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お土産は、オソロイにしたいの!

 ホテルの前の道路は、日が傾くのに合わせるように活気を増していた。

 平日だと言うのに、乗客待ちのタクシーにもすぐに誰かが乗り込む。


 そんな中を、綸子は私の腕に絡み付くようにして楽しそうに歩く。


 サングラスを取った綸子の目は、瞬きを繰り返しながら一秒たりとも何かを見るのをやめない。


 空を見て、ショーウィンドウを見て、看板を見て、道路の表示を見て、通り過ぎて行った猫を見て、その合間合間に私を見上げて白い歯を見せる。


「旅行って楽しいね、ふーこ」


 キャップを被っていないせいで、少し残っている汗の匂いと、いつものシャンプーの甘い香りが私の鼻をくすぐる。


「もうずっとこのままならいいのに」

「そんな事言ったって、まだ半日が終わったばかりじゃない」


 こんなに近くで彼女を感じるのって、もしかしてこれが初めてかもしれない。

 そのくらいに今の綸子の存在は、私の五感と思考を虜にしている。


「だからさ、半日でこれだけ楽しいって事は、残りはもっともっと楽しくなって……最後は帰りたくなくなっちゃうと思うんだ。そしたらふーこも一緒に残ってくれる?」


 私がもし男子高生だったら、公衆の面前とかそういう事もお構いなくこの場でキスしてるのは間違いない----そう確信するくらいに、無理難題を持ちかける綸子の潤んだ瞳は蠱惑的だった。


「……チケットは私がちゃんと預かってるから、変な事は考えないように」

「あはは、冗談だって」


 十字街の駅前に、やや丸みを帯びた印象の灰色の建物がある。

 二階建ての、昭和初期に建てられた古い店舗に私は綸子を招き入れる。


「ここでお土産見てかない? おねーさんが買ってあげるから」

「お土産? お菓子とかじゃなくて?」


 ここはいわゆる工芸ギャラリーだ。

 ほとんどの観光客は素通りしてしまうため、店内は静かで、自分が今観光地にいる事を忘れてしまう。


 といっても、敷居は別に高くない。

 夏場は入口で地元の野菜を売っていたり、奥はカフェになっていたりする。


「へぇ、色んなの売ってるのね」

「地元の工芸家の作品がメインだけど道外の作家さんのとかもあるの」


 陶器や織物、それにアクセサリー。

 どれも一点ものだ。


「確かにあんまり函館感がない……イカのシャツとか」


 それ、欲しいか?


「でも……うん、なんか、ここにしかないモノのがいっぱいあるのは分かるかも」


 広くはない店内を一人でゆっくり歩きながら、綸子は並んでいる工芸品を一つ一つ見ている。

 時折手に取ったり、首を傾げて見詰めていたりと、結構興味津々な様子だ。


「……これ、なんか初めて見た……ほら、中に猫がいるの。他にもあるけど、全部違う」


 少女はずっと掌に置いて眺めていたペンダントを、私に見せる。


 それは3センチ四方くらいの透明のガラス製ペンダントだった。

 厚みは5ミリくらいと、結構ずっしりしている。


 特徴的なのはそのデザインだ。


 縁取りは、銅か何かなんだろうか。

 赤茶色の金属で、色のムラが木の肌や石の模様にも見えて面白い。


 そしてその縁取りと同じ色の猫が、一匹ガラスに封じ込められている----まるで小さな絵画のように。


「……お土産、これがいいな」

「うん、すごくいいと思う」


 ほとんど同時に私達は頷き合っていた。


「じゃ、包んでもらおうか」

「待って」


 綸子が、私の手を取る。


「あのね、もう一つ買って」

「あ、うん……いいけど?」


 中身は猫だけじゃなくて、猫と月とか、家とか、童話の世界のようなモチーフが幾つもあって私は悩んでしまう。


「自分で選ばなくていいの?」

「ふーこが選ぶ事に意味があるの」


 うーん。

 よく分かんないけど、まぁいつものお嬢様モードかな。


 悩んだ末に、私は三日月の下を歩く猫に決めた。

 細身のシルエットは、どこかチャンプを思わせる。


「やっぱりもう一つも猫にしちゃったけど、いいの?」


 一応確認する。

 せっかくのお土産なんだから、本当に気に入ったモノを買ってあげたい訳だし。


「いいよ。だってそれはふーこの分だから」


 しれっと言って、少女は私に微笑む。


「初めての二人の旅行なんだもん、お揃いにしたいじゃない?」

「な……!?」


 待って!

 それって昭和で言うとペアルックじゃん!?


 良く見ないと分からないけど、ペアルックじゃん!!


(うわ、この展開は予想してなかった……)


 これ、レジの前で言われなくて良かった。

 絶対嬉しすぎて店員さんの前で耳まで真っ赤になってたと思う。


「だから包まないで二人でこのまま付けるの、いいよね?」


 私の心中を察しているのかいないのか、お嬢様は当然のようにそう仰るのであった。


「……いい……です……」


 拒否権なんか私にはないのだ。


「明日はイカのシャツを私が買ってあげる!」

「あ、それはお気持ちだけで結構ですので」


 鏡を借りて店員さんに着けてもらったペンダントは、控えめながらも不思議な存在感があった。


「へへ、お土産買ってもらっちゃった。しかもお揃い!」


 無邪気に笑うミルクティー色の髪の少女に、銅とガラスのペンダントは誂えたようにぴったりだった。


 市電に乗り込んだ私達は、外人墓地へと向かう。

 降りるのは、函館どつく前----終点だ。

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