20. エドの出生秘密
※2025/6/2 加筆修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
エド・シーラン、本名はエドワルド・シーラン子爵。
夏の結界騒動以後、間もなくエドがジョージ国王の庶子と発表された。
それは瞬く間に王宮内の王族や諸侯貴族たちは騒然となった。
王宮はこの約半年の間に多くの悲劇が生じた。
国王の呪の病い、アレックス王太子の大聖女ダイアナへの暴挙、それに伴い結界の消滅で巨大魔獣の侵入など。
王宮内は矢継ぎ早に大騒動ばかり起きていたので、宮廷の臣下たちは一日も早く王国の安泰を願っていた。
この度、ジョージ国王の病いからの改善は何よりの僥倖ではあったが、アレックス王太子の過ちから起きた事とはいえ、跡継ぎを亡くしてどんなにか国王は哀しんでいるかと、臣下たちは心を痛めていた。
そんな矢先、国王自ら臣下に驚愕の真実を伝えた。
「今まで秘匿していたが、蒼の王宮騎士団エドワルド・シーラン子爵は、わしが王太子時代没落した伯爵令嬢との間に出来た長子だ。伯爵家が王都から田舎へ蟄居した折、既に令嬢は私の子を宿していたのだ。私も彼女が数年前に亡くなってから、初めてエドワルドが我が子だと知った」と重大発表をした。
この大ニュースはたちまち宮廷中を駆け巡り、急きょエドワルドことエド子爵は、シーラン伯爵家から王族の一員となり、更にとんとん拍子で王太子となってしまう。
エドが王太子になれた経緯は、この度のアレックス王子逝去に伴い、後継者問題として王族や国の官僚たちが、臨時の王位継承会議をして決定したものだった。
エドの母親はジョージ国王が言った通り、伯爵家没落後に家族と田舎へ引き籠ったのだが、その時既に、お腹にジョージとの御子が宿っていた。
母親とジョージは相思相愛だったが、ジョージは隣国の王女と婚約。
伯爵家も多額の借金で没落貴族となった。
二人は運命に振り回されて引き離されてしまった。
だが令嬢はどうしても、王太子の子を産みたかった。
その翌年エドを密かに出産。
国王にも隠匿していたが数年前に母親が病に倒れ、エドの祖父が国王の側近に真実を伝えた。
王は側近からその話を聞いて衝撃を受けて、密かに国王の友人、シーラン伯爵の庇護の元、エドを伯爵家の養子にさせたのだった。
だがどうして母親がエドの出生を秘密にしていたのか。
当時、ジョージ国王は隣国の王女、現王妃と婚約をしたのが何よりも理由だった。その後王妃との間にはアレックス王子も産まれており、もしエドの出生が判明すれば、曲がりなりにも国王の長子である。
お家騒動に巻き込まれて、母親は息子が暗殺される事を何より恐れたのだった。
だがエドが十七歳の時、母親が病いで亡くなる。遺族もエドを不憫に思ったのだろう。
こうしてエドはシーラン伯爵の養子になった後で、自分の父親が国王だと知ったのだった。
◇ ◇
「俺はな、ガキの頃から野山を馬で駆け巡っていたんだよ。その頃は騎兵ごっこが大好きでさ、いつも俺が村の子供連中で一番強かった。将来は王都に行って、ジェダイト王国随一と云われる蒼の王宮騎士団に入りたかったんだ。地方でも蒼の騎士団は有名だったからな」
ダイアナの病室に見舞いに来たエドが、すみれ色の瞳を輝かせてダイアナに、自分の身の上話をしていた。
「でも、まさか自分の父親が国王とはおったまげたぜ! あん時母さんが亡くなった時、そりゃ〜俺は母さん子だったから、おいおい何日も泣いてたけどその時さ、国王の友人というシーラン伯爵が家にやって来たんだ。あ、その人は俺を養子にしてくれたオッサンな!」
「まあ、シーラン伯爵様をオッサンなんて、いっちゃあ駄目よ!」
ベッドで座っている、ダイアナがエドを窘めた。
「ダイアナ、話の途中で遮るなよ、あんたが俺の波乱万丈の人生を知りたいっていうから、わざわざ騎士訓練サボってやってきてんだぞ!」
「別に騎士訓練サボってまで、わざわざ見舞いに来なくてもいいのに……」
「⋯⋯⋯⋯」
エドは突然、ダイアナの拒否する態度を見てしょぼんとする。
どうやらエドはダイアナに、自分の出生の話を聞いてもらいたくて仕方がないようだ。
「ああもうエドったら、子どもみたいに拗ねないでよ。はいはい、私が申し訳ありませんでした。どうぞ、エド王太子様、お話を続けてくださいませ」
ダイアナがすぐに謝ったので、エドは満面ニコニコ顔になる。
「よし!それでな俺は自分が国王の息子と分かったけど、既にあの糞⋯⋯いやアレックスが王太子だったろう──だからオッサンは俺が王子だってこと内密にしようと言って、オッサンの養子になったんだ。あ、別に俺は王の子供だと分かってもどうでも良かった──それより蒼騎士団に入団したかったから──俺はオッサンに頼んで、まずは一番下っ端の王宮の警備騎士団の見習いに入ったんだよ。そしたらみんな俺より弱いのなんのって、がははははは!──もうその後はとんとん拍子で出世してさ、なんと白騎士団通り越して、蒼の騎士団に入れたんだよ、どうだ、凄いだろう!」
「はいはい、凄いわねええぇ⋯⋯」
「何だよ、ダイアナ。もっと俺の事、褒めてくれないのか?」
「だから凄いっていったじゃない!」
エドは俺様って凄いだろう自慢がしたくて、話したかったんだなとダイアナは直ぐに理解した。
──エドって人柄はいいのに、どうも剣技に関しては自画自賛する癖があってうんざりする。
終いにはダイアナもエドの自慢話に我慢できずウンザリした顔になる。
「あ、ダイアナ俺の話ちゃんと聞けよ!」
また再びエドがふくれっ面になった。
そんな夏の昼下がりの病室で、二人の軽い痴話喧嘩は続いていく。




