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75話 おそらくこの反応は普通だ

 十月も後半になってくるとすっかり夏の暑さは消え、とても過ごしやすい気候になってきていた。教室の窓から入ってくる風がとても心地よく、尊がぼんやりと外の景色を眺めていると、この穏やかな時間をぶち壊す声が響いてきた。


「みーくーんっ!」


 教室に入ってくるなり大声で尊の名前を呼ぶ陽菜に尊は隠そうともせず不機嫌そうな顔を作る。


「なんだよ、うるさいな」


「うわ、人の顔見るなりその態度はどうかと思うよ」


「いきなり大声で人の名前叫ぶのもどうなんだろうな」


 尊の顔を見て陽菜が眉をひそませる。だが、それも一瞬ですぐに陽菜は本題に入る。


「そんなことより――。みーくん勉強教えて!」


 両手を合わせて首を傾ける陽菜。可愛くおねだりでもしようとしているのだろう。あまりにもあからさま過ぎるので、尊は再び不機嫌さを顔に出す。


「ちょっと!なんでそんな反応なの!人が可愛くお願いしてるのに!」


「狙いが見え見えすぎて逆に腹が立ってな」


「人が真剣にお願いしてるのに!」


 尊の机をバンバン叩きながら陽菜は抗議を口にする。


「なら普通に言えばいいだろ。どの辺が真剣なんだ」


「ん?私の可愛い笑顔を見れば真剣さが伝わるでしょ?」


「ふっ」


「ちょっと、みーくん?なんで今鼻で笑った?」


 いきなり教室に飛び込んできた陽菜とバカみたいな会話を繰り広げていると隼人が近づいてきた。


「おお、楽しそうだな二人とも。なんの話してんの?」


「あっ、はーくん!聞いて!みーくんひどいんだよ!」


「ひどくないだろ。普通の反応だ」


「ははは、楽しそうでなによりだな」


 笑いながら陽菜の頭を撫でる隼人。それで少しは陽菜の機嫌も治ったのか目を細め隼人にもたれかかっていた。

 いきなり二人のいちゃつきを見せつけられ尊は眉根を寄せる。本当に自然にいちゃつき始めるので独り身としては目の毒だ。


「そんで?陽菜何しに来たんだ?」


「んー?あっ、そうだった!みーくん、勉強教えてっ!」


 よっぽど居心地がよかったのか隼人の言葉に反応が遅れるが陽菜はとろんとさせていた目をはっと開き尊に手を合わせる。


「勉強って、テスト勉強だよな?」


「そう。来週のテストのために勉強を教えてください!」


「………」


 最初に勉強と聞いたときに予想はしていたが……。尊たちの学校では来週からテストが始まる。尊も勉強を教えるくらいどうってことないのだが――。


「お前に勉強教えるのは毎回大変なんだよな……」


 尊は今までの勉強会の風景を思い出す。事あるごとに陽菜の勉強に対するモチベーション維持のために試行錯誤していた。


 遠い目をし始めた尊に隼人が苦笑する。


「気持ちはわかるけど。俺からも頼むわ。というか俺も見てくれ」


「……まあ、いつものことだしいいけど」


「流石みーくん!最後にはちゃんと私の言うこと聞いてくれるからいいよね」


「……なんでお前はこの状況でそんな偉そうなんだ?」


 清々しいほどに態度のでかい陽菜を横目に睨むと隼人の後ろに避難していった。隼人もそんな尊たちを見て笑っているので、もういろいろと疲れた尊はため息を吐く。


「それで?勉強は今日でいいのか?」


「俺は大丈夫だ」


「私もー」


「なら、あとは場所だけど……学校の図書室でいいかな」


 無難に思い浮かんだ候補を尊が口にすると隼人が微妙な反応をする。


「図書室だとなー……教えてもらう時、声出すのも気を使うんだよなー」


「あー、確かにそうかもな。それに今はテスト前だし人も多そうだな」


 腕を組んで尊と隼人が考えていると横から陽菜がスマホを見ながら口を開く。


「ファミレスはどう?あそこならジュースも飲み放題だし」


「いや、飲み放題って……ドリンクバーで何時間粘る気だ」


「別にドリンクバーだけじゃなくてポテトとかも頼むし大丈夫だよ」


「本当に勉強するんだよな?」


 勉強せずにいろいろと食べて飲んでる陽菜が簡単に想像ついてしまう。とはいえ、場所の案としては悪くないと思っていた。


 静かすぎても陽菜が勉強に集中しきれないと思ったからだ。ある程度の雑音があった方が集中できたりする。


「わかった。じゃあ、ファミレスにしよう。隼人もいいか?」


「おお。俺は問題ないぞ」


 陽菜にしてはいい案を出してくれたと尊は感心して陽菜の方を見るとスマホをずっといじっていた。別にそれ自体はおかしくないのだがさっきもいじっていたので何となく尊は気になった。


「さっきから何やってるんだ?ゲームか?」


 尊が何気なく聞くと陽菜が首を傾げる。


「え?勉強会の場所が決まったこと教えてるんだけど?」


「ん?親にでも連絡してんのか?」


 それくらいならおかしいことじゃないが少し会話に違和感を覚えた。何か噛み合っていないような、気持ち悪い感じが――。


 尊が不思議そうにしていることに不思議がっている陽菜がスマホの画面を尊に見せる。


「親じゃないよ。ほら」


「…………なんで?」


 スマホのトーク画面に表示されていた名前を見て尊は呆然とする。何せその名前は――。


「あーちゃんたちも一緒に勉強するからだよ?言ってなかったっけ?」


「聞いてな……聞いてないよな?」


 あまりにも陽菜が自然に言い切るので尊は不安になり隼人に確認する。


「ああ、言ってなかったな」


 隼人も記憶に無いようであっさり肯定する。そんな二人の反応に陽菜は右手で後頭部を擦りながら笑った。


「あはは、あれ言ってなかったっけ?まあいいや。というわけで、あーちゃんたちも来るからね」


 なんの悪びれもなく話す陽菜に尊は只々口を開けて固まっていた。事後連絡にしてもひどい対応である。いつものことではあるが尊は隣の隼人を見る。


「お前の彼女、ちゃんと彼氏が手綱引いててくれ」


「いやー、こっちが引きずられるから無理だな。まあ、そんなとこも可愛いだろ?」


 文句を言うも隼人は惚気だしてしまったので、尊は盛大にため息をつくことになった。

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