一話「ぐぇー死んだンゴ」
この中学生、田中大智はチー牛だ。チー牛のテンプレートをそのまま突っ走ったような男だ。彼の楽しみは、音ゲー、電車の撮影、後は誰にも言えないんだとか。
今朝もまとめサイト、46チャンネルを開く。政治・経済と書かれた板にアクセスすると、トップの方に【国、異族受け入れ計画を進めてしまう】とスレが立っていた。
スレを開くと、異族受け入れ政策の事で自称・コメンテーター気取りの社会に不満を抱えていそうな人たちが、異族と共生することに何の苦も感じていなさそうな脳みそがお気楽な人たちと論争を続けていた。すでにレスは1000レスを超えて、罵倒の地獄絵図になっている。
田中は、【異族と共生なんかしたら治安終わるぞ。そんな事考える頭も無いのか】と書き込むが、【無知は便所行けwww】【バカ乙www】【m9(^Д^)プギャー】【涙拭けよ】【帰れ】【差別】などと袋叩きにされてしまう。
(ぐぬぬ…)
悔しそうにパソコンを閉じる田中。
「あ~~。俺世界一不幸な美少年だ~…。」
と、本人は本気でそうおもっている。だが、鏡を見たら普通に芋である事にまだ気づいていない。椅子の背もたれにもたれながら嘆くが、現実は何も変わらない。この世に、奇跡なんてあるはずが無い。少なくとも、この瞬間までは田中もそう信じていた。
「学校…行かなきゃ」
と呟き立ち上がる。もう全てタブレット化したっていいのに未だに時代遅れの教科書数冊となぜかアニメキャラクターの落書きがあり明らかに勉強に集中出来ていないことがわかる汚い字で書きなぐったノートを自治体の規定で選べもしなかったスクールバッグに入れる。
今日も大人たちが未来ある子供の社会的個性を潰すだけの集団教育施設、学校に向かう田中。行くだけで偉い!と褒められるなんて自分がナメクジでもない限り無理だ。捻くれたことを考えながら通学路を歩く。
ニャー。
と危険かどうかの判断すらまともに出来ないまま横断歩道に飛び出してきた猫。
(危ない…!!!!!)
僕は心からそう思った。普段なら落ちた消しゴムひとつ拾わないぐらい人助けなんて偽善と称してしないのに、猫相手にはつい優しさが顔を出した。これが運の尽き。
田中は車に轢かれた。一時期コラ動画が出回るほどネットミームになったチェンでソーマンなタイアップ曲のPVの如く勢いよく車に轢かれる。そしてそのPVに忠実に、田中の身体は宙を舞った。田中はガリガリなので、つるぎのまいみたいだ。
身体は強く地面に叩きつけられた。猫は命の恩人である田中を見て、こいつ猫相手に何をしているんだと言わんばかりにニャー。と再び鳴いてあくびまでして呑気にどこかへ去って行った。
おお、元気で生きるんじゃぞ子猫よ。
心の中でどこぞの川柳好きのジジイみたいな口調になってしまうが、その川柳好きのジジイに該当するキャラクターは田中の脳裏に過ぎった者だけで 二人いた。
(なんで俺はこんな時にジジイの顔を想像しているんだ…)
そう考えると少し虚しくなる。あの世に行く時ぐらい美少女の事でも考えたいが。次に浮かんだ顔は最近歌が流行した枕が大きい事で有名な例の下北沢に聖地がある空手部の人物の顔だった。
段々と意識が遠くなっていく。
(嗚呼、ここで俺の人生終わるのか)
(まだ親に何も出来ていない…)
田中はこの世に未練が無いかと言われたら嘘だった。まだ電車の写真を撮影していたいし、音ゲーもアイテム欲しさに親のクレカで月額パスに入ったままだ。まだ解約すらしていない。それに、八月十日に下北沢すら行ったことが無かった。
(もうダメだ…意識が…)
田中は僅か十四歳でその命を落とした。某助六、萌えない方も顔負けの早死っぷりだ。一話で死ぬなんて主人公としてあるまじき行為だろう。田中の屍がコンクリートに転がる。
死んでから数時間。耳の機能は保っていると言う話を聞いた事はないだろうか。田中の場合はまさにそれだった。暫くして、ザーッと雨の音がもう死んでいるはずの自分の耳に入ってくる。うるさい。雨の音は嫌いだ。環境音だけひたすら流して収益を得ようとするASMRチャンネルかよ。
暫くして、田中は独特の匂いに目を覚ます。ポケットに入りそうなモンスターが出現してもおかしくなさそうな草むらで寝ていたみたいだ。なんだか風が気持ち良かった。音もサーッ、サーッ、と田舎に旅行に行った時のような感覚だった。
(あれ…俺って死んだんじゃ無かったっけ)
田中は起き上がり辺りを見渡す。まさかここは…。田中は自分が一瞬山田になったと錯覚した。自分では無い何かになってしまったような、不思議な感覚だ。
田中は目覚めた場所を暫く歩く。新宿や渋谷のように時代の変化により次々と生やされてきたビル群が無い。それどころか、城に商店街。ゲームのような町並みが広がっている。
(これってあれじゃんか…)
なろう小説ではもうテンプレートになりつつもあるあれだ。あれである。
「異世界かよーーーー!!!!」
スーツケースに詰められて不法入国した某探偵のように叫ぶ。誰がどう見てもそこに広がるのは、異世界そのものなのだ!




