閑話 召喚された者達②
もうすぐ夜に差し掛かろうとしていた頃、羽藤を含む召喚された者たちの鑑定が終わり、それぞれ騎士に連れられて個室へ案内されていた。
「ハドウ殿、こちらがあなたの個室となります。翌朝には騎士団の訓練及び魔法学の講義がありますので遅刻なされないよう。といっても、他の案内の者が起こしに来ますが」
「え? あぁ、うん、わかった。じゃあ起こしに来てくれ、たぶんショックで寝てると思うから」
「では、私はこれで」
(やばい、まだ精神が持ち直していない。あのステータスをなんとかしなきゃ、異世界チートどころじゃないぞっ。だが、悪い事ばかりじゃないのも分かる。スキルが分からないということは、良い意味でも悪い意味でもまだ未知数ってことだ。当面の目標はスキルの把握、把握できたらその運用方法の検証だ)
彼は部屋に入ってから悶々としていたが数分ほど考えて持ち直した。
とりあえずの目標が定まったことで、気持ちの整理がついたのだろう。
そしてそのとき、部屋の扉から先ほどとは別の人物が訪れた。
「ハドウさん、いらっしゃいますかぁ? 世話係となったメイドの者ですぅ。開けてくれませんかぁ?」
「は? ……え、はやくね?(……翌朝どころか10分もたってないぞ)」
「……あらぁ? たぶん説明し忘れていたんだと思うのでぇ、お気になさらずぅ」
(怪しい。いや、怪しいとかありえないけど俺の勘が告げている、こいつはなんか隠している感じがする。こちとら、伊達に他人の目ばかりを気にして生きてきてないんだよ。といっても、打つ手がないな。分かっていてもとれる行動がない、悲しい生き物なのが実感できるなぁ。とりあえず口と頭だけでなんとか乗り切るしかない)
「あー、はいはい。開けますよ……」
「あら、どうもこんばんはぁ、ハドウさぁん」
「で、要件はなんだ?さきほどの騎士にあとで戻ってくるように伝えてあるから手短にな」
「…………」
羽藤は怪しいと感じるや否やまずは様子見として、騎士が戻ってくるという嘘でも本当でもないハッタリをかました。
本当に翌朝には戻ってくるが、翌朝とは明言せずに語ったのだ。
そもそもこの世界に魔法がある以上、まっすぐな嘘をつけば直ちにバレる危険があると考え、もし仮にそんな魔法が無かったとしても、それは羽藤のアドンバンテージにしかならないので問題ないと判断した故の行動である。
(……回答なしか、こりゃ決定だな。だが決定なのはいいがここからどうする、俺のハッタリが効いているなら相手からしたら窮地に陥っていることになるはずだ。その場合、実力行使に出てもおかしくない。となれば、今度は逆に相手への安心感を与えるのが重要なはず。ならば、こちらが相手への情報をつかみつつ気づいてないフリをしていれば有利に立ち回れる。と、思う。そうであってくれ)
「ああ、勘違いしないでくれ。別にすぐってわけじゃないんだ、手短っていっても世間話をするくらいの時間はある。気にするほどでも無かったかな」
「……あらぁ、ふふ。そうでしたのぉ。ですが、こちらの要件もそんなに長くはありませんわぁ。あなたの鑑定結果に不具合が出た事について、公爵家の方から特別な鑑定紙をもってくるように申し付けられましたのぉ。鑑定結果の方は置いていくのでぇ、よろしくお願いしますわぁ」
「わかった、じゃあ中の結果は後日知らせるってことでいいかな? また明日になったら連絡するよ」
「(……ッチ)はぁい、それではごゆるりとぉ」
(行ったか。こりゃあ、少ししたら部屋を出て人の多い場所で鑑定紙とやらを見た方がいい。あのメイドさんがまた戻ってこないうちに、できれば騎士団の詰め所とかで寝泊まりするのがベストだな)
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そうして羽藤が詰め所へ向かっている頃、メイドは城外へと赴き何者かにこうべを垂れていた。
「申し訳ありません魔公爵様、騎士の者がすぐに戻ってくるとの事であったため、魔王の奪還まではいかず鑑定紙だけを置いて戻りました」
「……そうかい、やっぱり人間を使った手駒じゃ無理だったかナ。あの筋肉とガキに言い訳するのは癪だけド、おそらくあの魔王が優秀だったということだろうネ。まあ機会はいくらでもあるから気にしなくていいヨ…君はそのまま潜入を続けておいてくれれバ」
「……っは!」
メイドに潜入を告げた後、何者かは姿を消した。
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─翌朝。
騎士団の詰め所で勝手に寝泊まりしようとしていた羽藤だったが、なんやかんや戯れている間に詰め所の者達となぜか仲良くなっていた。
「ハッハッハ! それでウチの息子は優秀でね、ちょうど君みたいな黒髪黒目だったのさ! 今はまだ帰ってきてないけど、帝国の聖女様が息子の安否を確認してくれてね。あとは魔王を倒すだけってわけさ! あー、召喚祝いの酒は旨い! 城の酒を飲むだけでも呼ばれた甲斐があるね!」
「ははは、そりゃあ会った時はゼノン先輩って言わなきゃいけないっすね! 勇者の先輩として! あとロイルさん飲み過ぎっすよ!」
「細かいことは気にするな! それよりも一度息子のギールなんかと手合わせしてみるといい。あの子はまた訓練でどっかにいっているが、それまでの間は俺が稽古をつけてやろうっ。こうして一緒に酒を飲んだ仲だしな! ハッハッハ!」
「そりゃいいっすね! あははは……「ハドウ君、声が足りないぞっ!」……はっはっは!」
無茶苦茶フレンドリーだった、主にロイルが。
だが、羽藤は騎士団の詰め所にいる間なにもしてなかったワケじゃない。
鑑定紙を確認したあと、色々とユ二ークスキルの運用について考えていたのだ。
(鑑定結果によれば俺のユニークスキルは2つ【巻き込まれたもの】と【アンチスキル】だ。しかもステータスの貧弱さなんて、すぐにひっくり変えるレベルのスキルだなこりゃ。相変わらず下の段の加護名? は謎のままだが。それに【アンチスキル】はマイナスエネルギーによる攻撃らしいが、マイナスエネルギーってなんだ? まあ、そこらへんはどうでもいいか)
羽藤のスキルは以下の通りである。
巻き込まれたもの(女神の加護)
└基礎能力への成長補正がかかり、自身の魔力と持久が落ちるたびに攻撃力が上昇する。巻き込まれた人への逆境を乗り越える贈り物……。
アンチスキル(???)
└マイナスエネルギーによる虚弱空間を作り上げ、相手のステータスを半分以下にする。また、使用時は常時魔力を消費する。耐性により変化あり。
(つまり俺のステータスは実質倍以上であり、アンチスキルを使っている限り攻撃力が上昇するわけだ。しかも、レベルアップで成長していくうちに女神の加護で差は逆転していくだろう。こりゃとんだチートスキルだ。)
「ははは! それではさっそく訓練場へ向かうとするかっ、君の実力を見せてもらおうじゃないか。その後は王都周辺の森でレベル上げだ」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
そうしてロイルの訓練が始まった。
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一方、羽藤がロイル達と戯れている頃、騎士に呼び出されていた他の勇者4人はとある人物と揉めていた。
「ねぇ君、ハーフエルフなんだって? よかったら僕のパーティに来なよ。既に元勇者の子とは何年もパーティを組んでいないんだろ? なら僕たちと組んだ方が君のためになると思うな~」
「…………」
「勇ちゃん! なんでそう女の子となると見境がないの!? 私というものがありながら!」
「いやいや、僕はただ元勇者の子に愛想を尽かされたんじゃないかと思ってね。かわいそうだろ? だったら僕が匿ってあげるのがいいと思うんだ。ほら、僕たちって勇者だしこの子も異存なんてないはずだよ」
「ちょっと勇ちゃん!? てかなんでこの子澄ました顔をしているの、もう勝ったつもり?」
王城に来ているフィッテであった。
彼女はゼノンが闘技大会で姿を消したあと何週間も口を利かなくなり、部屋から出てこなくなっていた。
しかし、かと思えば急に強さに貪欲となって単独で迷宮にもぐってレベルを上げ、各地の図書館をめぐりめぐって勇者の文献を探し出したのだ。
おそらくゼノンが帰ってくることを信じ、釣り合う自分になろうとしていたのだろう。
今回王城に来ていたのも勇者召喚と聞いていてもたっても居られなくなったからだ。
「……くだらないね」
「……は? いまなんていったのアンタ。勇ちゃんがせっかくパーティに入れてくれるっていってるのに!」
「くだらないっていったんだよ。君たちなんてゼノンくんに比べたらなんでもない。勝ったも負けたもなく相手にすらならないよ、ゼノンくんどころか、ボクにすらね」
「聞き捨てならないな。さっき会った獣人の子もそうだけど、僕たちは現・勇者なんだよ。すぐにエレンって子もゼノンって子も超えると思うけ「黙れニセ勇者」……どね」
フィッテは激怒していた、彼女の中の勇気を汚そうとする存在に。
「じゃあボクはいくよ、とんだ無駄足だったね」
「なっ!?」
そして彼女は去っていった。
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そして月日は流れる。
成長補正は主人公にも付与されており、もちろんアンチスキルは無効です。
次は時間軸が戻ります。




