表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』と悪魔の研究  作者: 橋本 直
第三十章 『特殊な部隊』と意外なる拠点
73/85

第73話 策士の当たり目の無い推論

 嵯峨は深くタバコを吸い込み、煙を吐き出しながら視線を巡らせた。


 部屋の空気が一瞬だけ重く沈む。誰もが、彼の口から出る言葉を逃すまいと息をひそめた。


「……これから話すことはあくまで俺の推測だ。外れたら笑ってくれ。ただ、もし当たってたら笑えない話だ」


 そう言うと嵯峨は天井に向けてタバコの煙を吐いた。

挿絵(By みてみん)

「今回の事件には三つの勢力の意図が関係している。そう俺はにらんでいるんだ。一つはお前さん達がこれから潰しに行く研究開発を行っていた同盟厚生局の不死と干渉空間を同時展開可能な法術師の覚醒実験……と言うかその研究成果そのものがその組織の価値と同じ意味を持つわけだがね」 


 あいまいな言葉遣いに誠は首をひねった。


「本来目覚めるはずの無かった不死と干渉空間展開の素質のある素体をいかにして自分の望む能力を持った法術師にするかと言うノウハウを獲得することを人口のほぼ百パーセントは遼州人のこの東和で連中は行ったわけだ。遼州同盟厚生局がそれを独占しようとしているみたいだがまず無理だな。流出してるぜ。あそこは遼北人民共和国の傘下だ。遼北本国は研究を止めるように警告してはいてもその成果を吸い上げないと考える方がどうかしてる。遼北は遼州人の国、遼帝国とは隣国だからな。東和と同じくこの成果の一部でも得られれば金で騙して遼帝国から遼州人の実験材料を確保して研究を続けるなんてことも考えられる。そして三人の法術師を登場させた奴等。たぶんあのデモンストレーションはこの法術師の開発者がゲルパルトのネオナチの残党に高値で法術師を売りつけるために仕組んだんだろうな。そしてこの事件のもう一つの主役であるネオナチの連中は『近藤事件』の時以来ちょろちょろ俺達を嗅ぎまわっていたからな。すべてはあの時から動き出したんだ」 


 嵯峨はそう言って誠を見つめた。


「隊長の言う通りなら恐らくその技術は買い手のネオナチにも流れているでしょう。ただ、彼等は東和でも遼帝国でも自由に動き回れないので研究を続けるほどの研究素材である遼州人を確保することができるかどうかは疑問ですが。そして地球人至上主義を掲げるネオナチは遼州人を便利な道具か何かと考えいるからその手に入れた彼等にとっては貴重なサンプルとしての東和か遼帝国の遼州人にそれこそ本当に今度は何をするか分からない……丁度、私達の存在が彼等にとって兵器と繁殖のための道具でしかないのと同じように」


 カウラの声が冷たかった。 


「私達の髪の色が自然な地球人のそれと違うのは、私達が人間じゃなくて戦争の道具だっていうゲルパルトの地球人至上主義勢力の思惑だしねえ。人を人とも思ってないのよ、あの連中は」 


「アメリアさん」 


 アメリアの言葉で誠は嵯峨が端からネオナチが絡んでいると知っていてそれを取り逃したのだという意味を理解した。


 『近藤事件』以後、東和政府は国民に法術適正検査を実施した。そして遼州人で潜在的に法術適正を持っている割合が40パーセントであるという事実も知った。そしてすでに法術適正をめぐる差別や対立がネットの世界を駆け巡っている事実も知ることが出来る位置にいた。


「同盟厚生局が研究を続けてその技術を関わっている軍に売り渡して権限拡大を図るなんて言う暴走させれば、それにあぶれた国や遼州人の国である東和や遼帝国との対立を招いてこのままいけば必然的に同盟は割れる。そして力のあるものだけが生き残る世界にまた一歩近づくことが出来る……それを望んでいる勢力が北川や桐野を差し向けた……」 


 導かれる結論として誠の口からはそんな言葉が漏れた。


「まあ、ハド自身はそれほど積極的でなかったからお前さん達も無事で今ここにいるわけだが……奴が本気でこの件に一枚嚙むのならばたぶんこの中での生存者はラン一人だろうな。奴はそこまでやる男……その非情さゆえに国を失った男なんだから。神前がそんな口を叩けるということはお前さん達も俺と同じ結論にたどり着いたんだ……こりゃあ俺の出番はなかったってことか。だからこいつ等は……『廃帝ハド』は同盟厚生局が自分の配下が自分に無断で三人の完成された法術師をネオナチに売り渡すためのショーを披露して本気になった同盟軍事機構軍や東和警察の妨害で研究を中断してもすぐにそれを再開し、再び暴走を開始して同盟の権威が完全に失墜することを狙うようにお前さん達の前にそれなりに警告のために法術師を差し向けた。第三勢力。すべての勢力の競い合う危うい均衡の間を縫って力をつけてきた既存の後ろ盾の無い、だが自らの力に自信のある連中の王国でもおっ建てるために……そして最終的には自分がこの宇宙のあらゆる国家や組織を駆逐して勝利して支配できるつもりでいる……そしてその力の裏付けも自信の根拠もある……」 


 嵯峨の言葉にうなずくランを見ながら誠は手を上げた。


「ああ、神前の質問ね。お前さんの聞いてきそうなことなんて想像がつくから先に答えておくわ。なんで利用される側の遼州人である『廃帝ハド』が自分達を道具としてしか見ていないネオナチや同盟厚生局と仲良く動いたかって言うんだろ?なあに昔からこういう時は誰と組むかということは問題じゃないんだ。三者ともに末永く仲良くやっていくつもりなんて更々ないの。とりあえず現状での勝利と利権を優先して利用できるうちは利用できる限り利用する……組織なんてそんなもんだよ……特に後ろ暗い事をしている自覚がある連中ならなおさらだ」 


 嵯峨の間の抜けた調子の言葉を聞きながら誠は手を下ろして周りを見る。かなめが生ぬるい笑顔を浮かべていた。思わず視線を落とした。


「で、問題は三体の法術師はこれからどこへ行くのか。ネオナチ連中を今仕切ってるのは何者なのか……」 


 そう言いながら嵯峨が再び画面を変える。そこには黒を貴重としたゲルパルト風の軍服を着た初老の男の姿があった。ナチスドイツの武装親衛隊の制服をオマージュした鷹の紋章をあしらった制帽としっかりとしたしつらえ。いかにもかつてナチスが政権を取るにあたり民衆の美的センスに訴えかけることでイメージ戦術を展開した、ナチスの宣伝相であるゲッベルスがまだ生きているのではないかと思わせるような姿に一同は息を飲んだ。


「これって……」 


「この制服はゲルパルト秘密警察。階級からして大佐だな」 

挿絵(By みてみん)

 カウラの言葉で誠も悪名高いゲルパルト秘密警察のことを思い出していた。反体制組織討伐にあらゆる手段を尽くした彼等の行動は永久指名手配と言う形で司法局実働部隊の掲示板にもその顔写真が残されていた。


「ルドルフ・カーン元大佐。今は……」 


 その鋭い瞳にアメリアは息を飲みつつつぶやいた。


「ゲルパルト第四帝国アーリア人民党の残党で、その互助会の名目で数十の公然組織で多額の資金を運用している方ですわ。例のバルキスタンのカント将軍の裏帳簿を漁った件では資金運用の助言と言う名目で相当な金額が『バルキスタン三日戦争』で誠さんが倒したカント将軍の政権からこの老人の手元に振り込まれていますの。すでにあの段階であの完成された法術師はネオナチの手駒になる運命だった。あれはコンペと言うより試運転だったってことですわね。ネオナチにとってもハドにとってもあの事件はハドの力とその力とネオナチが結びついたということを示すまさにデモンストレーションと言えますわね」 


 茜の口元が緩む。その姿を見て誠は彼女嵯峨の娘であることがこれ以上ないくらい良く分かった。


「実はとある筋……まあぶっちゃけアメリカがらみの諜報機関なんだけどな、カーンの公然組織からこの数日で大金が引き出されているっていう話が来てさ……アメリカさんも俺のことは大嫌いみたいなんだけど、それ以上にカギ十字の旗を再び地球では見たくないみたいなんだ。だから俺もアメリカさんがこの国でやってるいくつかの危ないことの中で全知全能を自認している『ビッグブラザー』ですら見逃していてる情報の中で、俺だけが独自ルートで手に入れた情報を教えてやることでこういう話を手に入れてくるわけ。そう言う意味じゃあ、カーンやハドの事を俺には悪く言う資格はないな。カーンとハド、そして俺と地球圏の支配者たち。同じ同床異夢の同盟同士の争い……俺もアメリカさんの言うことなんて裏付けのある情報以外は全部嘘だと思ってるもの。連中もお互いをそのくらいにしか考えていないだろうね」 


 嵯峨は帽子を手に取り目を伏せながらそう言った。その言葉には情報元については聞くんじゃないといいたいような雰囲気を誠は感じていた。


「その金が同盟厚生局と『廃帝ハド』の組織に振り込まれたってわけか……ネオナチ狩りは遼州圏で活動する現存するあらゆる軍事警察組織にとっては最優先事項だ。叔父貴の手にした情報もかなり確度が高いと考えるべきだろうな」 


 かなめの言葉に嵯峨は頭を掻きながらうなずく。


「カーンの爺さんがあの同盟機構本部ビル前の結果が見えてるプロレスのファイトマネーを払ったタイミング的にはぴったりだが……裏づけが無かったからアメリカさんに色々俺の持ってる情報を小出しにしてその裏付けを取ったわけ。まあ、アメリカさんもカーンの爺さん本人じゃないからそれが『事実』と認定できるかというと難しいところだね。……世の中、すべての目の前で起きている現象以外を疑いだしたらそもそも情報の出所すべてが怪しい話だからな」 


 どこまでも目で見た事実だけしか信じない嵯峨の言葉にはそれだけの重みがあった。


「人を道具として使うことに慣れたゲルパルトの大佐殿か。厄介な話だだなー。で、隊長のお話は終わりっすか?」 


 ランが口を開くと少し飛ぶようにしてソファーから降りる。そのままちょこまかと明石が寄りかかっている執務机の脇の固定式端末を操作し始めた。


「まあアタシ等が今できること。例の研究施設の確保ってことになるわけだが……」 


 ランはそう言いながら明石が操作した画面でデータのIDやパスワードの入力画面が表示されては消えるのを見つめていた。この場にはいないもののそのような芸当を得意としているのは技術部の情報士官達がネットでこの状況を監視しているということを示していた。


「さっき見た悪趣味な肉塊のある場所なんだけどさ、色々探し回ったんだがねえ……できるだけ俺等が目をつけそうに無くて、なおかつそれなりの規模の研究を行なっても秘密が漏れないところなのは間違いないんだけどね。それなりの規模の病院や同盟厚生局の外郭団体の研究施設も当たったがぴんと来なくてさ。そこで発想の転換で技術部の将校連を馬鹿をけしかけたら思いもかけないほどにあっさり見つかってね。俺が今日ここに汚いなりをして居るのは実際それが本当にそんなところにあるのは確かなのかその目で見るためにそこに行ってきたんだ。確かにここにあるなんて誰も考えないよな……まあ、こんな研究をしている奴の頭の中はどうかしているからそう言う意味ではあそこにあって当然と言えば当然なんだけどさ」 


 最終プロテクトが解除された。それを見て誠はあんぐりと口をあけた。


 画面の地図には東都の都心部の地図が映し出される。そして瞬時に拡大されるとそれは官庁街の一角を投影していた。そしてその×印をつけられた地点は間違いなくこの同盟司法局ビルから見える範囲の新しいビルを指していた。

挿絵(By みてみん)

「遼州同盟政治機構第三庁舎……つまり研究施設は同盟厚生局の連中の足下に有った……つまり茜警部たちは同盟厚生局の役人とあの化け物が製造された研究施設の真上で捜査を開始してからずっと押し問答を繰り広げていたということか……」 


 カウラも目を見開いてその×印を見つめていた。


「やってくれるよなあ、『租界』の仮研究施設はあくまでも仮の簡単な実験をやるための簡易施設に過ぎない。本丸は同盟厚生局の手元にあったのかよ。いくら探しても見つからねえわけだ。アタシ達だっていきなり何の証拠もなく同盟厚生局の本丸に土足で踏み込むわけにはいかないもんな。まあ同盟厚生局の局員全員が犯人なんだから。自分の手元に一番大事なものを置いておく。全員が犯人だから誰もその事実を外部に漏らしたりはしない。一番厳重な隠し場所というわけか。……連中全員頭がイカレテルぜ」 


 そう言ってかなめはタバコを取り出た。いつもなら隣のタバコを吸わないラーナは逃げるはずだが彼女は呆然と画面に見入って隣のかなめの行動など見ていなかった。


「カウラ達が身柄を押さえに行った片桐博士のディスクの中のデータも技術部の情報士官達に解析させたけど専門的な部分はひよこが研究中だけどディスクの中の血清の組成に関する助言要請などが発信されたのは間違いなく同盟厚生局のサーバーからだということはもうわかってる……本丸は間違いなくあそこにあったわけだ……そしてあの規模から考えて簡単に移動することなんかできないから今でもそこにある」


 嵯峨はそう言うと大きくため息をついてタバコを揉み消した。 


「コイツは……御大将。この連中だけじゃあんなところに強制捜査なんて無理なんとちゃいますか?恐らく同盟厚生局の麻薬対策部隊が待ち構えていると考えんと……それこそ警察……公安……それだけじゃ足らん……軍隊が必要になるんちゃいますか?でも東和陸軍には治安出動の権限は……」 


 思わず明石がタバコの煙を吐き出す嵯峨に声をかけた。嵯峨は灰が伸びているタバコに気づいてそれを灰皿でもみ消すとニヤリと笑って明石を上目がちに見上げる。


「ああ、タコ。俺を舐めるなよ。俺の作戦はいつも先手を取るのがモットーでね。すでに俺のお願いで秀美さんの公安機動隊が動いてるよ。お前さん達も同盟司法局の本局の機動部隊の連中が武装を整えてるのを横目で見てたじゃないの。あの人達にもこういう時にはお仕事をお願いしないと。相当なドンパチになるのは間違いないから当然、事が始まればすぐに主要道路の閉鎖と部外者の避難誘導のシミュレーションも済んでる。それにタコよ……軍隊なら同盟機構軍が遼帝国山岳レンジャーを派遣してくれてるじゃないの。わざわざ治安出動に国会に法律を変える必要があるような東和陸軍なんかに頭を下げる必要なんかないんだよ?分かるかな?ライラも遼帝国の首都央都からわざわざ来て手ぶらで返したら可哀そうでしょ?多少は仕事をしたという実感を持ってもらって帰すのが礼儀なんじゃないの?」 


 そう答えると嵯峨は誠を振り返った。


「でもなあ。これだけじゃ不安なんだよな。もし例の三体の法術師や『廃帝ハド』のシンバの手のものが動けば被害範囲はこの前のプロレスの比じゃ済まないな。それに対抗するのには公安機動隊には法術師は居ないし、補助でつける第二小隊のかえで一人じゃ荷が重いよね。まあ、あの三体が同盟厚生局の現体制に同情して助太刀に出て来るかどうかは出てこない方に賭けるしかないね。出てこられたら俺としてももうお手上げなのが今の俺達の戦力なんだ。この生体プラントは血清を生み出す有機工場みたいなもんなんだが、元が法術師になる可能性のある人間の集合体だ。当然それ自体には統一された意思はないが元が人間だったということは自己防衛本能はあるし、法術師を生み出す血清を作り出すってことはある程度の法術をその本能の赴くままに発動させる可能性がある。そこら辺については片桐博士のディスクの中身をひよこが精査しないとはっきりしたことは言えないけどね……という巨大な化け物を相手にするには……さあて、神前。ここでお前さんの出番なんだよ」 


 嵯峨は頭を掻きながら相変わらず誠を見つめていた。


「僕が……何か?」 


 そのいつもは濁って見える嵯峨の視線が自棄に鋭く誠を射抜いた。


「お前さんさあ、シュツルム・パンツァーのパイロットだったよな?一応はその操縦法は覚えてるよね?」 


 確認するように嵯峨は誠に向けてそう言った。


「は?そうですけど……それが何か?」 


 誠は嵯峨の言葉の意味が分からなかった。しかし薄ら笑いを浮かべながら誠を見てくる嵯峨の目が真剣でもう一度誠はまじまじとその顔を見つめた。


 嵯峨の目ははっきりと語っていた『出撃しろ』と。


「……僕が、出るんですか?この市街地で?一体何をやるんですか?もしかしてこんな市街地で……その生体プラントと一戦やれと?無茶苦茶な……」

挿絵(By みてみん)

 誠の声は、思わず震えていた。


 嵯峨は一度だけ深く息を吸い、真剣な眼差しを向ける。


「別にそうなるとは限らないよ。すでにこの庁舎の研究施設の制圧プランは秀美さんからもらってるんだ。このプラントが暴走でもしない限り同盟厚生局の武装部隊の組織の制圧は可能だというのが秀美さんの回答だ。それが速やかに成功してしまえば何の問題も無く事件は終結する。でも、世の中そんなにうまく行くとは限らないよね?俺達の仕事では最悪を想定するのは当然の話なんだ。それが俺たちの仕事だ。秀美さんもあのプラントが何者か分からない以上アレが動き出した場合の作戦成功までは保証できないって言ってたからね。だから、もしあのプラントが地表に出てくるようなら神前は05式でこれを抑えろ。相手が何者か分からなくても、それが無茶だと分かってても、誰かがやらなきゃ被害はもっと大きくなる。パイロットだったらそんくらいのこと考えなさいよ……だからいつまでたってもランから一人前扱いしてもらえないの。分かった?」


 その声にはいつもの皮肉も軽口もなかった。誠はその重さに言葉を失った。


「考えて見なさいよ、このプラント。画面に映ってる研究者との大きさの比較からして10メートルは優に超える大きさだ。同盟本部ビルで暴れたあの可哀そうな女の子の成れの果てよりもはるかに協力な干渉空間を展開できる能力があると考えるのが自然だ。そんな化け物相手に生身でどうにかしようと考えてるの?無茶なこと言うね、神前は。島田には無断でもうブツは裏の駐車場に用意してあって、整備班の連中が待ちくたびれているところだ。俺等の仕事は最悪の事態に備えることだからな。出動命令はさっき同盟本部の幹部会議にねじ込んで通したところだ。俺もただ遊んでいた訳じゃないの。伊達に高い給料もらっている訳じゃないんだよ」 


 そう言って嵯峨はタバコをもみ消した。誠が周りを見るとすでにランは携帯端末の画面を開いてカウラとかなめを両脇にすえて小声で打ち合わせを始めているところだった。


 誠は嵯峨の命令を聞いた瞬間からムネノコドウが高鳴るのを感じながら自分を真剣な表情で見つめる嵯峨を見つめていた。


「そう心配しなさんなって。お前さんのシュツルム・パンツァーの操縦もかなりマシになっててあっさり転んだりしないってことくらいは聞いてるから。だが、周りは林立する高層ビル群がある。そこで働く人々に避難は呼びかけるがそれが間に合うかどうかは微妙なところだ。そうなると当たり前だが二次被害を出す訳にはいかないから指揮官はつけるよ。カウラが指揮を担当でひよこから順次送られてくるだろう生体プラントのデータをバックアップとして神前に転送するのはかなめ坊だ。文句は無いよな?」 


 嵯峨の言葉にまだ誠は納得できずに呆然と立ち尽くしていた。


「確かに第一小隊の編成ならそうでしょうけど……」 


 ためらう誠の肩に嵯峨が手を置いた。


「一応、これも隊長命令だ。よろしく頼むぞ」 


 嵯峨はそのままソファーに身体を沈める。


「じゃあ行くぞ……うちの小隊で法術師はオメエしか居ねえんだ!これはオメエにしか出来ねえ任務だ!グチャグチャ言うんじゃねえ!」 

挿絵(By みてみん)

 打ち合わせが終わったかなめに引きずられるようにして誠はそのまま明石の執務室を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ