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第十一話  死刑宣告! お前の命は明日までだ!

 ヒーサは顔にこそ出していなかったが、気分は極めて上機嫌であった。

 見た目の情報のみを汲み取れば、城主に対して開城を迫り、穏便な解決を望んだが、それが断固として拒否されてすごすごと引き下がった。人々の目にはこう映るだろう。

 実際、自陣に引き上げたヒーサを見る兵士達の面持ちは暗かった。なにしろ、機動力重視の編成のため、部隊には攻城兵器がないに等しく、銃で地道に削る以外のやり方しかなかったのだ。

 目の前の強固な城に対して果たしてそれは有効なのか、疑問が生じるのも無理なかった。

 うかうかしていると、後続の部隊が到着し、城攻めの役目を奪われる危険もあった。力攻めしかないのに、力攻めでは落ちない城が目の前にある。開城降伏が不調に終わった以上、指揮官はどのような作戦を立てるのか、今後の自分達にも関わってくるのだ。

 そして、そんな不安の感情が飛び交う中にあって、場違いな笑顔を振り撒いてくる空気を読まない大馬鹿者がいた。


「いやぁ、残念でしたな、公爵。敵が頑迷で、大人しく城門を開くのをよしとしなかったとは!」


 ぬけぬけと言い放ったのは、司祭のリーベであった。

 リーベはヒーサの競争相手であるブルザーの弟であり、シガラ公爵軍には人質兼監視役として帯同していた。

 シガラ公爵軍が先んじて城に到着した時はどうなることかと冷や汗をかいたが、当てにしていた矢文での降伏勧告が不調に終わり、安堵し始めたのだ。満面の笑みはそのためであり、周囲からは嫌な奴だと改めて不快な表情で見られたが、リーベはそれにすら気付かないほどヒーサへの優位性を強調していた。


「いや、あれでいい。むしろ、大成功と言ってもいいくらいだ」


 ヒーサの偽らざる本音であった。まんまとヤノシュを引っかけれた実感を得られたので、今後はなにかとやり易くなったと確信していたからだ。

 もちろん、そんな裏の事情を知る由もなく、放たれた言葉を額面通りに受け取り、リーベは更にニヤニヤと笑いかけた。


「まあ、そう思いたいのなら、そう思っていられるがよろしかろう。どのみち、兄上が到着して、城に傷一つ付けることが出来なければ、約定はどうあれ、攻め手の交代とあいなりましょうなぁ」


「その心配はない。大成功と言っただろう?」


「負け惜しみを……」


 リーベもヒーサの軍が城への攻め手がない事を知っているからこそ、強気な発言をしていた。大筒もなく、投石器もなく、攻城櫓もない。銃器の数こそ多いが、攻城兵器と言うには弱い。

 つまり、どう足掻こうとも攻め落とせないということだ。

 唯一の活路は降伏勧告を受け入れさせて、開城を促すことであったが、それも先程失敗した。

 だが、ヒーサの顔からは悲壮感が一切なく、余裕の表情を浮かべていた。


「いきなり開城を迫っても、まず成功すまい。だが、こちらが問答無用の討伐ではなく、あくまで交渉の場を設けると言う意思表示をした格好だ。今頃はこの件で会議を開き、理性的な判断を下すようになるだろう。ゆえに一晩おいて再び開城交渉を持ち掛ける。そこが狙い目だ」


 ヒーサにとっての制限時間は、ブルザーが到着するまでであった。

 リーベの言う通り、城攻めもせずに城前でたむろしているだけであるならば、さっさと代われと要求してくることは目に見えていた。伏兵の襲撃で数を減らしたと言えど、砲兵部隊は健在であり、城攻めの際には威力を発揮してくることだろう。


「そうなるとよいですな~」


「そうなるさ。司祭も身嗜みを整えて来られた方が良いですよ。明日の朝には城内から決定権を持つ者がやって来て、会議の場を設けますから、あまり汚れた格好では様になりますまい」


「フンッ! 大きなお世話だ!」


 リーベは折角の上機嫌を台無しにされたので気分を害し、馬首を返してその場を離れていった。

 それから、入れ替わるようにアスプリクとテアが歩み寄って来た。ヒーサも馬から下り、二人の出迎えを喜んだ。


「交渉は上々だったみたいだね」


「ああ。これで準備がまた一つ進んだ」


 ヒーサとアスプリクは互いの顔を見やり、ニヤリと笑った。裏の事情を把握しているアスプリクからすれば、上々の首尾と言うことはいよいよ全員を引っかける悪辣な罠が発動する瞬間が迫って来ていることを意味し、ワクワクで気分の高揚を抑えるのに苦労しているほどであった。


「よし、この場に陣地を築くぞ! 城兵が討って出ることを考慮の入れつつ、防御用の柵を忘れるなよ! 各隊、設営にかかれ!」


 ヒーサの指示を受け、整列していた兵士が一斉に動き出し、陣地構築が始まった。防御用の柵を建てる者や、あるいは寝泊まりする天幕を張る者など、それぞれの仕事に熱心に取り組んだ。

 兵士達の作業を横目に、ヒーサは手を目の前にいるテアとアスプリクに乗せ、ニヤリと笑った。


「さて、明日の朝がいよいよ本番だ。練りに練り、用意に用意を重ね、ようやく漕ぎ付けた。ケイカ村から続く一連の騒動の、総ざらいといくぞ」


「おお、いよいよだね。待ち焦がれたよ!」


 アスプリクは嬉しそうにヒーサの手を掴み、満面の笑みを浮かべて喜んだ。

 実際のところ、ヒーサからこれからやる事のすべてを聞かされているわけではない。まだ秘しておきたいと言われたので、そこはすんなり引き下がっていた。

 いったい、目の前の友人がどんなびっくり箱を開けてくれるのか、それを想像するだけでも楽しいのだ。

 ただ一つ分かっているのは、自分が自由の身になるための通過点となり、枷を外すために必要な儀式であるとは教えられていたので、喜びもまたひとしおであった。


「で、結局のところ、何をするの?」


 テアとしてはそこが不安であった。テアも全部を聞かされたわけではなったので明日の“惨劇”を把握しきっていると言うわけではない。

 ただ、確実に人死にが発生するのは知っていた。

 おそらくは家督簒奪のあの悪辣な仕掛けの数々を用意しているはずであり、そう考えると思わず背筋に寒気が走る感覚であった。


「うむ、あれ、“ひ~ろ~しょ~”というのをやるつもりだ」


「はぁ!?」


 またしても意味不明な単語が飛び出し、テアは呆気に取られた。

 無論、“ヒーローショー”の意味を理解していないわけではない。なぜのこの場面でその単語が飛び出すのかが分からないのだ。


「私が正義の味方になってだな、悪の権化をバッタバッタとなぎ倒し、世界に平和と秩序を取り戻す。そういう筋書きだ」


「嘘付けぇ~!」


 あまりくだらなく、そして、ろくでもない回答にテアが絶叫した。周囲の兵士が手を止めて思わず振り向くほどの絶叫で、テアは慌てて笑顔を作り、何でもないですよとアピールした。

 そして、兵士達は作業に戻り、テアも落ち着きを取り戻してヒーサに向き直した。


「あなたねぇ、言っていることとやっていることが真逆じゃない!?」


「え? なんで? 私は正義と秩序をもたらす存在だぞ。魔王を打ち倒すのは、いつだって英雄ヒーローではないか。前世ではしくじったが、現世では成し遂げるぞ♪」


「なぁ~に、軽い口調で言ってんだか。今までの所業を見てなければ、応援するんだけどね~」


 暗殺と謀略で戦う英雄ヒーローがどこにいるのかと本気で問い詰めたくなったが、やるだけ無駄だと分かっていたので、テアは諦めてため息を吐いた。


「でだ、アスプリクよ、お前は私と共に頑張ってもらうぞ。主演女優、やってみせろよ」


「わぁ~い。僕、頑張るよ! あ、ところで、恋愛劇ラブロマンスは挟むの?」


「挟むわけなかろう。明日は“ひ~ろ~しょ~”一色よ」


「ぶ~」


 その点では不満を述べるアスプリクであったが、アドリブで強引に差し込んでやろうかとも考えたが、さすがにそれは邪魔過ぎるかと考え直した。

 なにより、自由になってしまえば、ヒーサの所へ友人として遊びに行くことに対して、誰は婆ることなく赴くことができるのだ。


「まあ、あれだ、代わりと言っては何だが、リーベへのとどめはお前に回してやってもいいぞ。流れ次第ではあるが。好き放題吹っ飛ばしていいからな」


「おお、それは魅力的。あのいけ好かないバカを炎で丸焼きにできるなんて、今からワクワクが止まらないな~」


 とても十三歳の少女から飛び出すべき台詞ではなかったが、すでにヒーサもテアも慣れっこだ。


「よし、そろそろ天幕も出来上がるみたいだし、明日の台詞回しを少し練習するとするか。あと、振り付け等の演出もだな」


「うん、張り切って行ってみよ~!」


 やる事は物騒極まりないが、雰囲気だけなら実に楽しそうな二人であった。

 あ~だこ~だと議論を交わしつつ、出来上がったばかりの天幕の中へと入っていき、テアもそれに渋々と付き従った。

 なお、テアの明日の役目は悲鳴を上げるだけの“通行人A”である。とても女神に任せるような配役ではなかった。

 だが、それでもテアは良かったと思っている。なにしろ、明日の謀略劇に関与することなく、あくまで第三者として眺めているだけでいいからだ。



              ~ 第十二話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] ワクワクする謀略に、光る知性と文化的嗜好で楽しみにしています。 [気になる点] この世界が上位存在からどう観測されているのか気になりますね。 [一言] 生臭坊主は焼かないと。
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