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48話 隣人がマッサージをしてくれるらしい

 学校内で尊は声を掛けられることが増えた。


 原因はわかりきっている。

 髪を切り身だしなみに気を付けるようにしたら、尊の見た目は大きく変わった。


 元々整った顔立ちだったが長い前髪がそれを隠していた。

 尊自身かっこよくなった自覚は無かったが友人たちのお墨付きも貰っているので間違いは無いのだろう。


 ただ、今まで極力人と関わらないようにしていたため尊の疲労はピークとなっており――。


「あー……」


 尊は自宅の机に突っ伏し低い声を漏らしていた。


「お疲れみたいね。平野君」


「あー、そうだな……」


 返事をし上体を起こす。

 朱莉が眉根を下げこちらを気遣うように声を掛ける。


「もし疲れてるならもう休む?それなら私も帰るし」


「疲れてはいるけど別に眠くはないしな。なんだろう。ずっと緊張しっぱなしだったから身体が固まってんかな」


 尊は肩を回したりして身体を動かしてみる。確かに気持ち動きに違和感があるかなと思うくらいには身体が硬くなっていた。


「人に見られるってやっぱり大変なんだな。鳴海はすごいよ」


「私の場合は昔からだったからもう慣れちゃったわ」


 鳴海は肩を竦め苦笑する。

 慣れたとはいえずっと見られるような生活を送ってきたのだから、現状同じ立場の尊としては尊敬する。

 尊は今度は首を回す。いろんな箇所をほぐそうとする尊を見て朱莉は口を開く。


「そんなに辛そうならマッサージしてあげようか」


「……え?」


 首を回す態勢で尊は口を開けて固まる。

 脳が何を言われたのか理解しようとしない。いや、理解はしてるが現実離れしていて頭が追い付かない。


 そんな尊を見て不満げに眉尻を上げる朱莉。


「え、じゃなくて、マッサージしてあげようかって言ってるの」


「マッサージって……鳴海できるのか?」


「やったことは無いけど、こう身体押したりすればいいんでしょ。それならできる」


「いや、マッサージ師の人たちに謝れ。そんな簡単じゃないだろ」


 両手を広げて前に押すような動作をする朱莉に訝し気な顔を向ける。

 実際簡単じゃないだろう。どこを刺激するのかも変わってくるし力だっているはずだ。


 その点を配慮したとしても問題はあり――。


(マッサージって鳴海が俺の身体触るってことだよな……いや、ダメだろ)


 一瞬いいかもしれないと思ったがなけなしの理性がギリギリで踏みとどまる。

 だが、尊にマッサージなどできないだろうと否定されたことで朱莉の負けず嫌いな部分が顔を覗かせた。


「む。マッサージくらい余裕でできるから。証明してあげるからほら、そこに俯せになって」


 少しムキになった朱莉が床の一角を指さす。


「いや、別に疑ってるわけじゃなくてだな……」


「ならいいでしょ。ほら早く」


 こちらの意見などどうでもいいといった様子で朱莉は再び床を指さした。

 こうなっては梃子でも動かないだろう。尊は渋々椅子から立つと床に俯せで横になった。


「よし。じゃあ始めるよ」


「なあ、別に肩を揉むとかでもいいんじゃないか」


「平野君全身ガチガチになってるんでしょ?ならこっちの方がいいでしょ」


 最後の抵抗に逃げの案を提案したが却下された。

 さり気なく全身など口にするので尊は更に身体を強張らせる。


(全身って……どこまでマッサージするつもりだ)


 期待半分不安半分の気持ちで尊は肩越しに手を開いて閉じてを繰り返して準備運動をしている朱莉を見た。その表情は嬉しそうに高揚しているので朱莉が楽しんでいるのがわかる。


「では、失礼します」


 言うと朱莉は尊の上に跨った。


「っ!」


 尊は身体を強張らせる。朱莉の重みと感触を直に味わってしまい脳が沸騰しそうなほど体が熱い。


(普通に乗っかってきたなこいつ。恥ずかしくないのか)


 チラッと朱莉の顔を窺うがそんな素振りは見せない。もうマッサージをすることに集中しているようだ。


 ここで指摘すれば恥ずかしがった朱莉がマッサージを止める可能性があるが――。


「………」


 尊は逡巡し指摘を止めた。今現在身体に掛かっている朱莉の温もりの心地よさに尊の理性は負けた。


(まあ、朱莉もしばらくやれば満足するだろうし。それまで我慢だ。うん)


 自分に言い聞かせるように言い訳を並べ、尊はそこで考えることを止めた。


「それじゃあ背中からいくね」


 朱莉は尊の背骨に親指沿わせ力を入れ始めた。


「お……」


 それだけで予想以上に気持ちよく尊の口から声が漏れる。


(あ、これいいわ。思ってたより全然気持ちいい)


 尊の反応に気分を良くしたのか朱莉が嬉しそうに笑う。


「どう?気持ちいいでしょ」


「ああ、すごくいいなこれ。疲れが抜けていくみたいだ」


 実際に疲れが抜けていくような感覚に尊は身体を弛緩させる。もう身体は完全に朱莉に許した状態だ。

 身体の力が抜けると今度は睡魔に襲われ始め、心地よい重みと感触を感じながら尊は意識を手放していった。

 お読みくださりありがとうございます。


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