53話 カップル限定
列に並び三十分ほどが経過したころ尊たち順番が来た。
「へー、すごいな」
メニューの豊富さに尊は感嘆の声を上げる。
一般的な苺やブルーベリーを使ったものや、ツナやコーンなどを使ったサラダ的なものまで、専門店だけあって今まで見たことないほどの数多くの種類が並んでいた。
「ほんとね。ちょっとこれは選ぶのに時間掛かるかも」
朱莉もここまでたくさんの種類を見るのは始めてなのか嬉しそうに目を輝かせていた。
そんな風に悩んでいる尊たちを見て店員の女性が話しかけてきた。
「もしお悩みでしたらこちらのクレープはいかがですか?」
店員が後方にあるポスターに手を向けるので二人は揃って顔を上げる。そしてポスターに書かれていたのは――。
『カップル限定!期間限定クレープ!』
ポスターの文字を読んだところで二人は動きを止めた。顔には出さないが二人とも困惑しているのがわかる。
だが、そんな二人のことなど知る由もなく店員の女性は話を続ける。
「こちらカップルの方に大変人気のクレープになっています。お値段もクレープ二つで一つ分の値段になっております」
二人のことを恋人同士だと勘違いしている店員はとても人当たりがいい笑顔を向けてくる。
店員の話を半分聞き逃していた尊だが次第に意識がはっきりしてきた。
(流石にカップルはな……)
大分お得なようだが恋人同士でもないのに頼むのは躊躇われる。何より恥ずかしさがでかい。
尊は誤解を解きつつ違うクレープを注文しようと口を開く。
「あ、すみません俺たち――」
「はい。ではその限定クレープをお願いします」
尊の言葉に被せるように朱莉が口を開いた。
ぎょっと尊は横を見ると頬に力を入れ表情を保とうとしている朱莉がいた。朱莉も自分が何を言っているのか自覚はあるのだろう。
「はい!カップル限定クレープありがとうございます!」
朱莉の言葉を聞くと店員は元気よく厨房へオーダーを口にするので、当然店内に声は響き渡り尊たちは注目を集める。
並んでいたよりも多くの視線を集め尊は恥ずかしさで逃げ出したかった。
(これはきつい……)
好奇の目を向けてくるものや微笑ましいものを見るような目までもう針の筵だ。
朱莉は朱莉で限界のようで目を白黒させて顔を真っ赤にしている。もう頭から湯気が昇りそうなほどに混乱していた。
(どうして鳴海が一番テンパってんだ)
この状況を作った張本人が一番困惑しているので尊は目を細める。
そして、自分よりもテンパってるものを見ると不思議と落ち着いてくるもので、尊は次第に冷静さを取り戻してきた。
「おい、鳴海何のつもりだよ」
黙っていては視線が気になるのでこの状況の説明を朱莉に求めた。
だが、朱莉は未だ混乱していて頭が回っておらず――。
「え?え?何が?」
「何がってな……」
目をくるくる回している朱莉に今何を言っても意味がないだろう。
動物園の動物にでもなった気持ちで商品が運ばれてくるまで、ひたすら人の視線に晒されることになった。




