見知らぬ天井、ハジメテの朝
少し金色がかった柔らかな光が、私の瞼を優しく包んでいる----。
いつもの朝とは違う心地良い気だるさの中で、私は目を開けた。
私の寝室と違う天井。
糊の効いたシーツ。
暑くもなく寒くもない、完璧な空調。
(そうだ、今私は函館のホテルにいるんだっけ……)
視線を僅かに動かせば、カーテンを開けたままの大きな窓から見えるのは、青空と、どっしり座り込んだ牛のような新緑の山。
そして朝日に照らされて白く輝いているミニチュアのような建物。
すぐ隣から、すうすうと平和な寝息が聞こえて来て、私は微笑む。
私、綸子と函館に来てたんだっけ。
しみじみと感慨に耽ろうとしたその途端----。
「……は?」
旅情が吹き飛ぶほどの衝撃に私はベッドから飛び起きた。
「な、ななな……ッ!?」
何故だか分からないが、私は紺のぴっちりしたスーツに白衣を着たまま寝ていたようだ。
もう一度繰り返す。
何故だか分からない。
「は……? 何で私、こんな格好してんの!?」
恐る恐る、つい今しがたまで寝ていたベッドの上を見る。
セーラー服姿のJK----っぽい姿の綸子が、幸せそうな顔で私のいた窪みに寝返りを打つ。
「なんじゃこりゃ!?」
かきむしろうとした頭は、きっちりシニヨンに結わえられている。
いや、これ私が自分でやったんじゃないよな?
ってか、そもそもこのスーツに白衣も私は着た覚えがないし。
寝息が止んだ。
「……あ、おはよ、ふーこ」
綸子は私の顔を見ると起き上がり、ふにゃぁっとした笑みで抱きついてくる。
いや待って! そのまま床でまた寝ようとしないで!
「じゃなくて!」
「ん?」
私何かしちゃいましたか? みたいな顔で綸子は自分達二人の姿を交互に見る。
「あー!!」
綸子は綸子で素っ頓狂な声を上げているが、それどころではない。
こんなの、どう見ても女教師と女生徒の心中未遂以外の説明のしようがない。
「なんて格好させてくれてんのよ! こんなの見られたら下手したら通報モンよ!?」
私に両肩を掴まれガクガクさせられなから、綸子は心底がっかりした顔になっている。
「そっか、私寝ちゃったのかぁ」
「はい?」
それからすぐにベッドの上に正座させて聞き出した話はこうだ。
お風呂から戻って二人で近くのセブンイレブンに行き、私がはこだてビールを買って、部屋に戻ってベッドで飲みながら喋っているうちに寝てしまった(そこまでは確かに記憶がある)
なので、せっかくの初めての夜なのにこのままではいけないと思い、起きたらすぐにエッチな事ができるよう寝ている私にスーツと白衣を着せ、自分はセーラー服を着て、起きるのを待っていたらしい。
「エッチな事……」
「そう、エッチな事……」
自分で言っておいて綸子は頬を赤らめている。
言われてみれば、まぁ、そうなりますよね。
初めて一緒のベッドで寝たんだし。
「そこは寝てしまった私が悪かった……です。でも、その、なんでこの格好……」
「その方が盛り上がるかなと思って……」
眼をそらすな眼を。
「盛り上がるというのは、その……どういう意味で……?」
「いやだってさ、初めてだから、ほら……記憶に残るプレイをしたいじゃん?」
記憶に残るプレイ----声に出したい日本語である。
いや、出したくない。
「しかしマジかぁ……寝ちゃったかぁ、私のバカ……」
いや寝てくれてよかったと私は思ってるけど。
ここまでがっかりされると、さすがに申し訳ない気持ちになる。
ので、とりあえず向かい合ったまま抱き寄せて「ごめんね」と謝る事にした。
「なんか、気持ち良さそうに寝てたから起こせなかったよ」
「ごめん、普通はあのくらいの量なら全然平気なんだけどね」
ホテルのベッドの上で抱き合っている保健教師と女生徒というシュールな格好のまま、私達は顔を見合わせ、どちらからともなくキスをする。
「なんかこれだけでもエッチいねこれ」
「そういう性癖だったの……?」
しかしやたらと荷物が多いと思ったら、これ(コスチューム)を持ってきてたのか。
ご苦労な事である。
「もしかしてこのチョイスは、保健室の先生が好きだったとか……そういうアレ?」
「いや、好きとかとは違くて……ま、学校行ってもほとんど保健室登校だったから、実際お世話になっていたし、あと……ちょっとだけふーこに雰囲気似てたし……ちょっとだけね?」
少女は少し遠い目になる。
ふーん、と興味なさげに返しながら、私はその名も知らぬ保健教師にかなり本気で嫉妬した。
「今何時?」
「えと、7時」と、綸子が枕元のスマホを私に向ける。
ふむ。
朝食はゆっくりでいいか。
「ね、しばらくふーこと、こうしてたい」
「……脱がせたいとかじゃないならいいけど」
こくりと頷く少女と、私はまた横になる。
手を繋ぐ。
同じ北海道の朝の光でも、こんなに違うのかってくらいに柔らかい日差しの中で、同じ天井を見上げる。
「もっかいキスしたい……いいよね?」
「うん」
そんなこんなで、朝食の会場に行くまで私達は、他人様に見せられないような姿のままキスしたり、まどろんだりしたのだった。




