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IF〜もしも男子校にTS娘が入学したら〜  作者: 中内達人
1章:〜もしも男子校に女1人で転入したら〜
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IF14.〜もしも校長と面談したら〜

 俺が、学校の校舎内に入って行った場所は、教室でも職員室でもない。校長室だった。

 何故か俺は転入の条件として、女子制服の着用と、マンツーマンでの校長との面談が必要とされており、その2つ目を今実行しようとしていた。


 中学生側の玄関から俺が入って行くと、そこにいた全員がビクッとし、辺りが静まり帰る。そしてみんな俺の方を威嚇とも言えない目でまじまじと見てくる。

 その視線だけで、こいつらがどれだけ女子慣れしていないのかがひしひしと伝わってきた。


 とりあえず俺は、自分の下駄箱を無視して堂々と歩いて行く。なんだかこいつらの視線を浴びてると、勝ったような気分になってしまう。


 どうせこいつらは、この三吉原中に入って来た女の子について会議が始まって、有る事無い事話し合うんだろう。


 何より俺は、それが嫌いだった。これは思春期特有ののアレかもしれないが、みんなと一緒の事をするのが恥ずかしかったんだ。自分だけ違う行動をして、目立ちたかったのかもしれない。


 靴を脱いで廊下に上がると、まず俺は左側に逸れていった。普通の生徒なら、ここで右に行くものだが、まだ俺には校長との面談が残っているから、左へ曲がって行く。


 俺が離れると、またさっきのように下駄箱にガヤガヤが戻り始めた。それどころか、さっき以上にうるさくなっている気がする。多分俺の事について騒いでいるのであろう。


 そんな後ろのBGMを完全にシャットアウトしている緊張に包まれたドアの前に立つ。物々しい雰囲気を全く大きな木のドアの上には、校長室と書かれている。


 …………今からここに入らなくてはいけないのか?

 中高一貫の学校にいたとしても、6年間校長室に入る事なく卒業して行く生徒がほとんどだと思う。


 そんな部屋に俺は入らなくてはいけない。

 こういう場合、ノックするのが普通だろうか?ノックして声をかけるべきであろうか?


 …………するぞ、叩くぞ、声出すぞ!

 あ、でもどれくらいの強さなんだ?今の俺の力でどれくらいの力で叩くのが普通なんだ?自分の力の全てが分からないから、力加減もわからない。

 これだけ分厚いドアとなると、尚更予想がつかない。


 よし、全力だ、全力でいくぞ…………!

 左手を前に突き出して、腕を引く。腰を落として、重心を低くする。そして左足に体重を乗せて、引いた右腕を前にーーーーーーーー


「日比野君!」

「あはひぃ!」

 びっくりして、腕が止まる。俺の右手は、ドアの1センチ前で止まっていた。


 その体勢のまま恐る恐る振り向く。この僧侶の格好をした素敵なおじさまは見覚えがあった。


「こ、校長先生ぃぃぃぃぃ!?」

 うちの学校は仏教の学校で、学校内には宗教の先生がいっぱいいる。なのに、この校長先生というのは、仏教徒でもないし、僧侶でもない。普通にスーツを着て、普通の公務員って感じだ。校長というだけで、なんだか権力者に見えて緊張してしまう。


「ささ、中に入っ………」

「あの、ご、ごめんなさい!!!えと、あの、別に先生の部屋のドアを殴ろうとしたのではなくて、ですね!?あの、その力加減が分からないんで、その、力を込めるために、ですね!?いや、力を込めるってそのノックをしようと!!!いや、こんな体勢で何を言うかと思われるかもなんですけど、その、あの、なんと言ったらいいか……………」


 大きな身振り手振りで無罪を主張する。

 この格好を見たら、校長室のドアを壊そうとしているように見られるかもしれないと思ったための行動である。

 だけど校長は、眉を吊り上げるそぶりを見せない。


「ははは、分かっていますよ。とりあえず中へお入り下さい」

「…………え?あ、はい……………」

 怒ったりしないのか?と疑問に思いつつ、校長先生によって、開けられた部屋に俺は入る。


 ドアと同じで、ここも謎の緊張感に満ち溢れていた。

 廊下では、ガヤガヤとうるさかった声も、ここでは何も聞こえない。ここだけが学校と隔離された別世界のようである。

 そして、蛍光灯の明るさは教室と一緒のもののはずなのに、なぜか俺の目には緊張感として捉えられる。


 校長室の真ん中には、何か対話をするようの高級なソファが、なんとも会議用っぽい漆塗りの木のテーブルを隔てて対面している。校長は、俺をここに座るよう催促して来た。


 じゃあお言葉に甘えて、と容赦なく先に座る。何も言わずに先に座ったのにもかかわらず、校長はニコッと笑って、俺と対面する。

 なんだかその笑顔が、胡散臭く見えたが、多分気のせいであろう。


「おはようございます、日比野さん。校長の高橋泰世たかはしたいせいです。この度は我が校に転入いただき………」

「え、あ、あの、僕が元男だって分かってるんじゃ……」

 もしも違ったら恥ずかしいと思って、言葉の最後を濁して聞く。


「まあ一応、挨拶をと思いまして…………」

 また校長は、ニコッとするり


 は、はぁ…………と曖昧な返事をして、話を終わらせる。どう返事していいのか分からなかったから、話が終わってしまう。


 部屋の中に、緊張感と静寂が立ち込める。気管支すら塞がれてしまうような静寂の苦しさに、思わず咳き込んでしまう。

 どうして面談とか言って、この校長は話をしてくれないのであろうか。


 そう思っていると、さっきまで全然口を開こうとしなかった校長は、ついに口を開いた。


「………実は私、元々君と同じ境遇だったんですよ」

 俺と同じ境遇?というのは、どう……………?

 例えば、女の子としてここに転入して来たとか?でもそしたらこの目の前にいる男は誰だ?

 いや、考えるまでもないか。多分この人は、元男だったんだろう…………?


「はい…………て、えええぇぇ…………」

「意外と驚かないですねぇ?」

 自分でもびっくりだった。自分が思っていた以上に声が出なかった。なぜだろうか?驚きすぎていたのだろうか?この空気を読んだのであろうか?自分でも分からない。


「………元・元男って事ですか?」

「まぁ、そういう事になるかな?」

 う、うわぁ…………胡散臭ぇぇぇ………


「さては日比野君?信用していないですね?」

 と、意地の悪そうな笑顔で校長は言った。


 俺の図星をつくかのような言葉に、声が詰まってしまう。そんな俺を見て、また校長は笑みを浮かべる。


「あ、で、でも!それなら、元に戻る方法を知ってるんですよね!?」

 よし反撃ぃ!と心の中で密かに喜んでいると、校長は笑みを崩さずに、

「まぁ、知ってるけれど、まだ教えられないですね」

 と言った。


 ……………ますます胡散臭ぇぇぇ。

 なんだよまだ教えられないって。教えろよ!教えてくれたら俺は元に戻れるし、こんな面倒くさい手続きもしなくて済むのに!?仕事をわざわざ増やしてまで俺を女の子にしておく理由はなんだ………?


「…………校長先生?そんな事言われたら、なんか答えられないから答えをはぐらかしているように聞こえますよ?」

 自分でも、ここまで校長先生に言えることが驚きだった。でもそれほどまでにこの校長が怪しかったのであろうと思う。じゃないと、緊張してこんなに頭も口も上手く回らない。


「はっはっは!そうかもしれないね!いや、そう考える方が自然だ!うん、そうだね、じゃあ私が元々君と同じ境遇であった証拠を見せてあげよう!」

 そう言って校長は、ソファから立ちあがって校長先生に用意された威厳のある机の方へと歩いて行った。


 そして戻って来たと思ったら、今度は何か写真を手に持っていた。なにか、そんな重要な写真でもあるのであろうか?


「日比野君、これを見てほしい。これは、私の約40年前の写真だ」

 差し出された写真を見ると、この三吉原中学校を背景に満面の笑みで写る容姿端麗な少女が白と黒の二色の世界にいた。


 その少女は、風になびいた髪の先までもが真っ黒とわかるほど漆黒の髪色をしていた。

 そして、この白磁のようなくすんだ二色の写真でも分かるような真っ白な肌。端正な顔立ち。全てが、見覚えのあるものであった。


 俺は、この写真を見たときに、手が震え、足が震えた。喉は渇き、頭は動く事をやめた。

 それほどまでに、この写真に俺は恐怖した。


 この写真に写る女の子は、まるで、今の俺のお姉ちゃんのような容姿であったのだ。

 あまりにも、似過ぎている。姉妹どころか、背の高さの全然違う双子と言っても信用されるくらいであった。


「こ、こここ、これ、れれれ、えええ、え?」

「そんなに慌てないでください。これで少しは信じてくれましたか?」

 俺は、上辺では信じていないという嘘をついていた。

 でも実際は、心の底では、かなり信じていたんだ。むしろここまで似て非なる女の子を見せられて、信じない方がおかしい。


 でも、一つ気になることがあった。

 それはというと、あの写真の女の子が、今の俺と同じ制服を着ていたということである。


「あの、この、制服…………」

「はい、そこの境遇も、君と同じなんです」

 やはり、そうであった。この校長は、三吉原中出身の先生だったのだ。


 そしてもう一つ。写真を見て重大なことを思い出した。


 ………………鞄、家に忘れた。

 なぁんで、気づかないかなぁ!?俺もだけど、母さんもさぁ!?なんで!?学校へ持ってくる唯一の荷物なのに!?手ぶらで来たことを誰か褒めてくれ!


「…………日比野君の面談は終わりです。貴方は合格いたしました。日比野咲さんは、日比野正樹君のクラスの席や出席番号、荷物など諸々を受け取ってください」

 校長はそう言うと、また立ち上がってドアを俺のために開けてくれた。俺には、その行動も、胡散臭く思えた。


 俺は、なんとなく納得いかない気持ちで次なる目的地の教室へ向かうのであった。



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