55話 その辺の男子何て相手にならない
学校が終わった午後。いつもの六人はハンバーガー屋に集まっていた。
「もうすぐ文化祭に体育祭とイベントが続くがここでも行動を起こそうと思う」
尊が声を上げると周りの友人たちから興味深そうな視線が向けられる。
「やっぱり何かやるんだな」
「年に一回の行事だからな。使わない手はないだろ」
歯を見せて笑う隼人に尊もニヒルな笑みを返す。
「やるって言いても何するの?ステージで踊ったりする?」
「奈月、流石に踊るのはちょっと……」
「えー、楽しそうなのに」
「まあ、出たい人は各々好きにやってもらうとして、俺が考えてみたのは鳴海にクラスで他の生徒と普通に会話をしてもらえないかなって」
尊は話の中心となる朱莉に視線を向けると反応が返ってくる。
「普通に会話って……男子ともってこと?」
「そう。ここ数日で大分鳴海に対する印象も変わったと思うんだ」
尊たちはありとあらゆる方法で朱莉と関わってきた。主に人の多い目立つ場所で朱莉と会話し、ある時は揶揄ってみたりと、学校では見せない朱莉の顔を表に出す様にしてきた。
「だからって無理にとは言わないから。まだ抵抗があるようなら急ぐこともないし」
尊の言葉に朱莉は逡巡するがすぐに顔を上げる。
「ううん。確かにいいかもしれない。文化祭とかの特別なイベント中だし少し違った行動をとっても違和感もないし、あわよくばそのまま文化祭が終わっても普通に会話ができる空気になるかも」
少しの時間で尊の意図を完璧に読み取った朱莉に尊は感心する。
「流石だな。俺が思ってたこと全部言われたわ」
「でもそれって大丈夫なの?あーちゃんが話しかけて勘違いする男子もいそうだけど」
首を傾げて陽菜が疑問を口にする。これに関しては尊も心配をしていた。朱莉にその気がなくても勘違いしてしまう男子はある程度の数はいそうだ。
「あ、大丈夫じゃないそれは」
その問題点を奈月が軽い感じに否定する。
「大丈夫とは……なんで?」
「んーとね。何て言うか朱莉、告白される回数減ってんのよねー最近」
「回数が減ってるのはまあ、いいこと?何だろうけど、それと勘違いが減るっていうのはどういうことなんだ?」
関連性がわからず尊が考えていると、奈月がにやにやと含みのある笑みを作る。
「えー、わかんないの尊ー」
「いや、わからんだろ。情報がなさすぎる」
告白の回数が減っている、というだけの情報でどう勘違いする男子が減るに結び付けろと言うのか。不満を口にする尊の横で隼人が顔を上げる。
「え?そういうことなの?まじで?」
「おお、気づいた隼人。実はそうなんだよ」
「へー、まさかこんな効果まであるなんてな」
「……なんで会話が成り立ってんだ。全然わからないんだが」
二人の会話を聞いて尊は眉根を寄せる。そして、そんな尊を揶揄うように二人はにやにやと笑う。
そんな二人に困ったような視線を向けながら沙耶香が尊へ声を掛ける。
「平野さんのお陰なんだよ。朱莉ちゃんに告白する人減ったの」
「俺のお陰?え?なんで?」
告白が減った理由を聞いても尊は更に困惑ばかりだ。まさか自分が原因など思わないだろう。ぽかんと口を開けている尊に沙耶香が補足する。
「そうだね。いきなりじゃわからないかも。最近平野さんがずっと一緒に朱莉ちゃんといるでしょ?それで他の男子が委縮してるみたいなの」
「委縮?なんでまたそんなことに」
首を傾げる尊に隼人はため息をつく。
「お前な。今の自分の顔をちゃんと見てみろ。その辺の男子何て相手にならないからな」
「いや、お前言い方」
「でも実際そうなんだよねー。イケメンが隣にいつもいるから告白しても無駄的な」
にひっと楽し気に笑う奈月。未だに尊は納得できないが考える素振りを見せる。確かに今までの朱莉には男の気配が皆無だった。そうなると自分にもチャンスがあるのではないかと期待して言い寄ってくる男子はたくさんいたのだろう。そんな朱莉に最近親し気にしている男子が現れたのだ。そう考えると告白が減ったのには納得がいく。
「理由はわかった。けど、そんなに変わるもんなんだな」
「うん。前は一週間に二回とか多くて倍くらいあったりしたけど、今週なんて一回もないし」
「実際数字で聞くと確かにすごいな。というか毎週告白されてたんだな」
「結構困るんだよね。私は付き合う気がないから、でもあっちは真剣に告白してるわけだし、断るにも少しは罪悪感が湧いちゃって」
朱莉は、あはは、と苦笑いを作りながら頬を掻く。朱莉のことだから相手の好意の気持ちには毎回真剣に答えてきたのだろう。その心労は想像では測れないのかもしれない。
そこでポテトをパクパク頬張っていた陽菜が口を開く。
「でもそんなに告白されてたらいい人もいそうだけど。付き合おうとか考えたことなかったの?」
「なかったかな。あまり恋愛とか興味もなかったし」
いつも通りに振る舞っているが朱莉の声のトーンが少しだけ下がった。気にするって程でもないだろう。実際周りに気にしているものはいない。ただ朱莉の昔の話を聞いている尊にとっては会話の内容的に見過ごすこともできなかった。告白で昔の友人たちと疎遠になった朱莉が気にしていないはずがないからだ。
「まあ、それはそうと文化祭だな。勘違いする男子はいないと考えて、他に何か案とかあるか?」
さり気なく話題を修正する。不審に思っているものも特にいない。
「いいんじゃないか。普段と違う環境なら変化もありそうだし」
「私もいいと思うよ」
「あたしは面白ければ何でも」
「また奈月は……。あ、私も賛成だよ」
皆から反対の意見も無かったことに尊は安堵する。
「それでどうだ鳴海は。本人が嫌なら無理はさせないけど」
「さっきも言ったけど方法としてはいいと思ってるしやってみるよ」
「そうか。とは言っても高校最初の文化祭だし、そんなに深く考えず楽しんでいこうか」
尊の言葉に皆それぞれの反応を返す。
高校の文化祭とあって皆いろいろと期待もあるのだろう。今までこういった行事に積極的ではなかった尊も正直楽しみにしていた。
皆各々が文化祭について楽しみにしていることなどを話、時間はあっという間に過ぎていった。




