枯れかける、としか書かれていなかったようだ。
続いて閲覧禁止書籍が保管されたエリアで調べようとしたものの、内部には事件について記録されたものはなかったという。そこには国王のみ読むことが許可されたエリアなどもあり、そこにあるのではないか、とのこと。
「う~~~~ん」
怪しいとしか言いようがない。国が隠そうとしているようにも思える。
この事件についてカーバンクルは詳細を知っているのか。聞いてみた。
「ねえカーバンクル、五十年前に世界樹が枯れかけた事件について、あなたが知っている情報とかあるかしら?」
『五十年前は先代の神聖獣が聖女を守護していた時代だったからな。我は知らぬ』
聖女が代替わりするように、神聖獣も数年から数百年に一度生まれ変わるのだとか。
カーバンクルが聖女の神聖獣として侍るようになったのは、四十八年ほど前だったらしい。
『まあ、大抵、代替わりは先代が死んだときなのだが』
「そうだったのね」
イエさんは情報を得るために奔走しているという。私も何かできないか、と考えたとき、ある人物について思い出した。
聖女スイ――彼女はかつて生きていた異世界で、ここの世界とそっくりの娯楽があったと話していたのだ。
もしかしたら何か情報を握っているかもしれない。彼女と面会しなくてはと思った。




