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57話 お化け屋敷も文化祭では定番だな

「というわけで、俺たちのクラスは執事喫茶をやることになった」


 昼休み。中庭の一角でいつものメンバーで昼食を取る中、ホームルームでの出来事を隼人が話していた。

 興味深げな奈月が自分の食事を止める。


「へー、執事喫茶なんて珍しいね。普通メイドなのに」


「うちのクラスでもそんな話になったよ。だから珍しい方でって」


「そうなると当日は二人とも忙しそうだね」


 朱莉が尊と隼人を順に見る。


「そうだねー。二人ともすごい人気出そう」


「平野さんも九条さんも執事服似合いそうだし二人を目当てに来る人も多そうだね」


「そんなこともないと思うけどな。陽菜と鳴海のクラスは決まったのか?」


 自分の執事服姿など想像できず、尊は渋い顔を作りながら二人を見る。


 すると、メロンパンに齧り付いていた陽菜が反応する。


「んんふ、んふんんふ――」


「食べてから話せ。何言ってるかわからん」


「――ごくん。えーとね。私のクラスは展示物になった」


「展示?何を展示するんだ?」


「なんか手編みのぬいぐるみとか?あと服も展示するって言ってた」


 クラスでの話を思い出しているのか陽菜の視線が斜め上に向かう。


「なんか手芸部の出し物みたいだな。ぬいぐるみとかって素人でも作れるのか?」


「その辺は詳しい子がいたからその子に指導してもらいながら作ることになった」


 経験者がいるのならできないこともないのだろう。作ったことがないので何とも言えないが。


「鳴海たちは?」


「私たちはお化け屋敷をやるよ」


「お化け屋敷……文化祭の定番だな」


「そうね。でも最初はメイド喫茶の予定だったの」


「そうなのか?なんでわざわざ変更したんだ?」


 メイド喫茶とお化け屋敷。それぞれ文化祭の定番ではあるが毛色は全く違う。事前の準備だってそうだ。メイド喫茶は服と接客の練習、メニュー作りに内装のデザインなどやることはもちろんあるが準備に労力はそこまで掛からない。一方お化け屋敷は事前準備が一番大変だろう。内装なんて小道具などを使い特に頑張らなければならない。


 その分当日の運営はお化け屋敷の方が幾分マシだが。


「メイド喫茶は対応しきれない可能性があるからって」


「対応?」


「ほら、朱莉がメイド服なんか着てみ。男子が殺到するよ」


「あー……」


 奈月の言葉に尊は納得する。目を瞑ればその光景が容易に想像できるので朱莉たちのクラスの判断は正しいだろう。


「男子たちは悔しがってたけど」


「まあ、気持ちもわかるけど」


「お?尊も鳴海さんのメイド服見たかったのか」


「そこに食いついてくるな。そりゃあ見てみたい気持ちはあるが」


「なるほど尊はメイド好きと」


 手元でメモを書く仕草をしていた隼人のわき腹をど突く。

 隼人は短い悲鳴を上げ、わき腹を押さえながら静かになる。


「それでお化け屋敷か。また大変そうなものを」


「確かに大変だと思うけどその分クラスメイトと話す機会が多いと思わない?」


 朱莉が口にするクラスメイトと話す機会というのは当然依然話した尊たちの計画のことだ。

 それには尊も同意だ。


「いい状況だろうな。物を借りたり、何かを聞いたり何でもいい。自然に話せるタイミングがいくらでもあるし」


「いざとなればあたしたちもいるし心配もないと思うよー」


 奈月が沙耶香に視線を向けお互い頷き合う。クラスの準備は尊も隼人に陽菜も近くにいないことが多いだろうが同じクラスの二人が付いてれば大丈夫だろう。


 朱莉の方に目途が付き安心すると、次に気になるのは自分のことで――。


(執事か……うまくできればいいけど)


 今まで目立たず生活してきた尊にとって、こんな大役は初めてのことだった。感情を表に出さないことが多いためわかりにくいが尊はすでに結構不安を抱いていた。


 当日までの間に自分のモチベーションをどう維持するか。考えることはまだ山積みだった。

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