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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
20/42

IF19〜もしも友達が遊ぶのを渋ったら〜

 兄に初めて顔を合わせたその夜。俺は3回目となった入浴タイムということで、毎回少しずつだが慣れていくため、今はお風呂の中でまどろんでいた。


「可愛い、か」

 あまり体を見ないようにと顔を上げながら、1人でつぶやく。音が反響して、自分の、すっかり可愛いくなってしまった声が聞こえてきた。


 今日は、色々な人から可愛いと言われた。イケメン、と言われることはたまにあったけれど、ここまで可愛いと言われたのは、幼稚園ぶりくらいのものであった。


 それどころか、兄からも美少女と言われてしまった。

 やっぱり可愛いのだろうか、この体は?ふと、鏡で見た自分の顔を思い出す。


 まん丸の目、サラサラの髪。まぁたしかに、美少女と呼ばれるのもわかるのだが、俺からしたら男の時の俺が美少女と呼ばれているようで、少し気持ち悪い。


 だけど、心から女の子に変わってしまったら、この世から俺がいなくなってしまうのではないかと思ってしまうのだ。


 名前も姿も変わってしまって、性格までも変わってしまったら、この世から俺の存在が消え失せてしまうのではないか、そう思えて仕方がない。


 そして今日は、そんなちょっぴりハートフルな俺にもう一つ、気になることを言われた。


「『俺』って、言わない方がいいのかな?」

 今日、クラスの奴らに学校案内をしてもらっている時に、言われたのである。


『日比野さん、一人称が『俺』なんて、男らしいですね!』

 と。この時俺は、男であることが周りにも伝わったのだと思って少し嬉しくなったが、よくよく考えてみると、女の子が言われる言葉にしては結構辛辣な方だ。


 男らしいなんて、女の子に言うには少し失礼な言葉じゃないかと考えてしまうのは、俺だけだろうか?


 だけど、さっきも思ったけど、一人称だって俺を構成する要素の一つなのである。変に『私』とかに変えてしまうと、それこそ俺が消えてしまうような気がする。


 俺は、どうすればいいのだろうか?

 お風呂の中でもわかるほどのすべすべもちもち肌の細い足を抱いて、体操座りのような体勢になって考える。


 もっと女の子になった方がいいのだろうか?はたまたこのまま男でいた方がいいのか?どちらにしても、俺は悩み続けることになる気がする。


 女の子になりきらなかったらそれはそれで今みたいに悶々としながら生活することになりそうだし、なりきったらなりきったで俺の存在を否定してしまうようで悲しくなってくるのだ。


 誰かに相談しようか?だがその誰かが、当事者でない俺以上の回答を出してくれるのだろうか?


 もし相談するなら、母さんか?でも、肉親に言うには恥ずかしすぎる内容ではないかと思ってしまう。自分が真面目に相談している図を想像するだけで、吐き気がする。


「どうしたもんかなぁ?」

 呟きながら風呂を出、シャワーを出す。シャンプーを手につけて、髪を洗う。髪が伸びたという違いだけで、俺の風呂の時間は、大分長くなっていた。


 男の時と勝手が違う。どんな時にもそれを感じる。

 今日の学校案内の時もそうだ。みんな俺に敬語を使ってくるのである。


 これは、みんなには俺が女の子に見えているのだから当たり前の事なのだが、やっぱり俺としては気持ちがいいものではない。


 みんなと話せたはいいが、結局いつもの俺との接し方とは全く違うものであるから、俺としては意味がない。


「みんな?あ、大宮と話してない」

 不意に、大宮の事を思い出す。いつも必ず一回は話す大宮と今日は話していないのだ。


 よく考えてみれば、会えるわけがないのだ。大宮は前から人混みが嫌いで、騒ぎ立てる生徒のことが嫌いなのだ(まぁ、俺の影響もあるかもしれないけれど)。


 その上、そこまで可愛い女の子に固執するタイプではない。目立つくらいなら、一緒に居たくないというタイプなのだ。


 つまり俺は大宮から煙たがられる、どストライクというわけである。


 だけど、今日あれだけみんなと話せたくらいなんだから、大宮1人とくらい話せてもいいような気はするのであるが……………


 ブレックスではあの3人とすら話せなかったのに、これは大きな成長ではないか?おお、そう思うとなんだかなんでも出来るような気がしてきた………!


 よし、明日は坂本に協力してもらいながら大宮のところへ行こう!うん、流石に1人は無理だべ。


 そう考えて、急いで体を洗い流して、風呂を出るのであった。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++



「なぁ、今度の4時間授業のあと、遊びに行かん?」

「え、嫌、ですけど?」


 大宮に話そうと胸に誓った次の日。昼放課になった瞬間に教室を飛び出して、大宮のところに来たのである。


 そして現在。物理的な痛みを感じるくらいの突き刺さる視線を浴びながら、大宮を遊びに誘っている次第である。助けを求めるように坂本を見ても、あからさまに目をそらしてくるのである。


 というわけで、俺は1人で、視線を一身に浴びているのである。まぁ、半数以上は大宮の方に向いている気もするが。


「…………あの、なんで僕なんですか?ブレックスで一回会っただけですよね?」

「……………うん、まーね!」


 完全に図星である。何も言い返せない。だから、おどけた調子で返すことしかできないのである。


 確かに大宮を遊びに誘う理由が全く見当たらない。大宮からしたら、ただただ目立つ危険因子が目の前で危険物を振りまいているようにしか見えないだろう。


 もしかしたら、「一回会っただけで俺を遊びに誘うなんて、まさか俺に気がある!?」と思われてしまったかもしれないが、今はそんなことを思っている場合ではない。


 とにかく今は、大宮を遊びに誘うことによって、誰とでも遊ぶフレンドリーな感じを出して、一刻も早く学校に馴染まなきゃいけないのだ。


 そのための第一歩として大宮を誘っているのである。大人しく俺についてきてほしい。


 ぼやぼやとそんな事を考えていると、大宮の顔が近くに寄ってくる。大宮の顔が近づいてきただけなのに、少しだけドキリとしてしまう。


「………本当に目立つんで、やめてください」


 小声で囁いたと思うと、こんな事を言うのである。

 俺からしたら、目立つなんて承知の上だ。むしろそれを考えた上でこの行動をしているのである。


 目立つことなんて、もう慣れたし。


「だって君ぃ?日比野正樹君がいなくなって、遊ぶ人いなくなったって聞いたよぉ?暇してるんでしょ?一緒に遊ぼうよぉぉ!」


 わっさわっさと大宮を揺らす。今までなら早帰りの日は即オーケーだったのに、やっぱり姿が変わったらどうしようもないということか?


 まぁ確かに、大宮からしたら、『話すことなんてないし気まずくなるのは確実』と思ってしまうのも仕方のない話ではあるけれど。俺だってそう思うよ。うん、同情するよ。


「あ?あいつもかよ。あいつも日比野さんたぶらかしてんのか?」「うわぁ、クソ野郎だな。こりぁちょっと、躾けてやんねぇといけねぇかなぁ?」「まぁ、首ひねって頭から叩き落とせば一発だろ」


 などなど、坂本の時と同じように処刑についてどんどん話が進んでいってるのには耳を塞ぎ、とりあえず目の前の大宮を見つめる。


「でも遊ぶ人いないんでしょ?」

「………まぁ、いないですけど」

「じゃあ行こうよー!」

「いや、別に遊ばなくてもいいですよ」


 こいつ………!とふつふつと腹の底から怒りが湧いてくる。ここまでコケにされると、俺のプライドというものがバキバキにおられてしまうように感じる。


 もういいよ、こうなったら、少しくらいバレる危険を冒してでもこいつを遊びに誘うことにしよう。


「だってお前、早帰りの日に遊ばないと、家に帰ってもすることないんだろ?知ってるぞ?第一、次の早帰りの日って金曜だからお前塾もなんもなくて暇だろ?だったら俺と遊ぼうぜ?一緒に遊ぶ人いなくて、暇だろ?」


 これだけ大宮の情報を知っているということで、怪しまれるかもしれない。正体はバレないけれど、気味悪がられるかもしれない。


 だけど、そんなこと百も承知の上での行動だった。何故だかこの時の俺の心には、大宮と意地でも遊びたいという気持ちだけがあったのだ。


「………いや、別にだからって、初対面で遊ぶことはないですよ」

「もう、頑固だなぁ!」


 ここまで意固地に拒否されると、心が折れそうになる。ここまで大宮に嫌われたのか、そう思えて仕方がない。厳密に言えば嫌っているのは俺ではないのだが。


「なんだアイツ?日比野さんのお誘いを断る気か?」

 と、不意に何処かから声が聞こえる。なんとも聞き慣れた、周りの奴らの声であった。


「アイツマジなんなん?あれだけ誘われて断るとか、万死に値するよな?」「それな?アイツ、何様なの?」「おうおう、大宮も偉くなったなぁ」


 徐々に声が大きくなり、わざと大宮に聞こえるように煽り出す。誘われたら誘われたで怒るのに、断ったら断ったで怒るなんて、なんともちぐはぐだなぁ。


 なんて適当に考えていたが、よく考えてみればこれはチャンスだ。この状況を逆手にとって、こいつと遊ぶ約束を取り付けてしまおう。


「なぁ、遊ぼうぜぇ?今断ったらどうなるか知らんよ?まぁ詳しくは坂本が知ってると思うよ」

「………だとしてもなんで僕にそんな固執するんですか?」


 顔が笑顔に変わらない。大宮は、変わらず真顔で俺のことを見つめてくる。思わず俺の方がたじろいでしまう。


 だが、改めて聞かれると、なぜ?と思ってしまう。意味なんてないのだ。俺が遊びたいんだ。大宮と遊ぶ時が、なぜか人生で1番幸せなのだ。今は、心からそう思う。


「…………そんなに遊ぶのが嫌か?」

 否定され続けすぎて、自信をなくしてしまう。その場に座り込んで、大宮を見上げる形となる。


 するとなぜか、さっきまで俺がたじろいでいたのに対して大宮がたじろぎ出した。…………よく考えたらこれは上目遣いとかいうやつなのでは?


「そ、そんな顔…………」

 どうやら俺の上目遣いは、ダメージ絶大なようだ。みるみるうちに大宮は小さくなっていく。別に責めているわけではないから、悪い気もする。


 だけど、ここまで来たら最後まで押せ押せを通すべきだと思う。ここまで弱った大宮に追い打ちをかけて、遊ぶ約束を取り付けてしまいたい。


「な?いいだろ!?」

「うう〜ん………」

「今なら坂本もついてくるから!!」

 突然話に出された坂本が、視界の端でギョッとしているが、使えるものは全部使うのが俺の流儀だ。


「……………じゃ、じゃあい「いいの!?やったぜ!!じゃあ早帰りの日にこのクラスに迎えにくるからな!」


 大宮が言い終わるよりも先に俺は食い気味で話を取り付ける。猶予を与えてしまうと、気が変わってしまうのが怖かったのだ。


 この時の俺は、大宮と遊べるというのが、嬉しくて仕方なかったのだ。なんだか、しっくりこないのだが。

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