便利なアイテム
ガタさんがお店の奥にある魔法の浴槽を持ってきてくれる間、私は店内を見て回る。
いろいろな品物が置かれているようだが、こうしてまじまじと眺めるのは初めてだ。
低位の鑑定魔法が使える拡大鏡に早く走れる俊敏靴、猫や犬に変身できる着ぐるみに、秘宝が埋まっているかもしれない宝の地図など、なかなか面白い品が取りそろえられているようだ。
メルヴ・メイプルも興味津々とばかりに商品を見て回っている。
「ねえメルヴ・メイプル、何か面白い商品とかあった?」
『コレナノ!』
そう言って透明の瓶を差しだしてくる。いったい何かと思って見てみると、そこには〝防水液〟と書かれてあった。
説明書きには〝装備に塗っただけで防水効果が!? しかも速乾で効果は三十年続く!〟とあった。
「もしかしてこれをお風呂のスペースに塗ったらいいのかも!」
タイルだったらモルタルを作って貼るという作業が発生するが、これだったら塗るだけである。価格も銀貨五枚とそこまで高価ではない。
「メルヴ・メイプル、いい品物を見つけてくれたわね」
『偶然見ツケタノ』
「謙虚ねえ」
他にも何かいい品物があるかもしれない。そう思って積極的に商品を探す。
そんな中でさっそくドンピシャに必要になるであろう品を発見した。
「収納魔法が付与された鞄だわ! 前から欲しかったのよね」
宝物に化ける魔物〝ミミック〟の皮を使って作られているみたいで、大きな馬車一台分くらいの容量があるらしい。
価格は金貨三枚と高価だが、その辺の雑貨店では販売していない希少なアイテムだろう。お金を惜しんでいる場合ではないのかもしれない。
「これからランチ営業を始めるんだったら、買い出しとか必要になるわよね」
新しい門出に相応しい品だろう。そう思って購入を決めた。
魔法の浴槽と防水液、それから収納鞄の三点をお迎えすることにしよう。
「他に欲しい品があったか」
「ええ、これを」
「収納鞄は昨日入荷したばかりだったんだ。かなり珍しい品だから、運がよかったな」
「やっぱりそうだったのね」
収納鞄は冒険者に人気の商品で、予約してでも買いたい、と望む人達がいるらしい。
「いつ入荷するかわからないから、基本的に予約は断っていたんだ」
「私が買ってよかったの?」
「もちろん。うちの店は早い者勝ちだからな」
だったら遠慮なく購入させていただこう。
ガタさんは防水液と収納鞄も少しだけ割引してくれた。かなりお買い得となったのだった。
浴槽についての説明もしてもらった。
「操作は簡単だ。ここの窪みに魔石を設置し、浴槽に掘られた呪文を摩るだけで湯を張ることができる」
温度の調節も可能で、あつあつのお風呂から水風呂に近いものまで好みにできるよう。
魔石がないときは、魔力を付与すれば使えるらしい。張ったお湯を蒸発させる機能も備わっているという、なんとも便利なお風呂である。
琺瑯製で、ずっしり重たそうに見える。果たしてメルヴ・メイプルは運べるものか、と思っていたらガタさんから耳寄りな話を聞くこととなった。
「その浴槽、収納鞄に入るぞ」
ガタさんはそう言って浴槽を持ち上げると、収納鞄を開くように言ってくる。
鞄の口を開いた先に浴槽を近づけると、魔法陣が浮かび上がって中に入っていった。
「出すときはその品物を思い浮かべながら鞄を開くと、出てくる仕組みらしい」
ちなみに浴槽みたいな大型のアイテムは、鞄を逆さまにして出すようだ。
「すごく便利だわ」
買い出しだけでなく、森に薬草を収集しに行くときも使えるだろう。いい買い物ができたわけだ。
ガタさんにお礼を言って店を出る。
自分に必要な高額な品をこれだけ買ったのは初めてのような気がして、なんだか嬉しい気持ちになった。
「ついでだから、生活に必要な品物も買いにいこうかしら?」
メルヴ・メイプルも付き合ってくれるという。
中央商店街に行き、まずは服を数着購入した。新品の既製服を買ったのはかなり久しぶりである。
一方、ライマーは十年の間に正装を五着、白騎士の甲冑を二体、夜会用礼服を六着と、かなり新調していた。
色欲魔女に弟子入りしていた時代は派手なドレスのおさがりがあってそれを着ていたが、薬草魔女になってからは地味なドレスを何年も繕いながら使っていたのである。
これからは少しだけ自分の身なりに気をつけてみようか。
なんて考えたら化粧品も購入しようかな、と思い立つ。
色欲魔女から貰った化粧一式はあったものの、派手な色合いの物ばかりなので今は使えそうにない。
現在の年齢に相応しい化粧品を店員に相談しながら購入した。
あとは調理に必要な鍋や皿、カップ、カトラリー類を揃える。食器のデザインが統一されていると、なんだかお店っぽい。
他にも料理を試作するために必要な食材なども買い揃えた。
帰ろうと思っていたら、パンが焼きたてだという声がかかる。
バゲットを一つ購入し、温かいうちに噴水広場の椅子に座っていただくことにした。
メルヴ・メイプルにはパン屋さんで購入したベリージャムをあげた。嬉しそうにちまちま舐めている。
私はバゲットを割り、バターをたっぷり塗っていただいた。
外皮はパリパリで小麦の風味が香ばしく、生地はふっかふか。
溶けたバターがしみしみになった部分は、塩分が効いたおいしさがジュワッと口の中に広がっていく。
「う~~~ん、最高!」
こんな昼下がりを過ごせるなんて、誰が予想できたか。
婚約破棄されたおかげで、充実したお買い物時間を過ごすことができた。
無意識のうちにあちこち歩き回っていたようで、帰宅は夕方となる。
薬局に戻ってくると、人影があった。
「イエさんかしら?」
なんてのんきに思っていたら、聖都で会いたくない男ナンバーワンに輝いた人物が振り返る。
「ライマー!?」
「レイ、いた!!」
彼は怒りの形相を浮かべ、ずんずんと接近してきた。




