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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第四章 聖教会のいざこざ

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色欲魔女のもとへ

 イエさんはいつになく上機嫌な様子でカーバンクルに声をかける。


「さあカーバンクル、帰りましょうか」


 首根っこを掴もうと伸ばしたイエさんの手を、カーバンクルは後方に飛んで回避した。

 イエさんは小首を傾げ、理解しがたいという表情でカーバンクルを見る。


「何をしているのですか。これ以上ここにいたら、レイさんに迷惑がかかるでしょう」

『我は聖教会に帰らぬ!!!!』


 カーバンクルはこれまでにないくらいの大声で主張した。


「なぜ?」

『帰ってもまずい聖食を食わされるだけだろうが! それにあの妙に元気な聖女とも付き合いきれぬ!』


 聖女に関しては確かに、と思ってしまう。


「では、野良の神聖獣になるのですか?」

『いいや、ここに住む! ここの子になるぞ!』


 イエさんは呆れた表情でカーバンクルを見つめていた。


「わかりました。私があなたの世話をしますので」

『嫌だ!! 男に世話なんぞされたくない!!』


 そんな主張を聞いたイエさんはカーバンクルの首根っこをむんずと掴むと、何やら確認をする。


「なるほど、オスですか」

『どこを見ているのだ! 我の神聖な場所を見るでない! ええい、離せ!』


 ジタバタと暴れるカーバンクルだったが、力ではイエさんに勝てなかったらしい。

 なんだか可哀想になってきたので、声をかける。


「聖務省的に問題がなければ、カーバンクルは私が面倒を見るわ」

「しかし、迷惑なのでは?」

「別に構わないわ。その代わり、いろいろ働いてもらうけれど」

『〝働かざる者食うべからず〟だな!』


 カーバンクルは『わかったぞ』と言って瞬間移動のような魔法を使ってイエさんの手から逃れた。


「こんな聖魔法も使えるみたいだし、無理矢理連れて帰っても無駄だと思うの」

「そうみたいですね」


 イエさんは懐を探り、カーバンクルの飼育費だと言ってお金が入った革袋をくれた。


「こんなに必要ないわ」

「何があるかわからないので、受け取っていてください」


 さらに足りなければ追加で用意するとまで言ってくれた。


「カーバンクル、レイさんに迷惑をかけないように」

『わかっておるぞ!!』


 イエさんは盛大にため息を吐き、踵を返そうとした。

 その瞬間、ドライアドが『咲いたのじゃ!!』と大きく叫ぶ。

 何かと思ったら、ドライアドの頭上に見慣れない花が咲いていた。

 なんというか、ぬるりとした水気を含む見たこともない茶色い花である。

 それを見たカーバンクルは、即座に『うえっ!!』とえずいた。


『ふ、腐乱死体のような臭いがする花だぞ!!』

『失礼じゃな!!』


 臭いは薄いものの、たしかに悪臭を放つ花だった。

 そういえば色欲魔女がドライアドの花は貴重で、秘薬作りに使えるとか言っていたような。

 分厚い手袋を装着して花を摘んで、臭いが密封できる瓶に入れておこう。

 容赦なく花を摘んだら、ドライアドが『あひい』と変な声をあげた。


「脱力するから、そんな声を出さないで!」

『優しく摘まないからじゃ!』

「はいはい、ごめんなさいね!!」


 ドタバタしながらイエさんを見送る。臭いから早く帰ったほうがいい、とドライアドのせいで追いだすような最後になってしまった。


 ◇◇◇


 翌日、カーバンクルとメルヴ・メイプルが顔を合わせる。


『なんと、そなたはここにおったのか』

『ソウナノ』


 なんと、カーバンクルとメルヴ・メイプルは顔見知りだったらしい。

 再会を喜び、抱擁を交わしていた。その姿は愛らしいとしか言いようがない。

 今日は薬局の定休日である。

 街に買い出しに行く前に、師匠だった色欲魔女を訪ねることにした。

 色欲魔女の本拠地は歓楽街。

 高級娼館のオーナーでもあるので、裏口から尋ねる。

 雇われおかみさんは私を見るなり、すぐに色欲魔女がいる地下部屋へ案内してくれた。


「たぶん寝ているだろうけれど、話しかけたら反応するだろうから」

「ええ、ありがとう」


 相変わらず、昼夜逆転の生活をしているようだ。

 扉を叩いても返事はなかったが、勝手に入らせていただく。

 大きな寝台に、燃えるような赤髪を持つ美女が横たわっていた。

 私の気配に気付いたのか、ぱっちり瞼を開く。


「レイか。久しいな」

「ええ、ご無沙汰していました」


 金策に困っていた私を拾い、弟子として迎えてくれた色欲魔女には多大なる恩がある。

 薬草魔女に弟子入りするさいも、文句の一つも言わずに送り出してくれたのだ。


「どうした? 石鹸の事件は自力で解決したのだろう?」

「別件です」


 それを聞いた色欲魔女はのっそりと起き上がる。

 被っていたブランケットの下は裸だったようだ。

 まあ、そうだろうと思っていた。


「お土産です」


 そう言ってドライアドの花を差しだすと、「珍しいな」と言って受け取ってくれる。


「あの老いぼれドライアドがこれを咲かせたのか?」

「ええ、そうみたいで。花を咲かせるとは思っていなかったので、驚きました」


 通常、オスのドライアドは花を咲かせないらしい。


「まさかメスだったのですか?」

「いいや、あれはオスだ」


 まれに高位ドライアドが性別に関係なく花を咲かせることがあるという。その花はとてつもない希少なアイテムだと言っていた。


「いいのか、私が受け取っても」

「はい。特に使い道などないので」

「国民全員を惚れさせるレベルの魔法薬を調合することができるのだが?」

「余計にいらないです」


 私はドライアドの花と引き換えに、色欲魔女から聞きたい話があったのだ。

 それを打ち明けると、情報料かと言って受け取ってくれた。


「何を聞きたい?」

「暗黒魔法を使う者について、何かご存じかと思いまして」


 情報を言わずとも表情から何か読み取れるかもしれないと思ったが、色欲魔女に変化はなかった。無表情で私をじっと見つめている。


「それを知ってどうする?」

「どうもしません。ただ、本当に存在するのかと思って」

「興味本位であれば、詮索するな。身を滅ぼすことになるだろう」


 わかっている。けれども事件について知ってしまった以上、知らないというのは恐ろしいと思ったのだ。


「何か尻尾を掴んだら、ここを再訪するといい。ささいなことであるが、教えてやろう」


 やはり色欲魔女は暗黒魔法の使い手について何か知っているようだ。

 この場では深く追求せずに、今日のところは引き下がることにした。 

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