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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭

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【54】狩猟祭Ⅲ

 トビアスの聴力により、三人は出来る限り急いで肉食ペリカンを追いかけた。――が。


「……やられた!」


 ようやっと見つけた時、既にあの大きな肉食ペリカンは、仕留められていた。


「……おや。なんだ、ブラックオパール伯爵家の騎士か」


 仕留めた人物――バルナバス・ファイアオパールは、振り返ってトビアスとオットマーを見てそう口を開いた。それから、その後ろにいるルキウスを見て、眉を寄せる。


「おやおや。あの時の不躾な従僕ではないか。今回はお前のような身分の者が参加出来るような祭りではない筈だが……何故天幕ではなく、森の中になど入り込んでいる? それとも……ブラックオパールの騎士たちは、荷物を運ぶための従僕が傍に居なければいないのか」


 明らかに煽るような言葉に、トビアスが不愉快さを隠さずに眉を寄せた。


「彼は正式な参加者だ」

「はははは! 騎士ですらない従僕を参加させなければならないほど、ブラックオパールが人材不足だったとは知らなかった。メルツェーデス嬢もそのような家に帰るしかなく、哀れな事だ」

「ブラックオパールの家の祭りに参加しておいて、当家を侮辱する気か。バルナバス・ファイアオパール子爵令息」

「まさかまさか!」


 ……突如始まった言葉での応酬についていけないルキウスは、出来る限り身を縮こまらせている事しか出来ない。

 その間にもバルナバスに追従している騎士たちが、大きな肉食ペリカンの足にメルツェーデスのハンカチーフを巻きつける。


 その騎士のうちの一人が背に背負っている矢筒から顔を出している矢の羽は、美しいほどの緋色(・・)であった。


「矢……」


 あっと思った時には、ルキウスの口からそんな声が漏れていた。

 その音を聞き逃さないトビアスではない。すぐに彼もバルナバスの連れている騎士の矢筒に気が付いた。


「その矢」

「矢?」


 そこでオットマーも気が付いた。

 すぐ目の前を矢が通ったオットマーは、羽の色もしっかりと記憶していたらしかった。


「その矢ッ、先ほど我々を妨害したのは、貴殿らか……!」

「先ほど? 何の話か分からないな」


 バルナバスは笑っている。そのしらじらしい笑顔に確信出来た。あの時、肉食ペリカンを仕留めようとしたオットマーに弓を放ったのは、彼らだと。


「狩猟祭は、最初に見つけた者ではなく、仕留めた者が獲物の持ち主となる――当然、貴殿らは知っていると思うが」

「…………」

「さて。私はこの、平民たちを恐怖に陥れていた巨大な肉食ペリカンを、我が女主人たるメルツェーデス嬢に捧げに行かねばならないからな」


 バルナバスに付き従う騎士たちが、二人がかりで肉食ペリカンを持ち上げ、歩いていく。


 バルナバスは堂々と、トビアスやオットマーらの横を通っていく。真横を通るとき、彼は二人の騎士を横目で見て小さな声で言った。


「これであの女性と結婚するのは、私に決まったな」


 バルナバスの視線には、最早ルキウスは映ってもいなかった。ルキウスはどうしたらよいのか、弓を握ったまま見知った騎士たちを見つめた。


 バルナバスが完全に去っていったのを見送ってから、トビアスは低い声で呟いたのを、ルキウスは聞いた。


「――下種が」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これは、もっとばかでかくて凶悪なペリカンが出る流れですね。 アホボン、食われれば、いいザマですのに。
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