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第八話  遭遇戦! 森の中は危険がいっぱい!

「グギャァ!」


 銃声と共に、頭を撃ち抜かれ、一体の小鬼ゴブリンがのけぞる様に倒れた。

 その周囲には十匹ほどの小鬼ゴブリンがいたが、露骨に動揺していた。


「下手に方陣を組むからよ。頭が誰なのかバレバレ」


 硝煙が漏れ出す銃口、それを構える女性が一人。ヒサコであった。

 エルフの里を目指して大樹海に入ったはいいものの、やはり道なき道を行く悪路の踏破は容易でなく、苦労をさせられた。

 おまけに、早々と小鬼ゴブリンの一団と遭遇し、有無を言わさぬ戦闘状態に突入した。

 数はヒサコとテアに対して、小鬼ゴブリンは十一匹。数の上では相手方が有利であった。

 だが、ヒサコはこれに対して冷静に対処した。すでに面倒な野生動物や怪物モンスターとの遭遇に備え、銃を装填済みにしておいたのだ。

 火薬が湿気る危険性もあったが、それでも短い時間で遭遇すると踏んでいたのが、見事に的中した格好だ。燧発銃フリントロックガンであるため、火縄をわざわざ持ち運ばなくてよい利点が、ここでも発揮された。

 互いに認識したと同時にヒサコは銃を構え、機先を制するべく、銃撃を加えたのだ。

 それがドンピシャに、相手の頭と思しき隊列中央の一匹を撃ち抜いた。

 リーダーが倒れれば隊列は乱れる。それをヒサコは見逃さなかった。


「装填、お願い。蹴散らす!」


 ヒサコはポイッと銃をテアに放り投げると、右手に愛用の細剣レイピア、左手に“鍋”をしっかりと握り、狼狽えている小鬼ゴブリンの群れに斬り込んだ。

 小鬼ゴブリンは基本的に弱い。性格は臆病であるし、体格も人間の子供程度の大きさで、すばしっこい事を除けば大した実力を持ち合わせていない。

 ただし、要注意なのは、道具を使える程度には知能があることと、旺盛な繁殖力に裏付けされた数の多さである。個々の能力は大したことがなくても、それが衆となれば十分な脅威と成り得るのだ。

 ヒサコはそれをよく理解していた。戦場において、数の優位性について語るなど、幾度となく戦国日本で経験してきたことであるし、“今更”でしかない。

 では、数の多い相手に対して取るべき手段は何であるか。その内の一つは“奇襲”だ。

 相手の準備が整う前に仕掛け、機先を制し、これを圧倒する。戦とは“準備”の競争であり、準備が整っていない相手を屠るなど、はっきり言えば容易いのだ。

 小鬼ゴブリンはどうやら銃を知らないようで、火薬の爆ぜる音に対して明らかにビビっている反応を示し、いきなり倒れたリーダーの姿に茫然としていた。


(未知の恐怖、頭の喪失、奇襲効果としては十分だわ)


 数の不利など物ともせず、猛然と突っ込んでくるヒサコに小鬼達はさらなる恐怖に襲われた。

 繰り出されたヒサコの突きは、相手の喉を的確に捉え、固まる前に素早く抜く。手近な別の個体に、更にもう一突き。


「グギギャア!」


 断末魔が森に響き、さらなる死体を作り出していく。

 いまや、目の前の人間の女は、小鬼にとって死神も同然であった。

 慌てて逃げ出そうとするも、背を晒した途端に背中から剣を突き入れられ、的確に心臓を穿たれた。


「ギャース!」


「ゴガァ!」


 小鬼も必死だ。何匹かがヒサコに斬りかかったが、突き出された“鍋”の力に当てられ、その場に固まり、あるいは怯えながら後ずさりをした。

 闇を払う聖なる鍋の前に、魔の眷属の、それも最弱の存在など、敵ではなかった。


「隙を晒し過ぎよ!」


 怯む相手に、ヒサコは容赦なく剣を突き刺していった。突いて、突いて、突きまくり、その度に汚ならしい血反吐や臓物を森の中にぶちまけ、命を散らしていった。

 必死の反撃を試みるも、やはり“鍋”の力が強すぎるのか、尻込みするばかりであった。

 だが、ヒサコは容赦しない。隙を晒せばその命を狩り取り、背中を晒せばこれもまた逃げる背に剣を突き入れた。

 その内の一匹がどうにか距離を取ることに成功したが、すでに手遅れであった。なにしろ、残りはその一匹だけであり、しかも、テアが再装填した銃をヒサコが受け取っていたからだ。


「あなたで最後。では、みんなのいるあの世へサヨウナラ」


 バァン、という銃声と共に銃口から火と弾が飛び出した。心臓を狙ったつもりであったが、少しずれて腹に命中した。

 だが、小鬼ゴブリンの命を破壊するのには十分な威力であった。空いた腹の穴を必死で抑えるも、あふれ出てくるどす黒い液体の流れは止まらず、前のめりに倒れた。弱々しい呻き声と、僅かに動く体の痙攣が少しだけ続いた後、とうとうピクリとも動かなくなった。

 しかし、ヒサコは油断することなく、倒れた小鬼ゴブリンの死体を丁寧に刺して回り、いずれも死んでいることを確認した。


「・・・よし、すんなり片付いたわね」


 ヒサコはすべての小鬼ゴブリンが息絶えたのを確認すると、布で剣についた血を丁寧に拭い、腰の鞘に納めた。

 そして、側にあった岩に腰かけ、撃った銃も異常がないかどうか点検を始めた。


「丁寧に、死体斬りまでやっちゃうか」


 テアは転がっている死体を踏まぬよう、気を遣いながら歩み寄って来た。

 醜悪な小鬼ゴブリンであるからこそ、そこまで嫌悪感は湧いてこないが、もしこれが人間であろうとも、目の前の相方はやり方を変えたりはしないだろうなと思った。


「残心、と言いなさい。死んだフリして、油断したところを襲うなんて、戦場じゃよくある話だからね。最後まで気を抜かず、事を整えて終えるということよ。所作の継続であり、茶の湯でも、武芸でも、これを忘れてはならないわ」


「そんなもんかね~」


「そりゃね。だって、客がお帰りになって、扉一枚の向こう側にいるのに、姿が見えないからってゴソゴソ片付けを始めちゃったら、白けると思わない? ちゃんと送り出し、一切の気配がなくなるまで余情、名残惜しさを噛み締めてこそ、一期一会の残心となるわ」


「あ~。そう説明されると納得するわ」


 容赦ない策略家に見えて、根の部分は数寄者や茶人の息吹も感じ取れてしまう。相変わらずの掴みどころのなさに、テアは不思議な気分を味わうことととなった。


「何にても 置き付けかへる 手離れは 恋しき人に わかるると知れ」


「歌?」


「ええ、昔の顔馴染みの詠んだ歌よ。いついかなる時でも別れを惜しみ、恋人との別れのごとき余韻を持たせよ、という意味ね。これを心に刻んでおけば、どんな小事にも心して当たれるわ」


「随分とまあ、似合わないロマンチックな台詞ね」


 それで死体斬りまで肯定化してしまうというのも微妙な感じではあったが、細事にまで気を配れる慎重さはテアとしても認めざるを得なかった。


「よし、ススの掃除と各部調整も完了っと。弾と火薬が勿体ないから、あんまし使いたくないんだけどね。てかさ、森の中でいきなり襲われるとか、どうなのよ? エルフがいる森にしては物騒って言うか、なんかこう、妖精がキャッキャしながら戯れている情景が浮かんでたんだけど。現実との差異がひとくない?」


「確かに、小規模とはいえ、小鬼ゴブリンとの不意遭遇戦は私も予想外だったわ。まあ、大樹海は広いし、ジルゴ帝国にまではみ出してるからね。境界も樹海の中じゃ曖昧だし、何かの拍子に入り込んでくることはあるわね」


「その“何か”ってのが気になるわね」


 少なくとも、テアの考えを是とした場合、小鬼ゴブリンがエルフの里近くまで侵入する何かしらの理由があると言うことだ。

 気になる事ではあるが、現状では探り様もないことであった。調査範囲が広すぎて、到底二人で探ることなど不可能なのだ。


「それより問題なのが、ああいうのがウロウロしたことによって、エルフの警戒心を刺激しなかってことよね」


「そりゃするでしょうね。基本、エルフは自分の領域に入る輩には攻撃的よ。しかも汚らしい小鬼ゴブリンなら、容赦なく仕留めにくるでしょうね」


「あぁ~、面倒臭いわね~。間違って攻撃されでもしたら、うっかり反撃しちゃいそう」


「それはダメよ。あくまで友好的にいかないと。数の不利は言うに及ばず、術士も多い。質でも数でも負けてるんだから、ケンカするなんて以ての外よ」


「分かってる、分かってる! 揉み手しながら、ヘコヘコ頭下げるわよ」


「うわ、だっさ」


 なんとなしに卑屈なヒサコの姿を想像し、テアは苦笑いした。いつもの強気な態度が消え去り、情けなく頭を下げる様は滑稽以外の何物でもなかった。

 そう言う姿を見るのもある意味新鮮であるが、その際には漏れなく自分も“連座”させられるのが確定であり、自分もヘコヘコ頭を下げることになりそうだと考えると、なんともやりきれない気分になるテアであった。



           ~ 第九話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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