136 質問タイム
クロスハート状態を維持して戦うアーゼインを中心に、一気に攻勢が逆転しだした途端、魔族達の様子が焦燥や怯えと言ったものに変わり、ほどなくして逃げ出す者が現れた。
まあ、逃げたければさっさと逃げればいい。
俺としては別に魔族にそこまでの恨みがある訳じゃないので、無暗に殺す必要が無いのだ。
「そろそろ決着といっ所かな」
「だな。俺もユニークスキルのおかげで連続魔法の消耗も少ねぇし、向こうからしたら勝ち目が見えねぇだろ」
「ま、そういう事だ」
ファイスが【白銀の死神】の効果で倒した相手の魔力を吸収できる以上、S級前後の魔族がアーゼインに抑えられている今、もはや詰んだと言っても過言ではない。
もちろん俺も魔力満タンの状態で【蒼炎の魔神】を起動できる状態にあるし、仮にここで邪神が現れても、返り討ちにできる自信があるくらいだ。
……そして殆どの魔族が敗北を悟り、魔公爵であろうと予想される魔族が3人ほど打ち取られた所で、ようやく決着がついた。
公爵級を含め、全ての魔族が撤退を開始したのである。
しかし呆気ないな。
俺なんて途中からは攻撃を止め、ヴァニエの治療に集中していたくらいだ。
油断はしていないが、本当にこれで終わりなのかかなり怪しい。
「終わりましたわね、アーゼイン」
「……はぁっ、はぁっ。ククク、……クハハハハ。なんだよ、やれば出来るじゃないか、僕もさぁ」
「あら、今頃そんな事に気づきましたの? 私はとっくに気づいていましたわよ」
なにやら俺が居ない間に色々とあったみたいだな。
常に絶対の自信を持つアーゼインにしては珍しく、戦いに勝ったというのにおどけた仕草を一切見せていない。
恐らくだけど、この戦いは奴にとって何か大切な意味がある物だったのだろう。
「で、ハドウ達はこれからどうする? 俺はこの後エレンを迎えに転移するつもりだけど、人間大陸側に用があるなら一緒に送るぞ」
「悪いけど、俺たちはまだやる事があるから同行はできない。今回も、魔王として邪神の加護を持つ俺に、邪神からの通信が届いたから間に合っただけなんだ」
なるほどね。
魔王カーネインに仮初の肉体を破壊され、世界への干渉手段の乏しい邪神側としては、自分の子飼いである加護を持った者たちに無差別に通信を送り、様子を見ていたのかもしれない。
アテナが上手くやるようなら攻勢の手は緩めないし、あわよくば根源神フレイを追い詰めるつもりだったのだろう。
実に面倒な奴だな。
「まあ、そういう事ならそっちはそっちで任せた」
「ああ、任された」
それじゃ、パーティメンバーだけ回収して帝国へと瞬間移動しようかな。
「ヴァニエ、ファイス、セレナ、そろそろ転移する、……ぞっ!?」
「ええ、分かりまし……ッ!?」
「おい、ゼノンッ!!!」
「英雄様っ!!」
……ッ!?
なんだっ!?
俺がメンバーを集めて転移しようとした瞬間、周りに無造作に転がっていた魔族達の死体が蠢き出し、宙へと浮かび上がっていった。
空には変な人形の様なものが浮かんでいるが、あれが原因か?
そして、魔族達は何かに操られるかのように空のある一点へと向けて集まっていくと、人形の手でぐちゃぐちゃになりながら融合し始める。
まるで、ここで起きた戦いがあの人形にとって好都合だったかのような動きに、闘技大会での出来事が頭をよぎる。
「……まさか。いや、まさかっていうか、どうみてもカーネインだな、アレ」
なにやってんだあの魔王。
まさかとは思うけど、この魔族達のスキルを採取しているのだろうか。
「……おいおい、何悠長に構えてるんだゼノンッ!! あいつどう見てもやべぇっ!! 今すぐ撤退するぞ、早くしろっ!!」
「ああそうか、ファイスはあいつを見るのが初めてだったな」
ファイスはこういう局面における危機感知能力がズバ抜けて高いので、カーネインがタダ者じゃない事を一瞬で理解したらしい。
スキルも無しにここまで正確に脅威を読み取るとか、すごいなこいつ。
しかし奴の目的は間違いなく対邪神への下準備なので、今はまだ敵ではない事は確実だ。
その証拠に、あれだけ異質なオーラを撒き散らしながらもこちらへ干渉してこない。
以前会った時よりだいぶ力を取り戻しているみたいだけど、あれどうみても、既にS級上位はあるな。
しかし、万が一戦闘になった所でこのメンバーで負ける事は絶対にないので、とりあえずは安心だ。
であるならば、何かしらのトラップがあった時のために、瞬間移動で逃げる準備だけしつつも対話をしてみるとするか。
「どうせエレンを迎えに行くから撤退はするけど、ちょうどいいから少し対話でもしてみようかな」
「おいっ!! お前まさか、あいつのヤバさが分からねぇのかよっ!?」
「いや、よく分かるぞ。ただ、それと同時にあいつはここで戦闘は起こさない、間違いなく」
あいつの目的はアリサさんの魂を取り戻す事だけだし、戦って負ける可能性の高い俺たちにかまけて今回の収穫を逃すなど、ありえない。
ちょっかいを出すにしても、それは今後の事だろう。
「…………奴について、何か知ってるみてぇだな。情報を持っているなら先に言えよ、ビビらせやがって」
「え、あ、うん。まあちょっとだけ」
鋭すぎるだろファイス。
それじゃまあ、さっさと質問してトンズラしよう。
「カーネイン、質問がある」
「…………」
「勇者の願いって守護装備、知ってるか?」
「……知っているサ。この僕が唯一手に入れる事の出来なかっタ、最後のカードだからネ」
「そうか」
やはり奴は勇者の願いに含まれる復活効果を知っているらしい。
ただ、この装備は根源神フレイと勇者達の願いの結晶であり、空島のクリスタルダンジョンにしか存在していないものなので、奴には手に入れる事ができなかったのだろう。
そういう存在がどこかにあると知っていても、実際はどこにあるのか、場所さえ知らないはずだ。
ましてや場所を知ったところで、カーネインがあのダンジョンをクリアする事は不可能だっただろう。
内容的な問題としてね。
「んじゃ、これやるよ。ほいっ」
「…………ッ!?」
勇者の願いを投げ渡してしもうた。
守護装備を手にしたカーネインは一瞬戸惑ったようだが、何かを悟ると団子状態になった魔族の死骸と共に、どこかへ転移していったようだ。
「はっ!? おいゼノン、何やってんだ!?」
「まあまて、理由は後で話す。んじゃ、さっさとエレン迎えに行こうか」
「おい、俺の話を……っ!」
「瞬間移動っ!!」
問答無用で瞬間移動をした。
まあファイスの言いたい事も分かるけど、こればっかりは仕方がない。
なぜならあの守護装備、本来の使い道は死亡からの復活などではないのだから。
手にした時は俺も騙されそうになったけど、あれ持って死んでも、たぶん俺生き返らないと思うよ。
説明文詐欺である。
あ、それと魔王の怒りに関しては素手で持ってるといろいろダメージを負ってしまうので、亜空間に放り込んでおいた。




