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第二十二話  軍議! 敵も味方も構わず殺せ!

 砦の崩落現場の調査や撤去は部下に任せ、ヤノシュはヒサコらを率いて城へと戻っていった。

 そして、主だった者に召集をかけ、シガラ公爵ヒーサよりもたらされた急報を披露した。皆が揃ってそんな馬鹿なと考えたが、わざわざ密使を送ってまで知らせてくるということは事実である公算が高いと考え直し、善後策について話し合われた。


「正直なところ、勝てるのか? 悪霊黒犬ブラックドッグの始末が終わっておらず、足場がグラついている状況だ。そこを討伐軍に乱入されたら、守り切るのは不可能だぞ」


「第一、教団も分かっているのか!? アーソの地が崩壊すれば、そこからジルゴ帝国の亜人共がなだれ込んでくるかもしれないというのに!」


「安全な後方でヌクヌクよろしくやっている連中に、前線の気苦労なんぞ理解できるか!」


「己の利益のみで、国の防壁を損なおうとしているようにしか見えんわ!」


 誰も彼も怒りの矛先を教団側に向けていた。“術士の独占的運用”という教団最大の特権が、色々な場面で弊害が出てきているというのに、それを一向に改める気配のない王都の連中にも腹立たしい思いもあった。

 何もかもが邪魔にしか感じない。必死で国境の防備を固めているというのに、それを邪魔している気がしてならないのだ。


「まあまあ、皆さん落ち着いてください。熱が上がり過ぎて議論ができません。まずは気を静め、問題を一つ一つ整理していきましょう」


 皆が白熱して罵詈雑言を飛ばす中、唯一冷静なヒサコが荒れ狂う人々をどうにか落ち着かせようと宥めに入った。すでに実質的に辺境伯軍の参謀のような立ち位置を確保しており、また貴重な情報をいち早くもたらしてくれたシガラ公爵の妹と言うこともあって、その言葉には皆がちゃんと聞き入った。

 そして、ある程度の落ち着いたのを確認してから、ヒサコは再び口を開いた。


「まず、領内の争乱の端緒となった黒犬ですが、あたしはもう昨夜の砦襲撃が終わった後、引き揚げたのではと考えます」


 ここで二つの推論が披露された。崩落した砦が黒犬の仕業であることと、その黒犬が引き揚げたということだ。


「ヒサコ殿、黒犬が引き揚げたという根拠はなんだ?」


「危険を冒してまで、辺境伯領内で暴れる必要がなくなったからです。なにしろ、これから異端審問の討伐軍がやって来て、辺境伯領がめちゃくちゃになりますから」


「それでは、一連の動き全てが、黒犬の考えたことだと!?」


「もしくは、その背に潜んでいる飼い主が、です」


 無論、ヒサコにはその確信があった。言うまでもなく、黒犬つくもんの飼い主は自分であり、色々と小細工を弄してきたからだ。

 これに気付いているのは、ヒーサ・ヒサコを除けば、“共犯者”のテアと、“お友達”のアスプリクだけであった。


「考えてもみてください。今回の一連の動きは、全て辺境伯領を混乱に陥れることを企図しています。未遂に終わりましたが領主親子の暗殺から始まり、威力偵察からの隙を見ての砦強襲。あげく、どこで調べたのか、領内の秘事を暴露する周到ぶり。なぜバカ司祭のリーベを間に挟んだのかは不明ですが、全部が辺境伯領にとって不利になる事ばかりです」


「やはり、ジルゴ帝国の知恵者が噛んでいる、と」


「もしくは、アーソの地に野心を抱く王国内の誰か、と言う線もありえるかもしれません」


 さすがにヒサコのその一言には、場が一気にざわついた。辺境伯領と言う緊要地を強奪するなど、防壁穴を空ける愚行である。それこそ、ジルゴ帝国に隙を晒すようなものであった。


「となると、一番怪しいのは、セティ公爵ではないか? あのバカ司祭の出身でもあるし」


「もしくは王家やもしれんぞ。三男のサーディク殿下に前線を任せるために、我らの排除を狙ってきたのでは?」


「教団が狙ってきたとかか?」


「いや、それだとバカ司祭を挟む理由がない。やはり単純にジルゴ帝国からの策謀では? 黒犬をけしかけれるなど、人間のやり口とは到底思えぬ」


 あれやこれやと意見が飛び交うが、どれも決定打に欠ける意見であった。場の混乱はヒサコとしても望むべきことであったが、上座のカインは考えに耽っているようで、腕を組んで唸っており、ヤノシュも議論に参加しつつも、やはり決定打を見出すには至っていなかった。


(辺境伯領の皆さんの視点だと、完全な敵は『教団』と『帝国』で、疑心を抱く相手は『王家』と『セティ公爵家』ってところね。孤立無援もいいところよね。頼みの綱は『火の大神官』と『シガラ公爵家』だけど、援軍としては弱い。フフッ、どうするか悩ましいわよね~。さて、熱を帯びてきたし、そろそろ本題に移りましょう)


 ヒサコもそろそろ“自分の思い描いている”結論に達してほしかったので、仕掛けに入った。パンッと勢いよく手を叩き、議論を中断させた。

 そして、注目を自分に集め、口を開いた。


「犯人捜しをやったところで無駄でしょう。なにしろ、周囲全部が辺境伯領を“敵”と見なして殺到してくるのですから。ゆえに、取るべき手段は二つだと、私は考えております」


 ヒサコの言う通り、どの勢力も辺境伯領に戦力を投入し、潰そうとしてきているのは感じていた。下手な犯人捜しで訴え出たところで、術士の隠匿がバレた以上は、どう取り繕うとも無駄であった。

 かと言って、ジルゴ帝国に恭順するなど論外であった。人間種と敵対する亜人や獣人の国であり、手を取り合うなど不可能であった。

 その八方塞がりの状況にあって、策を二つも用意するとはさすがだと、ヒサコの言葉を待った。

 注目が集まったのを確認し、ヒサコは話を続けた。


「では、第一策。今回の騒動の罪をカイン様とヤノシュ様に背負っていただき、全面降伏します」


 きっぱりと言い切るヒサコに、当然なんだそれはと言わんばかりの強い反応があった。

 実のところ、ヒサコとしてはこれを採用してもらうのが一番楽であったのだ。

 術士の隠匿は領主一家と一部の騎士が勝手にやっていて、他の者達は知らぬ存ぜぬで通す。隠れ里の人間も事前に逃亡させておき、カインとヤノシュと共にシガラ公爵領で匿うという算段だ。

 これが成れば、術士の確保に加えて新事業の人手を増やすことができる。しかも、アーソの地は戦火を免れ、無傷の状態で他の人間に渡るのだが、その他の人間には第一王子のアイクをあてがい、そのアイクの“妻”としてヒサコを結び付ければ、全てが丸く収まるのだ。


「反対だ。聡明なヒサコ殿とは思えぬ暴論だぞ」


 一番強烈な反応を示したのは、騎士アルベールであった。


「そもそも、我らはすでに教団をいずれは排斥するつもりで動いている。ご領主様に罪を押し付けて一時の安寧を得られたとしても、それは教団の連中がさらに領内を我が物顔で歩き回り、我々はそれに頭を下げねばならなくなるのだ」


「お気持ちは分かりますが、彼我の戦力差をお考え下さい。このままではこのアーソの地が灰燼に帰してしまいます。そうなってはみすみす帝国の侵攻を誘うようなもの。非難される領主御一家や隠れ里の皆様は、我が公爵家が責任をもってお世話いたしますし、いずれ必ずアーソの地を踏ませることを確約いたしましょう」


「それでも、だ! ヒサコ殿、我らは二年前に大いなる恥辱を教団より受けた。二度目はもう沢山だ! 主君を贄に捧げて生き延びるなど、騎士として恥ずべきことであるし、妹を売り飛ばして安寧を得るなど人として許されることではない!」


 アルベールの妹ルルは術士であるため、領内からの退去をせざるを得なくなる。それをアルベールは何よりも嫌がっていた。そんなことをするくらいなら、敵陣に真っ向から切り込み、討ち死にした方がましだと言わんばかりの勢いでヒサコに食って掛かった。

 周囲の騎士も同様のようで、アルベールの意見に賛意を皆が示していた。


(う~ん、やっぱり虫が良すぎたか。土地への愛着、家族との絆、断ち切りがたいものよね)


 家族への絆は持ち合わせていないヒサコであったが、それ以外の物欲に関しては人一倍強く、こだわりの強い数寄者であるため、なんとなく理解はできた。築き上げた城や、開発した領地を召し上げられるのは、元武士として耐えがたい事であり、ここに居並ぶ騎士もまたそれに殉じようというわけだ。


「まあ、やはりそう仰られるとは思っておりました。誇りは大いに傷つきますが、血を流さずに済む唯一の方策でありましたので、一応形として提案させていただいたまでです。ゆえに、本命の第二策を出させていただきます。ズバリ、シガラ公爵と共同歩調を取り、異端審問の討伐軍を殲滅いたします!」


 一転して発せられたヒサコの強気な発言に、騎士達は関心を示してきた。なにしろ、大嫌いな教団の連中やそれに同調する貴族連中に対して、堂々たる戦を仕掛けれるからである。

 しかもシガラ公爵家と共同歩調を取れるのであれば、勝率はグッと上がる。やってやれなくはないという意気込みが熱を帯びてその場に漂い始めた。


「ヒサコ殿、勝算はあるのか?」


 まだ決断をしかねていたカインがヒサコに尋ねてきた。

 実のところ、カインはヒサコの提案した第一策の方をこそ採用しようかと考えていた。領民のことを考えれば、あるいは国家としての防衛体制を考えれば、自分が泥を被るのが一番だと考えたからだ。

 ところが、家臣らが揃いも揃って、その意見に反発したため、その意を示す機会を逸していたのだ。

 そして、次に飛び出したのは徹底抗戦論だ。シガラ公爵家と密やかに繋がり、策を弄せば勝てなくもないだろうが、勝った後はどうするのかという不安が拭いきれなかったのだ。

 勝ったとしても、次から次へと討伐軍が送られてくるであろうし、そうなると戦力的には地の利があっても当然不利となる。

 しかも、最前線で内戦などやっていれば、ジルゴ帝国がいよいよ攻撃してくる可能性も高まる。

 そうした不安定な状況が、カインをより慎重にさせていた。


「勝機はございます。なぜなら、今、ケイカ村からこのアーソの地に至る比較的狭い地域に、四人の王子王女が“全員”揃うからです。もし、四人全員を生け捕り出来たらばどうでしょうか? しかも、そのうちの一人はすでにこちらと繋がっており、上手く内部より誘導してもらえれば、その可能性も大いに上昇します」


「なるほど。そうなれば、王国としては大打撃。場合によっては、人質を盾にして、王家と教団に楔を打ち込み、対立させることも可能か。悪くない着眼点だ」


 ヤノシュもヒサコの意見に賛意を示し、他の騎士からも同様に賛成の声が上がった。


「しかし、問題もある。おそらくは、討伐軍の中にセティ公爵軍も含まれているはずだ。あそこも戦慣れしている精鋭揃い。あれをどうにかしないと、まず勝機はないぞ。特に第三王子のサーディクとの関係は緊密で、サーディクの捕縛を考えた場合は、セティ公爵の撃破ないし分断は必須だ」


「カイン様の御懸念もごもっともです。ゆえに、セティ公爵軍は“撃破”いたします」


 自信を持って言い切るヒサコに、居並ぶ騎士達は大いに驚いた。なにしろ、セティ公爵軍と言えば王国でも最強と名高い精鋭であり、三千の兵で他家の一万の兵に匹敵する、と謡われるほどだ。

 真っ向からぶつかったら、まず勝てない相手である。辺境伯軍も精鋭揃いではあるが、全軍揃えても千、徴募兵を加えて三千を超えるかどうかという数しかいない。

 同数であれば負けるつもりはないが、兵力数で確実に負けるのは目に見えていた。

 仮に農民から徴募兵を集めたとしても、兵数は増えても質は落ちるので、やはり厳しい事には変わりない。

 そんな敵の精鋭部隊を澄まし顔で“撃破”宣言をしたのだ。驚くのも無理はなかった。


「地の利を最大限に活かします。まずは地図をご覧ください」


 ヒサコは机の上に広げられた地図に目を落とすと、皆もそれに倣って視線を向けた。そして、自身は身を乗り出し、指をさした。


「まず、ケイカ村の方から進軍してきた場合、千名以上の部隊を城まで進軍させるとなると、通れる道はここかここ。この二本になるでしょう」


「だな。他は遠回りになり過ぎたり、細くて使いにくかったりするからな」


「で、そうなりますと、片方をシガラ公爵軍が、もう片方がセティ公爵軍が進んでくることでしょう。そこで、皆さんには城から討って出てもらいます。主目的はセティ公爵軍への遅滞戦闘。相手の進軍速度を鈍らせ、シガラ公爵軍が先に城に到着するようにします」


「おお、それなら容易い。なにしろ、ここは我らの庭。セティ軍への嫌がらせは任せておけ。シガラ軍は素通りさせてやればいい」


 領内で戦う以上、地の利は辺境伯軍にあり、時間稼ぎなど容易いと皆々が口にした。

 だが、ヒサコはバァンと机を叩き、いきなりの態度の豹変に何事かと皆が驚いた。


「何をバカなことを言っているのですか! ちゃんとシガラ軍にも攻撃してください。裏で繋がっていようが構わずに攻撃して、遠慮なくこちらの兵を殺してしまってください。こちらもそちらを殺すつもりで反撃しますから」


「ヒサコ殿、正気か!? 同盟者を攻撃するなど……。まして、遠慮なく兵を殺せ、だと?」


「戦場での信用とは、流れ出た敵味方の“血の量”で決するのです!」


 ヒサコの過激な言動に、さすがの居並ぶ面々も少し引いた。だが、なによりも恐ろしいのは、目の前にいる十七の娘が、数多の戦場を潜り抜けてきた古強者のような雰囲気をまとい始めたことに、皆が敏感に感じ始めた。


「分散して進軍する以上、必ず双方はお目付け役を配しましょう。そのお目付け役を欺く意味があるのです。表向き、シガラ軍は討伐軍です。アーソ辺境伯軍を殲滅するために軍を進めるのです。そこに一片の疑いすらあってはいけません。ゆえに殺し、殺され、血を流し、流させ、完全にシガラ軍をあちら側だと誤認させるのです」


 スラスラ述べられる口上に、全員の肝が冷やされていくのを感じ取っていた。戦場を知らないはずの十七の娘の口から出てきていいはずのない、あまりに現実離れした感覚が騎士達に広がっていった。

 それはカインやヤノシュも同様であり、目の前の娘と婚儀を結んで招き入れて良いものかどうかと、本気で悩み始めていた。

 そんなヤノシュにヒサコはポンと肩に手を置き、そして、微笑んだ。


「ヤノシュ様、“人を欺く”とは、これくらいしてやらないとダメなのですよ」


 あまりに不気味な笑みであった。人を殺めることに何の躊躇もなく、後悔すら感じさせない、そんな意味がヒサコの笑みに込められているとヤノシュは感じた。

 これほどの恐怖を、今まで感じたことなどなく、まして自分より年下の娘に味合わされるとは思ってもみなかった。背筋どころか、全身冷え切り、言い表せぬ寒気が襲ってきた。


(なんだこの違和感、いや、本当におかしいんだ。なんで若い娘がこんな雰囲気をまとえるのだ。何をどんな経験を積めば、こんな辛辣な行動を取れるというのだ!?)


 そんな冷え切った背筋や気分を抱え、ヤノシュは不気味過ぎる娘を見つめた。

 言い表せぬ不気味さを感じつつ、会議は続くのであった。



           ~ 第二十三話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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