43話 隣人と学校で会話するために
自分の教室に戻ってきた尊を待っていたのは朱莉のクラスと似た様な反応だった。いたるところから視線が飛んできて、会話の中には「誰だあれ」など尊と判断ができてない生徒もいる。
(無理もないわな。自分でも変わったと思うし)
もはや別人と言ってもいいだろう。無造作に伸びていた髪を切り、滅多に使わないワックスまで付けている。制服もきっちり第一ボタンまで留めてたシャツの首元を開けて着崩していた。普段からクラスでも目立たないようにしてきた尊に気づけるものはそう多くない。
「お、尊。帰ってきたか」
「あ、みーくんおはよーっ!やっぱりいいね、その恰好!」
「ねー、あたしもここまで化けるとは思わなかった!」
「おはよう平野さん。その……平気そうだね」
尊の帰りを待っていたように四人が声を掛けてきた。おはよう、と軽く手を上げ挨拶を返す。
「鳴海さんの反応どうだった?」
「すごい驚いてた」
「だろうねー。言わなければ全然尊だとわかんないし」
「でもすぐに俺ってわかったみたいだぞ」
「え?そなの?流石朱莉」
感心するように頷く奈月。
とりあえず出だしは成功のようだ。
「ありがとう皆。本当に感謝してる」
「別にいいって。俺も何かしないととは思ってたしな」
「うん。そんなに感謝してくれるなら今度クレープでも奢って」
「あたしは楽しかったしこんないいものまで見れたから逆に感謝かな」
「平野さんのお役に立ててよかったよ」
感謝をしてもし足りない。それほど今回はみんなに世話になった。
隼人には行きつけの美容室を紹介してもらいそこで髪をカットしてもらい。女子三人には服の指導をあれこれ叩き込まれた。髪のセットもみんなでああでもないこうでもないとたくさん考えてもらった。
そのかいもあり今の尊はどこに出しても恥ずかしくないほどに仕上がっていた。
「でも……本当にイケメンになったな」
「イケメンとかは恥ずかしいからやめてくれ」
「いやマジだって。顔がいいのはわかってたから当然なんだろうけど」
「うん。みーくんマジイケメン!超イケメン!」
「やめろって言ってんだろ」
陽菜が調子に乗り始めたので軽く睨んで黙らせる。
「わあ、顔がいいと睨んでも絵になるね。尊前まで目元が隠れてたから気づかなかった」
「ねえ、ちょっとドキッてしちゃった」
奈月と沙耶香まで尊を褒め始める。半分揶揄っているんだろうが今まで褒められたことのない方向で褒められるので背中がムズムズする。
「それで?これからどうすんの?」
揶揄うのはここまでと真剣な表情で隼人が口を開く。
「とりあえず出だしは十分だと思う。十分インパクト与えたみたいだし」
「まあ、クラスの様子見るに最高の出だしだろうな」
ニヒルな笑みを作り隼人は教室中を見渡した。生徒の顔からは一様に困惑が色濃く表れている。
「噂の上塗りも多少はうまくいっただろうけどまだ駄目だ。根本的な部分を解決しないと」
「鳴海さんと普通に会話するってやつ?」
「ああ、今の鳴海は学校では特別な存在だからな。今回はそれが原因でここまで大事になったんだ。ならその部分を解消すればいい」
拳を硬く握り口調を強くする。
「鳴海が普通に友達と話せる環境を作る。これが最終的な目標だ」
「なるほどな。そのための事前準備で尊のイメチェンとわけだ」
「ぱっとしないよくわからん奴がいきなり鳴海に話しかけに行っても余計な火種になりかねないからな。なら文句が言えないほどのイケメンがいけば問題ない」
「みーくん自分でイケメンって言った」
「……多少顔が整ったやつなら問題ない」
「言い直しても遅いって尊。皆少し笑ってるし」
奈月の指摘通り隼人たちは兎も角沙耶香まで少し噴き出している。
咳を一つ吐き話を戻す。
「兎に角!これからやることは単純だ。鳴海と会話し普通の友達として普通の学校生活を送る」
簡単に見えてこれが一番難しいことは尊にもわかっている。でも他に方法もない。
尊の言葉に皆も強く頷く。
「ならまずは――」
これからの行動に付いて尊は皆に説明を始めた。




