15-1 小暮元太 「街へ買い出し」
視点変わります。ゲンタこと小暮元太
ほか今話登場人物(ニックネーム)
姫野美姫(ヒメ)
飯塚清士郎(プリンス)
根岸光平(コウ)
遠藤もも(ももちゃん)
蛭川日出男(ゲスオ)
大宴会が終わって、ぐっすり寝た翌日。
木のベッドに毛布を敷いただけの寝床は固いけど、久しぶりにゆっくり寝れた。木の上の家は通気がよくて、思ったより快適。なにより、一人に一軒あるのがいい。
この「エルフの隠れ里」は、思わぬメリットもあった。エルフが住んでいた時の結界が、まだ残っているらしい。魔物や魔獣は侵入できないので、安心して眠れる。
まだみんな寝てるかなと思ったら、広場で剣の練習をしている一団が見えた。男子が多いが、女子も数人いる。
ぼくは肩身がせまくなって、家から出るのをやめた。
ぼくの身長は186ある。
体重は115だ。
高校で三人しかいない相撲部だし。
ぼくが戦わなくて、どうする。でも怖い。
剣なんて、ぜったい無理だ。相撲はいい、ぶつかるだけだ。相手を切るというのが、どう考えてもできない。
姫野さんが、鍋と棒を持って出てきた。鍋をガンガンガン! と叩く。
「みんな! 朝ごはんできたよー!」
隠れ里に点在する木の上の家から、みんながぞろぞろ出てきた。ぼくも行こう。
朝ごはんは、小麦粉を溶かして焼いた物。味のない、お好み焼きみたいだと思ったら、煮詰めた果物があった。それを挟んで食べると、なんだかクレープみたいで美味しい。
食事をしながら、今日についての話があった。
三つに分かれてやりたい事があるそうだ。
一つ目は、近くの森や山で食料の調達。
二つ目は、村に戻って麦や野菜の種を取ってくること。
三つ目は、一番近くの街へ買い出し。
元村長のおじいちゃんから、この世界の説明があった。ここは「神聖アルフレダ帝国」というらしい。
逃げてきたのが王都で、買い出しはそこではなく、この近くに小さな街があるらしい。「近く」と言っても、行って帰れば数日はかかるって。
僕はその一番遠い買い出しに行って欲しいと言われた。荷物が多くなると荷車を買うかもしれないので、力が強い人が希望らしい。
そのほかの随員は、プリンスがリーダー、疾風のコウ、この二人が戦闘班。あとは遠隔通話のスキルを持つ遠藤もも。彼女は本部との連絡係だ。
あっ、あともう一人いた。なぜかゲスオくんも。
街への潜入なので、見た目がトカゲ人のジャムさんとかは行けない。また、最少人数で行ってみて、危なくなったら逃げるらしい。
行きたくない、とは言えない。だいたい、今食べている朝ごはんは、いつ作ったんだ?僕が起きた何時間も前から、料理班は作ったと思う。荷車ぐらい引かないと。
怖いと言っている場合じゃない。場合じゃないけど、剣、怖いなぁ。
干し肉と味なしお好み焼き、それに水。水は皮革袋だったら臭そうで嫌だと思ったら、鉄製の物があった。食料と装備を整えて出発する。
剣を腰に下げているのは、プリンスとタク、それに女子なのに遠藤さんもか。思わず、ため息が漏れる。
「どした? ゲンタ」
遠藤さんが振り返った。僕の名は「小暮元太」なので、みんなからゲンタと呼ばれる。
「遠藤さんも剣を差すんだね」
「ああ、一応? 戦ったことないから使えるか、わかんないけど」
プリンスが足を止め、振り返った。
「全員が戦わないといけない、とは思ってない。俺もキングもな」
プリンスは、こっちの考えてることが全てわかってるみたいだ。コウくんも、それにうなずく。
「せやで。向き不向きって、あると思うわ」
「誰かに助けてもらえる、と考えてさえなければ、俺はいいと思っている」
「わちゃ、あいかわらずクールやなぁ。あれ? 今日、妖精はどないしてん」
「カゴに入れて置いてきた」
「冷たっ!」
「ふふふ」
ゲスオくんが笑って眼鏡を上げた。
「剣など持たずとも、先手必勝、逃げるが勝ちでござるよ」
……ゲスオくん、微妙に言葉が間違ってる気がする。それ先手じゃない。
ずいぶんと歩き、夕方に差し掛かったころ、やっと道らしい道に出た。
向こうから馬車が二台くる。一台は兵士二人が運転する箱馬車。その後ろは、大きな物を積んだ荷馬車だ。
「どうする? 隠れよか?」
「いや、普通にやりすごして見よう。この世界で初めて巡り合う人間だ。どういう反応をするのか見たい」
「なるほどな。兵士二人やったら、どうとでもなるわな」
「遠藤、姫野との回線をつないでおいてくれ。念のために状況は逐一、向こうに伝えて」
遠藤さんがうなずいて、耳に手をやる。
「ヒメ、こっちね、今から……」
道の脇に移動し、馬車をやりすごそうと待った。
馬車は、ぼくらの前で止まった。箱馬車の扉が開き、人が一人降りてくる。
「ありゃ、大当たりちゅうやつ?」
箱馬車から出てきたのは、灰色のローブを着た老人だ。フードを深くかぶり、両手は体の前で袖に入れている。
「やっと会えたな、召喚人たちよ。あちらこちらをうろついた甲斐があったわ。吾輩を覚えておるかね?」
「……知らんな」
身構えていたぼくは、プリンスのあっさりした言葉におどろいた。
「わおっ! わいらをこの世界に連れてきた張本人やで。ここで会ったが百年目、にならんの?」
「俺らを元の世界に帰せるなら、用はあるが。帰せるのか?」
プリンスがローブの老人を見つめた。
「召喚とは、見えぬ海から魚を釣り上げるようなもの。元いた場所がわかると思うか?」
「まあ、そんな感じだろうとは予想していた。興味はない。失せろ」
「復讐せえへんの?」
「斬って、何も得がないからな」
コウくんが大げさに首をすくめた。
「うへっ、社長の息子って、やっぱ損得勘定なんやなぁ」
「そうでもない。キングが傷つけば、探してでも殺す」
「ちょっ、その贔屓に、わいも入れてえや」
「……考えとく」
「ぜったい考えてへん!」
二人の会話にしびれを切らしたように、ローブの老人が冷笑して口を開いた。
「若いゆえか、余裕がすぎるぞ、異世界の人間よ。おおかた、こちらの魔法の防御はできるのであろう、我の呪いを解いたのだしな」
コウくんも相手を見て笑いを浮かべた。
「そっちこそ、余裕かましてへん? 兵士二人しか見えへんけど。ええと、名前忘れたわ」
「大賢者ハビスゲアルだ!」
「そうそう、ハゲ過ぎである」
「ハゲ過ぎではない! これは剃髪ぞ!」
老人がローブのフードを取った。ツルツルなので、たしかにハゲかどうかわからなかった。
「余裕で構えておるのも今だけよ」
老人は荷馬車に近づくと、何かを唱えた。
布がかかっていた荷物が、ゆっくりと盛り上がる。
布の下から立ち上がってきたのは……
「ゴーレムか」
プリンスが目を細め、そうつぶやいた。





