38 兄の理解
予知は便利ですが、毎回あたるわけじゃないです
さて、帝国の聖女も帰ったことだし寝ますかね。
明日からは本格的に闘技場のポイントを稼ぐ方針だ。
ヴァニエの特訓と平行して行っていた闘技場のポイントだが、エレンと俺は既に3,000P近くためている。
ヴァニエはたまにお昼寝して来ないので2,400Pだ。
ユニークモンスターがおいしすぎるんだよな…まだ俺たちに称号なんかはないが、そろそろ俺たちの動きも目立ってきたし、強敵なんかが試合にでてきそうな予感がする。
ちなみに、ヴァニエの槌術はここ1ヶ月近くでLv.2まであがった、俺とエレンの猛特訓の成果だな。
寝る前に勇者の件についてエレンがうるさかったが、適当にはぐらかした。
たぶんいずれ話すつもりだけど、今最後まで話すとややこしくなりそうだ。
翌日、ヴァニエの布団ひっぺ返しが成功し、いつものように闘技場へ向かう。
今日の訓練はなしだ、ヴァニエもこれからは闘技場で鍛えていってもいいくらいだと思う。
「闘技場のポイントも3,000か、そろそろ連勝具合的に強敵が参戦してもおかしくないな」
「そうだね、ポイントが3,000もあればランクもあげられるし、装備やアイテムも揃えられる。次の試合にかったあたりで、一度なにかに変換しておくのがいいと思うよ。僕はそうするつもりさ」
確かに、ポイントを換金で表現するなら魔金貨30枚だ。
おそらく優秀な装備が手に入るだろう。
俺の狙っている装備は2万ポイント以上するが、ランク上げも平行してするとなれば、人間大陸に戻るのはまだまだ先だ。
装備の名前は【明星の流双剣】という装備で、地球の堕天使ルシファーを連想させる。
なんでも、何世代か前の魔王が作った剣らしい。
……うっ、また右腕が。
「私としてましても、トップランカーであるお父様に近づけるこの機会を逃すのは、惜しいと考えていますの。さらに言えば、人間の国へ行く前に侮られることのない自分にしていきたいですわ」
「ならお昼寝の回数を減らそうぜ」
「お昼寝は淑女のたしなみでしてよっ」
そうか、なら仕方ない。
わいわいと闘技場へ向かっていると、町の人たちの会話が耳にとまった。
「おい聞いたか! このまえ公爵様たちがあの大陸で大きな成果をあげたらしい。しかも、その成果で魔王様が復活なされる可能性もあるってよ」
「なにっ? でもどの魔王様が復活するんだ? まぁ、俺は魔王ルシファー様を推すがな! あの歴史上最強の魔王と呼ばれた魔王様以外に誰を復活させるってんだ」
「ばっかお前、確かにルシファー様もいいが、魔王ベリアル様も領土の拡大では最も貢献された方だぞ! 知略を求めるならベリアル様一強だ!」
……そうか、魔王復活か。
おそらく、マイナスエネルギーの収集に成功したんだろうな。
人的被害がそこまでではないとしても、あそこを大勢の魔族が襲えば高ランクの人間の数人くらいは死んでいるだろう。
そうなれば結果的にやつらの作戦は成功だ、考えたな。
しかも悪魔の召喚ではなく、復活といっていた。
本当に復活かはわからないが、少なくとも魔王級であるということだな。
魔王級は勇者に対応してなんらかの形で出現はすると思っていたが、まさか人為的に起こすとはな。
こちらの想定していないことが起こりそうだ、脳筋って言ってわるかったよ。
「魔王級か、早急に力をつけないとね」
「だな」
そのためにも、まずは闘技場だっ
「うぃーっす、また来ましたー」
「……ヶヶヶ、また来やがったか。さっそく魔銀貨を出せ、ヒヒッ。今回のお前たちはパーティ戦だな。出場選手はお前たち3人と、同じ闘技場の登録選手3人だと上からのお達しだ。せいぜい暴れてきな、ヶヶヶ」
この受付の怪しい人だが、俺たちが連勝していると強いことがわかったのか態度が変わった。
いまじゃ俺たちの出場を楽しみにしているみたいな雰囲気がある、顔が若干嬉しそうだ。
「パーティ戦!パーティ戦は称号になりやすいのです。私、前々から憧れていましたの」
「パーティに称号がつくのか。あそこじゃ不名誉な称号しかつかなかったからな、今回は期待したい」
「……ははは」
俺は忘れないだろう「漆黒の腰巾着」の逸話を。
あれはナシだ、ゼッタイニダ。
今回の試合は夜かららしいので、それまでは各自で自由行動をすることにした。
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ゼノン達が聖女と別れた頃、教国・帝国の首脳陣を集めた王都では、今回の件に関する会議が開かれていた。
「いったい何度いったらわかるっ! もうこんな会議をいくら続けても意味はないっ! ……俺たちが、俺が戦わなければならないんだ。勇者召喚など勝手にやっていろ、魔王は俺が討つ」
「落ち着けロイル。確かに、俺もそろそろガマンの限界だがよ、物事には順序ってものがある。進軍するのは当然として、それにしたって勝てる方法で進軍しなきゃ意味がない。お前の気持ちを考えれば焦るのは無理もないがな」
王であるギルバートは冷静だった。
いや、彼とて息子や娘が殺されればロイルと同じ結果になったかもしれない。
しかし、彼の被害はそこまでではなかった、ただそれだけの違いだった。
「私はロイル殿の意見に賛成だ。私の息子も、エレンの行方もわからない。考えたくはないが、おそらくゼノン君と同じ結果になっていると考えるのが自然だ。もう待つことなどできはしないっ! 勇者召喚にはあと2~3年かかるらしいではないか、それまで待っていれば人類は滅びるぞ!!」
帝国の王は語った。
しかし彼らは知らない、その勇者召喚さえしなければ何も起こらないという事を。
そして、むやみやたらに進軍することで被害を出せば、相手の思うつぼだということを。
だがその時、部屋の扉をぶちやぶり会議に一人の少年が乱入してきた。
「「「魔族か!?」」」
「……ちげえよ、俺はクロスハート公爵家長男、ギール・クロスハートだ。……進軍だったか? バカなことはやめろ。それにアイツは、弟は絶対に死んでねぇ。アイツは本物の天才なんだ、簡単にくたばるはずがねえんだよ。それに父さんは見たのか? アイツが死んだところを、その死体を? 見てねぇよな、当然だ、死んでねぇからな」
「……はぁっ、はぁ! おいこら君! ここは重要な会議をしているところだ、すぐに出ていきなさい。なんて足の速い子なんだ」
ゼノンの兄、ギールだった。
ギールは騎士の警備をかいくぐり、ここまで走り抜けてきたのである。
今も騎士の手を躱し、会議のど真ん中までやってきた。
「「「……」」」
「どうした、ぐぅの音もでないか。もし仮に弟が死んだとして、ならばなぜ魔族の死体があった。聞いた話じゃその死体だった魔族だって、上級魔族だったみたいじゃねぇか。おかしいよな? 弟が死に、弟の友が死に、上級魔族も謎の死を遂げている。……しかも、アイツらの死体はないときた。そんなバカな話があるかよ。あの死体になった上級魔族を倒したのはおそらく弟だ、間違いねぇ。父さんだって心あたりあるだろ」
「…………。確かに、俺は闘技場を出る前、ありえないほど強大な力を感じた。そして現場についたときにあったのは魔族の死体だったな」
「そうだよ、その強大な力ってやつだ。俺は知っている、あいつが何かを隠しているのをな。そして、父さんたちが隠してきたことも。……弟は、勇者なんだろ?」
「「「……」」」
全員が押し黙った、勇者であるゼノン・クロスハートが強大な力で魔族を退けた可能性を思い至ったのだ。
魔族の軍勢という、目先のことに囚われ見失っていた可能性を。
「覚醒、か」
「あいつが簡単に、くたばるはずがねぇ」
【予知】の未来は、少年の乱入により、少しずつかわりはじめた。
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ギールは怖さに敏感なだけあって、情報の収集能力・分析能力も高いです。




