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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第四章 聖教会のいざこざ

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ありえない状況

「いったいどうして聖女様がそのようなことに!?」

『わからぬ』


 カーバンクルが気付いたときには、寝台の上で息絶えていたという。

 外傷などなく、また毒を飲んだような痕跡もなかったという。

 当然ながら、聖女に誰かが接近したという痕跡もない。


『聖女はいつものように、我に休むように言ってから眠っていただけだったのだ』


 カーバンクルが異変を感じたのは朝方だったという。

 いつもは早朝の祭儀さいぎを知らせる鐘が鳴る前に聖女は起床し、部屋で一人祈りを捧げていたらしい。けれどもその日は目覚めなかったので、カーバンクルが不審に思って寝顔を覗き込んだところ、呼吸をしていないことに気付いたのだとか。


『しかし、仮に聖女が死していたら、その瞬間に我が気付くはずだったのだ』


 聖女の使い魔であるカーバンクルは契約を通して繋がりがある。それが途切れていなかったので、まだ魂が天に召されていないと気付いたらしい。


『我は慌てて聖女の魂をたぐり寄せたのだが』


 必死になること一時間。カーバンクルは聖女の魂を捕らえ、体内に戻す。


『聖女はすぐに目覚めた。けれども、おかしくなっていた』


 なんでも聖女は目覚めるなり、不思議な言動を取っていたという。


 ――え、ここどこ? 私、病院で入院していたはずなんだけれど! 寝ている間に転院!? 嘘だ~~~~!!


 もともと聖女は物静かで、言葉数も少なかった。

 けれども目覚めた聖女は弾丸のように喋り始めたらしい。


 ――わー、かわいいウサギのぬいぐるみだ! え、動いたし、喋った!


 カーバンクルを見るなりぬいぐるみと勘違いし、生きて喋ることがわかるとたいそう驚いたという。


『初めは記憶喪失なのではないか、と思った』


 目覚めてからの聖女の挙動はどこか幼くなっていたので、数年間の記憶がなくなったのではないか、とカーバンクルは思ったらしい。


『けれどもわりとすぐに、その仮説は間違っていたことが明らかとなったのだ』


 鏡を覗き込んだ聖女がありえないことを口にしたという。


 ――これ、乙女ゲー〝セント・ジュエル〟のヒロイン、スイじゃない! 私、スイに転生したの!?


「〝転生〟ですか?」

『ああ、聖女はそう言った』


 聞き慣れない転生という言葉は死んだ魂が生まれ変わり、別の存在として新たに生を受けることを言うようだ。


「転生というよりは、悪霊が乗り移るような〝憑依ひょうい〟といったほうが正しいような気もするけれど」

「確かにそうですね」


 十八年間聖女スイだった体に別の人格が乗り移ることを、生まれ変わりとは言わないだろう。


『ただ、聖女がもともといた世界では、転生と憑依の定義が曖昧だったらしい』

「聖女様がもともといた世界? この世界のどこかから乗り移ったわけじゃないの?」

『ああ、話を聞いてみたら、そのようだった』


 なんでも聖女は〝チキュウ〟と呼ばれる〝ニホン〟という国に生まれたらしい。

 その世界は魔法が存在しない代わりに、別の文明が発展していたという。


『魔力などは存在しないらしいが、〝電力〟と呼ばれるエネルギー源があり、扉が自動で開いたり、床が動いたり、ゴミを吸い取る清掃道具があったり、と便利な世の中だったらしい』 

「興味深い話ね」

『ああ、聞いていてなかなか楽しかったぞ』


 異世界の話を聞いて感心している場合ではなかった。

 さらにそこの世界では〝携帯ゲーム〟と呼ばれる娯楽があり、神聖国ハイリヒにそっくりな世界が娯楽の中に存在し、キャラクターと恋愛する物語のようなものが存在していたのだとか。


「それについては理解が追いつかないわ」

『我もだ』


 その物語の中では聖女スイが主人公となり、さまざまなキャラクターとの恋愛から結婚までの道のりを楽しむことができるようだ。


『その物語での〝メインヒーロー〟とやらが、イエルン、そなただったらしい』

「私、ですか?」

『ああ。けれども聖女はお前に興味がなく、〝モブ・キャラ〟のライマーが好きだったらしい。ライマーはゲームの中では攻略対象ではなかったらしく、ここの世界にやってきて、恋愛することができて、聖女は喜んでいたぞ』


 理解しがたい話がぽんぽん出ているが、聖女スイがもともといた世界にあった物語でのライマーは端役で、大した活躍をしない人物だったようだ。

 カーバンクルが話すとんでもない事情の数々を聞いたイエさんは、眉間に深い皺を刻んでいた。私も理解できているのは半分以下である。


「つまり、死した聖女様の魂を引き寄せようとしたら、まったくの別人の魂を聖女様の体に入れてしまった、ということなのね?」

『まあ、そうだな!』


 胸を張っていうことではない。ただ指摘する元気は残っておらず、がっくりと脱力してしまう。


「ずっと聖女様が別人のようだと思っていたのよ」

『別人だからな』


 話を聞いたところ、現在聖女スイの体に入っているのは十五歳の少女らしい。


「やっぱりそうなのね。言動がどうも幼いと思っていたから――あ!!」

『どうしたのだ?』

「いや、ライマーと聖女が同棲生活を始めたから、貞操とかどうなっているのかと思って!!」


 まだ精神が未熟な十五歳の少女に手出ししたとか考えると、全身に鳥肌が立ってしまう。


『それについては安心してもいい。貞操はきちんと守られている』


 その辺もカーバンクルはわかるらしい。なんだか嫌な繋がりだな、と思ってしまう。

 けれども聖女の穢れを知らない体というものは重要視されているらしく、聖騎士であるライマーもその辺を理解していたのかもしれない。 

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