36 聖女再び
タコは今後出ません。
タコ魔族…
目の前の黒いタコモンスターがモンスターではないと言い張っている…
ゴブリンのような魔族もいたことから、信ぴょう性はあるが…
なぜかとてつもなく納得できない。
「でも、おまえタコっぽいじゃん」
「……? そうだが?」
そこは認めるのか。
俺、もう魔族ワカラナイよ。
俺が天を仰ぐと、闘技場の審判が試合開始の合図を出そうとしていた。
闘技大会の審判に比べて、なんか貴族っぽい感じの服装だ。
魔族流ってやつか?
顔はそんなに貴族っぽくないけどな。
「レディースエーンジェントルメェーン! 我らが闘技場に集まりし魔族共よ、次の対戦カードを紹介するぜっ。まずは新人! ゼノン・ヴェルゼ……! 魔公爵家に連なる分家の一人だぁ! スーパールーキーの輝きに期待させてもらうぜぇ!」
ヴェルゼとはヴェルゼブブ家の分家だ。
そう、俺はハンターギルドに登録する時に、エレンと共にヴァニエの分家を名乗った。
とりあえずの応急処置ではあるが、これでしばらくはバレないと思う。
実際に公爵の耳に入るまではな。
まぁだからといって、実はバレたところで問題はない…ヴェルゼなんてそもそもでっちあげだし、分家の捜索なんてできるはずもない。
だって魔大陸広いもんな、インターネットや住民登録があるわけでもないし「どこかの」分家程度でいいのだ。
大事なのは「魔族」であることだ、人間に似ていて俺たちと仲が良いヴェルゼブブ家が一番都合がよかっただけってわけだ。
……ちなみに、俺たちが自ら認めたことでヴァニエも俺たちを分家だと思っている、軌道修正するのは難しそうだ。
「対するは奴隷剣闘士のオクトゥ! ここまで3連勝中の猛者だぁ! 今回もブラックショットが炸裂するのかぁ!? ……それでは両者ぁ、準備はいいかぁ? ……レディ、ファィ!」
ブラックショットってなんだよ!?
タコ墨発射するんだろ、知ってるよ!
絶望的なネーミングセンスだ。
とりあえず身体強化をかけたが、相手に接近するのはまだ様子をみよう…
タコ足に絡まれてから脱出できるかわからないしな、スキルに現れない魔族の身体構造を把握できるはずもない。
「久しぶりにこれ使うか、よっと!」
俺はアイアンメイデンを発動し、タコへの牽制を行った。
……軟体生物に針は効くだろ?
「ぐばああああああああああああっ!」
効いた。
「そら、どんどんいくぞ!」
「ゴフッ! ゴ、ゴハッ! くっ! た、たんま!たんま!「たんまって何だ」あ、たんまじゃない参った! 参りました! ゴブゥ!」
俺は針を止めた、あのタコたんまって言ってたが、たんまってなんだ。
待つわけないだろ。
鑑定ではあのタコ魔族は耐久がとびぬけて高かったので、このくらいなら死なないと思う。
てかまだピンピンしてるぞあいつ、根性なさすぎだろ……
そうして俺の初陣は終わった。
「はは、おつかれ」
「あぁ、なんか勝った嬉しさがないけどな」
「当然ですわっ! あの者は下級魔族、分家とはいえヴェルゼブブ家の者が手こずる相手ではなくてよ」
そうらしい。
「まぁ、じゃあヴェニエとエレンも頑張れよ。あれを見た限りじゃ負けないと思うが、油断は禁物ってやつだな」
そしてヴァニエの決闘が始まった。
「オホホホッ!」
ズバンッ!
…………。
……。
……始まったら終わってた。
技術もなにもないただのキックで。
「勝者ァ! ヴァニエ・ヴェルゼブブ!期待通りのヴェルゼブブパワーだぁ! 奴隷では相手にならないようだぁッ!」
……飛んでいったあいつケガしてないといいな…さすがに無理か。
その後、エレンも堅実な戦い方で余裕をもって勝利した。
俺たちのレベルは魔族でも通じるのか、まぁそうだよな…相手は別に強いから戦闘奴隷やってるわけじゃないしな。
おそらく身売りした農民かなにかだろう。
剣闘士である以上は強いやつも中にはいるがその程度だ。
そうして俺たちはポイントをもらいその日を終了した。
ポイントは試合によって変動するが、今回の相手は弱かったらしく全員一人10Pだった。
10Pで銀貨10枚であることを考えると、高いのか安いのかわからない。
必ず弱いやつと当たるわけじゃないから、たぶん安いんだろうな。
結局強くなきゃ魔大陸では生きていけないってことだ。
明日からは闘技場もそうだが、アレやんないとな…
──翌日、俺たちは武器屋の前に居た。
「えー、では、第一回ヴァニエちゃん強化ミッションを行います。はい拍手」
「ゼノン、ミッションってなんだい?」
任務だ。
「きっとスキルの名前ですわ」
そんなわけないだろ。
まぁ地球言語だしわかるわけないけどな。
その後、結局最後まで拍手はなかった。
「ガキ共! 入るか入らねぇかさっさとしろッ!」
あ、すんません今入ります。
そもそも俺が大事な軍資金を使い、俺たちがヴァニエを強化しようと思ったのは他でもない、ヴァニエ自身のためだ。
この子スキルのパワーに頼り過ぎて、格闘術もその他の武器スキルも、ましてや魔法など壊滅的だった。
体術はギリギリ使い物になるレベルだが、これではすぐに頭打ちになってしまう。
なんだかんだ悪い子じゃなさそうだし、俺はこの子を仲間と認めることにしたのだ。
親である公爵がどんな反応するかは知らないけどな。
よって、俺は闘技場と平行して戦闘訓練を開始するのだった。
「あ、店主さんこれ下さい」
「あいよ、金貨1枚だ」
まけてくれ。
そしてその日から、朝~昼は「俺vsエレン」「エレンvsヴァニエ」「ヴァニエvs俺」でルーチンを回し、戦闘訓練を行った。
ヴァニエには繊細な動きは向いていなかったようで、剣・拳・槍系統はうまくいかなかったようだ。
なので最終的に……。
「これですわっ!」
とか言いだし、巨大なハンマーを使いだした。
剣と槍は一本ずつで合計金貨2枚したが、まぁすぐに売ったら新品だということで金貨2枚で引き取ってくれたので痛手ではない。
もちろん条件としてハンマーを買わされたが。
武器屋のおやじに感謝だ。
ついでに、俺とエレンはオモチャのお面を買い、素顔がバレないような工夫もしておいた。
知ってる人から見ればシンボルとなり、しらない人にとっては子供のお遊びだ。
実に都合がいい。
闘技場でのモンスター戦では、俺たちの経験値となってもらった。
レアモンスターが出るときなんかは、そこまで強くないのに妙に経験値が大量に入ってきたりする。
まさにレベル上げのバーゲンセールだ。
そうして地道にランク上げをしていた頃、宿で寝ていたら、外に妙に澄んだ大きな魔力を感じた。
なんだよ寝てたのに、ていうかまだ夜じゃん。
しかもこの魔力、質は綺麗なのだが動きがぎこちない。
これどっかであったような感じがするが、はて……?
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ゼノンが寝ている頃、王都ゲイムには一人の人間の女性と、大柄な男がやってきていた。
「あら、ここね?」
「なんだ貴様ら、通りたいなら身分証明書か魔銀貨を支払え」
「魔銀貨はありませんが、この魔石でどうでしょう」
「フム、よしっ、通れ。ようこそっ王都ゲイムへっ」
「あらあら、お勤めごくろうさま」
彼女は門番に魔石を渡すと、王都の宿屋へおもむろに歩いていった。
「いいのですか、相手は魔族ですよ」
大柄の男は女性をたしなめるように言うが、女性のほうは気にしていない様子だ。
「いいのですよ。それに私は、魔族も人間もそこまで違うとは思っていませんので」
「……はっ」
「それにしても、あの王国の小娘にはお灸をすえてやりましたが、結局勇者召喚は止まりそうにありませんでした。であるならば、負の力を溜めこんだ魔族の長達がやることなど目に見えています。止められるとしたら、彼しかいないでしょう」
「……ゼノン・クロスハートですか」
「……」
女性は帝国の聖女だった、王国の聖女本人は止めたものの、王都が魔族に襲われ各国の聖女と王が勇者を召喚しようと動いたのである。
そして何より、ロイル・クロスハートの動きが尋常ではなかった。
「息子を殺されたと思ったのでしょうね、魔族を根絶やしにする勢いで王都から進軍しているのが視えます。おそらく私の言葉も届かないでしょう…」
「私も帝国騎士の長、かの者とは多少なりとも面識があります。……まさか、あれほどの漢がという感想しかありません。あの者は私が知る限り最も勇敢で、人の弱さを知る者だった」
「……だからこそ、なのですよ」
聖女は予知で知っていた、魔族が攻めてくるのを。
しかし動けなかった。
それも当然である、魔族とはなんの準備もなしに動くほど浅い存在ではないのだから。
だから聖女は別の方法をとることにした。
動き出す勇者召喚に先回りし…最大の希望に接触することで事態の収拾を図ったのである。
「さぁ、つきましたよ」
(チャンスがあるとしたら、このタイミングしかないでしょう)
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~魔族とは浅い存在ではないのだから~
ゼノン「…ん?」
ちなみに闘技場の話しは続きます。
話しの流れはまだ変わりません。




