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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第二粒 ルキウスと狩猟祭

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【49】狩猟祭に向けてⅥ

 狩猟祭の開催の宣言の時刻が近づいている。既に多くの参加者たちは受付(どんな身分の誰が参加をしているのか、取りまとめているのだ)を済ませており、あとは伯爵による開会の言葉を待つばかり。


 仕事がなくなったルキウスは、ボーッと空を眺めていた。


 ルイトポルトたちは忙しそうで、しかしルキウスに手伝えることはない。何やらやってくる騎士たちにハンカチーフを渡す作業で忙しそうであった。

 ハンカチーフを何に使うのか、未だに分からないルキウスである。

 侍女たちからは特に仕事もないからそのあたりを見回っていろと言われたので、言われた通りとことこと歩いているが、あまり天幕の近くには寄らないようにしている。ルキウスの見た目に令夫人や令嬢が怖がる可能性があるからだ。


 そうしてぼんやりとしていた所に――。


「いたぞッ!」


 トビアスの声が聞こえ、何だろうとルキウスは首をひねった。

 次の瞬間、凄い勢いで走ってくるオットマーにガッと腰から抱え上げられた。


「全く、手間をかけさせて!」

「?!」


 訳が分からない。だがそれを訴えるよりも先にルキウスを肩に担ぎ上げたオットマーが走り出してしまった。ルキウスは舌を噛まない事に必死になるしかなかった。


「まだ時間は間に合うなっ?」

「ハンカチーフは?」

「後で貰えばなんとかなるだろう!」


 オットマーとトビアスがそんな会話をしながら、凄い勢いで移動していく。

 目立っていたが、それを意識するよりオットマーが走る方が早い。

 オットマーが足が速い事は知っていたが、まさか男一人担いで、そこそこ本気で走っているトビアスより早いとは思わなかった。


 あっという間にルキウスは、二人の手によって移動させられた。


「おやトビアス様、オットマー様。お二人の受付は既にすんでおりますが……?」


 受付にいた伯爵家の使用人が不思議そうな顔をする。

 そんな使用人に対して、トビアスが右から、オットマーが左から、ルキウスの肩を掴んで言った。


「ルキウスの受付を頼む!」

「え?」

「畏まりました」

「え?」

「はい、受付完了です。ルキウスさん、頑張ってくださいね」

「……えっ?」


 ルキウスは訳が分からないと、左右のトビアスとオットマーを見た。しかし彼らはルキウスの疑問に答えるのではなく、軽やかに笑いながら会話をしている。


「いやあ間に合ってよかった! これでルキウスを参加させ忘れたとイザークに知れたら、次の週の弓兵隊の的は私たちだった……」

「本当に間に合ってよかった……!」


 二人は一仕事を終えたとばかりに肩を組んでいる。

 訳が分からない。


「あ、あの? 参加、私……えっ?」


 困惑しているルキウスにそこでやっと思い至ったらしく、トビアスらはやっと事情を説明してくれた。


「ほら、今回の狩猟祭は、第二弓兵隊は留守役だっただろう?」


 確かに、ブラックオパール伯爵家から参加しているのは第一弓兵隊のみだ。何故か弓兵隊はそこ一つだけで、他は剣を振るう騎士たちが主に参加している。


「イザークはどうやらお前を弓兵隊に加えて参加するつもりだったらしくてなぁ……」

「??」

「まあ、狩猟祭であればルイトポルト様も、一時的にルキウスが弓兵隊に加入するのをお許しになる可能性が高いからな」

「????」

「所が、第二弓兵隊は参加しない事になって、その計画は無となった。――という訳で、我々にお前を参加させろと、イザークからのお達しがあったのだ」

「な、何故っ?!」

「それはもう、狩猟祭は弓の腕を示すのに最適だからな」


 主な武器が近距離攻撃武器の剣士よりは、遠距離攻撃武器を扱う弓兵が活躍するだろう祭りなのは、確かに簡単に想像がつく。

 実際、今回ばかりは剣を主要武器とする騎士たちも、弓を携えていく。


「あれは結構、見せたがりなんだ。お前には悪いが、それなりの成果を頑張って仕留めてくれ。何! 私やオットマーも途中までは責任もって付き添うからな!」


 途中からは放置されるのか?

 そんな疑問を抱いたルキウスだったが、物申したところで既に受付はすんでしまっている。


「ゆ、弓なんて、持ってきて、ない、です……」

「問題ない。予備の弓は沢山ある」


 最後の砦を速攻で突破されて、ルキウスは肩を落とした。


「よし次はハンカチーフだな」

「ルイトポルト様の所に行くぞ!」


 何だか普段よりテンションの高いトビアスとオットマーに両腕を捕まれて、ルキウスはそのまま連行されていく事となった。

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