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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第四粒 ルイトポルト、貴族学院へ ~1年目~

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【143】弓術大会が始まる前に-ブラックオパール伯爵家

 時間がやや前後するが、ルキウスが会場に入るために馬車で移動していた頃。

 ブラックオパール伯爵家では、出かけるための準備が行われていた。


「おい、持ち物の確認をしっかりしろよ」

「忘れ物があったら大変よ」


 貴族の移動は、とかく、準備が多い。


 特に今回はどこかの建物内への移動ではなく、外出とほぼ同じ状況になる。その為、あれこれと必要な物資があった。

 事前にカールフリートの方から、ブラックオパール伯爵家に割り当てられる席についての情報や、持ち込んで良い物なども聞き及んでいる。具体的に言えば椅子やテーブル、日よけの為の傘などの持ち込みについてだ。


 大型の天幕などは問題があるが、個人が傘を持ってくるのは良い事になっている。なので人数分の傘と、椅子。それから、水分を提供する際に必要な小型テーブルなどを、使用人たちは馬車に積み込んでいた。


「傘はご人数分、しっかりとある?」

「自分の帽子も忘れるなよ」


 使用人たちが準備をしているのと並行して、各々の部屋で観覧しに行く者たちは、身の回りの準備をしてくれる使用人と共に、馬車に乗り込むための準備を続けていた。


 最終的に、本日伯爵家から、弓術大会の観覧に行くのは、以下の面々だ。


 まず、当然だが、ルイトポルト。

 ルキウスの主人であり、主催側(カールフリート)の友人である。


 次にメルツェーデス。

 ルイトポルトの保護者として王都に来ている彼女も、ブラックオパール伯爵家代表として参加する。


 次に、代官ヘーゲン、そしてその息子であるインゴと、その妻マヌエラ、さらに三人の子供たちレヒタール、ジビラ、ノイバー。


 別の用事が入っていたヘーゲンの妻以外、全ての人間が赴く事になっていた。


「ルイトポルト様。お待たせして申し訳ありません」

「レヒタール殿。全く待ってなどいないから気にしないで欲しい。ノイバー。今日は前髪を上げているのか」

「はい。侍女があげてくれました」

「格好良いぞ。おや、ジビラ嬢、今日はいつもより明るい色のドレスなのだね」

「はい。お母様がこれを着ていくようにと……」

「よく似合っているよ」

「ありがとうございます」


 若者たちが盛り上がっていると、大人たちも全員集合した。いざ出発、となりかけた時の事である。


「失礼いたします。ヘーゲン卿、メルツェーデス様はおられますでしょうか!」


 飛び込んできたのは、少し焦りの滲む声だ。

 視線を向けると、開け放たれている出入口の所に、老年の男が立っている。白髪に、薄くなった黄色い毛が混じっているように見える。その髪色だけで、どこの家の者かを察するのは簡単な事であった。


 即座に声を上げたのは、呼ばれたヘーゲンとメルツェーデスである。


「どちらもここにいる。貴殿は……ふむ、ホワイトオパール家の執事殿ではないか」

「お久しぶりでございます。……こちらを」


 ホワイトオパール伯爵家の執事だという老年の男性が差し出した手紙を、ヘーゲンは即座に近寄って来たインゴが差し出したペーパーナイフで封を切る。

 そして中身に目を通したヘーゲンは、即座に手紙をメルツェーデスに差し出した。


 メルツェーデスもそちらの手紙に目を通すと、真剣な表情のまま、ヘーゲンに視線を移した。


「叔父様」

「任せましょう」


 二人の反応から、何か重要な事が起こったのだと察したルイトポルトは、少し強張った顔で叔母と大叔父を見上げた。


「何かあったのですか?」


 その問いかけに、叔母は、そっとルイトポルトに近寄ると、彼の肩に手を置いた。


「ルイトポルト。レヒタールたちと共に、弓術大会にいってらっしゃい」

「メル叔母様は……?」

「少し、急な話が入りました。ヘーゲン代官と共に、そちらを対応せねばなりません。大会会場では、インゴとマヌエラの指示に従い、行儀よく、伯爵家の名にふさわしい振る舞いをするように。できますね?」


 メルツェーデスの言葉に、ルイトポルトはすぐに真剣な表情で頷いた。


「勿論です」

「よろしい。楽しんできてちょうだい」


 話をしている間にも、詰め込まれた荷物の中から、ヘーゲンとメルツェーデスに纏わる荷物が取り除かれていく。たった二人分とはいえ、思ったよりも荷物の収納スペースには空きが出ていた。


 ルイトポルトたちは馬車に乗り込む。馬車の窓から外を見れば、玄関ホールの入口に並んだヘーゲンとメルツェーデスが、笑顔でルイトポルトに手を振っていた。

 ルイトポルトとレヒタールたちは彼らに手を振り、弓術大会に向けて出発した。



 ――その馬車が見えなくなった所で、ヘーゲンは残っている屋敷の者たちに声をかけた。


「お客人がこられる。ホワイトオパール伯爵家の若夫人だ。すぐにお出迎えの準備をするように!」


 使用人たちはヘーゲンの声に、即座に動き出す。

 三オパール伯爵家の王都の屋敷は、ほぼ向かい合わせのような形で立っている。つまり、準備ができ次第すぐに、屋敷を来訪出来るという事だ。


 ヘーゲンはホワイトオパール伯爵家の執事に口頭で返事をし、執事は既に立ち去っている。

 急いで準備しなければ、ホワイトオパール伯爵家の若夫人――つまり、次期伯爵であるヘルムトラウト8世の妻オティーリアが早々に到着する可能性があるのであった。


「メルツェーデス様。お部屋ですぐにお召し物の変更を……」

「いえ。このままで構いません。本日は非公式な面会ですから」

「非公式な? 畏まりました」


 ジゼルに返事をしながら、メルツェーデスは、もう一度、手紙に目を落とした。

 そこには、ホワイトオパール伯爵家の若夫人オティーリアが、ブラックオパール伯爵家のメルツェーデスに会いに行くという内容の言葉が、書かれていた。

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